33時間目:本当に7歳本当は何歳
11月も半ば。その日もティルはエリンと下校し、別れた。
「ばいばい、エリンちゃん」
「ティルちゃん、明日ね!」
その後、動く歩道から降りたティルは、両手の指を見つめる。
(うーんと、美味しくない実を食べたのが、本当の7歳でしょ?)
右手の指は全て折り、更に、左手の親指と人差し指を折る。
(皆にイテラリピティのこと言って変な目で見られた年)
左手の中指を折る。
(そして、何年もイテラリピティで初等部1年生やったよね)
左手の薬指、小指を折る。
(あ、指足りない)
ティルは、拳になってしまった両手を開く。
(ま、いっか。でも、私本当は何歳なんだろう?明後日7歳になるけど)
ティルのため息が、ラーナー家の玄関前に消えていった。ティルは、「美味しくない実」が成っていた綺麗な蔓植物が生えていた所あたりを数秒見つめた後、玄関をくぐった。
「ただいま!」
いつもは、ノエルが「おかえり」とすぐに言ってくれるのだが、この日は、リノの泣き声がそれの代わりだった。
「リノ!」
ティルは、リノの元へ。すると、ノエルがリノのおむつを交換しようとしているところであった。
「ティル、おかえり」
ようやくノエルからの迎えの言葉をもらったティルであったが、一目散にリノの元へと行った。
「リノ!おむつ?」
「そうよ。ティルは、手を洗ってきなさい」
「うー、うん!!」
洗面所へ行こうと踵を返したティルの背中を、ノエルの呪文が追いかけた。
「チアエンメ、ビイオ。リノのおむつ」
ティルは、振り返ってリノのおむつ交換を見届ける。リノの腰から太ももは光に包まれ、ノエルの持っていた新しいおむつがその光の中に吸い込まれる。しばらくすると、光は落ち着き、おむつ交換は終了した。
「う、手、洗って来なきゃ」
洗面所にてティルは、手を洗いリノの元へと戻った。すると、リノはうとうとし始めていた。
「リノ、気持ちいいみたい!」
「そうね。7年前のティルも、こんな感じだったのよ?」
(7年じゃないけど、7年なんだよね)
「そうなんだ!!」
元気に返事をするティルの髪の毛を、ノエルはなでなでしてくれた。
「本当に、大きくなったわね、ティル」
「えへへ」
ティルはノエルに身を委ね、笑った。しかし、ノエルの手はすぐ止まった。
「お母さん?」
「フレンツェルさんから」
そして、ノエルは、そこにいない人物との会話を始めた。
「ラーナーです。お世話になってます」
ノエルはしばらくの無言の後、目を丸くする。そして、一瞬ティルの方向を見て、部屋を出て行ってしまった。
「お母さん?なんだろ?」
ティルは、ノエルを追いかけようとしたが、ふっと目に入ったリノの寝顔に夢中になる。
「後で話は聞こう。リノ、かわいい」
少しした後、ノエルはティルとリノの所に戻ってきた。
「エリンちゃんのお母さん?お父さん?何?」
「お母さんからだったわ。ううん、何でもないわ」
「えー?」
ノエルは、そのティルの声を聞きながら、台所へ行ってしまった。
「ま、いっか!リノ、いい夢見てる?」
再び、ティルはリノの寝顔を見るのに専念した。
それから、2日後。いつものようにティルは登校するが、エリンがそわそわしていた。
「エリンちゃん?おはよう」
「わぁっ!ティルちゃん、おはよう!!」
エリンは、ビクッとした。
「びっくりさせちゃった?エリンちゃん?」
「なんでもないよー!!」
そそくさとエリンは自らの席に行ってしまった。
「なんだろ?エリンちゃん」
その日の授業は、いつものように終わり、いつものようにティルは、エリンと下校しようとした。しかし、エリンは、一目散に帰って行ってしまった。
「ええ?ま、いっか」
1人での下校となったティル。時折風が冷たく頬を刺してきた。
「うう、寒い。もうすぐ冬だなぁ」
自宅へと入ると、ほぼ同時にグレゴリオが現れた。ティルとグレゴリオは同時に「ただいま」と声を揃えた。
「おかえり」
リノをその胸に抱いたノエルが迎えてくれた。それから、夕飯までの時間をティルは2階の自室にて過ごす。そんな中、1階からグレゴリオでない男性の声が。
「ごめんください」
ティルは、自室から出て、その男性とノエルの会話を聞いた。
「いらっしゃい、フレンツェルさん」
「先日、ご連絡したものです」
「ありがとうございます。エリンちゃんにもよろしく言っておいてください」
「はい。では、お邪魔しました」
「いいえ。お気をつけて!」
(エリンちゃんのお父さん?)
そう、訪ねて来たのは、ユリウスであった。ティルは、階段を降り始めたが、グレゴリオが来た。
「どうした?ティル」
「え?エリンちゃんのお父さん来たんでしょ?」
「もう帰ったよ」
「何か持ってきたの?」
「後で見せるから。部屋でゆっくりしたらいいよ」
「う、うん」
ティルは、グレゴリオに抱き上げられ、部屋に戻された。退出していくグレゴリオの背中を見送った後、ティルは言った。
「なんだろ?ま、いっか!」
そうして、夕飯の時間が来た。ティルが食卓につくと、グレゴリオとノエルは目を合わせて「せーの」と言った。そして、こう唱える。
「ビウオエンネ。チオエンメ、ピエレエ、アエンネ、エンネオ。お誕生日おめでとう!ティル!!」
2人の魔法は、空間に誕生日を祝う文言を象る風船を浮かび上がらせ、蝶々や小鳥の幻影を生み出す。更に、きらびやかな装飾が部屋いっぱいに飾られた。そして、台所から白い箱が浮かんで移動して来る。
「わぁー!ありがとう!お父さん!!お母さん!!」
そう声を上げたティルをリノはつぶらな瞳で見つめた。
「そして、リノもね!」
ノエルは、台所から移動してきた白い箱を開ける。すると、豪華なケーキがお目見えした。ティルは声を上げる。
「凄い!ケーキ!!」
「そうよ?フレンツェルさんが作ってくれたのよ?」
「いい友達を持ったね?ティルは。エリンちゃんがユリウスさんに『作って』って言ってくれたんだよ!」
「エリンちゃんが?」
ノエルは、微笑みながら小さな紙をティルに渡した。
「ケーキの箱に、これ入ってたわ」
それは、エリンからのメッセージカードだった。「お誕生日おめでとう!ティルちゃん!!」と書いてあった。
「エリンちゃん!!」
そして、ケーキの上に、火のついたろうそくが降ってきて刺さった。それをティルは思いっきり吹き消す。グレゴリオとノエルは一層優しく明るい笑顔になった。その後、ノエルが取り分けたケーキをティルは頬張る。
「んー!美味しい!!」
ひときわ甘い刺激がティルの舌を包んだ。
(エリンちゃん、ありがとう!)
それから、ティルはノエルの作ったごちそうも口にする。どれも美味しく、ティルは終始笑顔だった。そんなティルをリノ含めた家族は、明るい表情で見守った。
やがて誕生日会は終わる。食後、ティルはこう言った。
「ねぇ、ケーキの箱ちょうだい」
「どうするのよ?」
「部屋に飾る!」
「そう、いいわよ」
ノエルからケーキの空き箱を受け取ったティルは、エリンからのメッセージカードをその箱に入れた。そして、自室へと向かい、本箱の上に飾った。
(エリンちゃん、凄く嬉しいよ)
ティルは、その箱をしばらく見つめた後、照明を落とし、就寝した。
翌朝、目を覚ましたティルの目に、ケーキの空き箱が映る。自然と口角が上がる。
(今日は、エリンちゃんにお礼言う!)
その後の朝食の場で、グレゴリオが言った。
「今日は、エリンちゃんにケーキのお礼言うんだよ?」
「うん!」
そして、ティルは登校して行った。教室に入ると、まだエリンは来てなかった。しかし、間もなくエリンが来る。
「エリンちゃん!」
ティルは、一目散にエリンに駆け寄った。
「エリンちゃん、お誕生日のケーキ、美味しかった!カードも嬉しかったよ!」
「わー!よかった!!」
「ありがとう!エリンちゃん、大好き!!」
「私もティルちゃん、大好きだよ!!」
ティルとエリンは、両手を繋ぎ、ピョンピョン飛んだ。
(今は、6歳に戻っちゃう事忘れよう!3月までの7歳、楽しもう!!)




