32時間目:がんじがらめの歌練習
ティルが居眠りした日の翌々日。学校では健康診断を兼ねた身体測定が行われた。ティルは、初老の男性医師にこう言われた。
「うん、身長は、123センチだね。一学期より3センチ伸びた。大きくなったね。体は元気そのもの!大丈夫だよ」
「ありがとう、先生」
ティルは、医師にこう声をかけ、自らの席に戻る。
「123センチかぁ」
(それでさ、三学期には125センチに伸びて終わり!!)
その後の授業は、音楽。モニカは言った。
「はい、来月の学習発表会の1年生の出し物は、正式に合唱に決まりました。今日から音楽の時間は歌の練習をします」
そして、歌う曲の楽譜が渡される。ひなぎくを合唱曲として編曲したものだった。ティル達は、口々に呟いた。
「『ひなぎく』だ」
(やっぱり!これから、パート分けだね)
児童達の呟きの中、モニカの指示が出された。
「さて、今日は、パート分けをします。皆さん1人1人の歌声を聴いてパートを分けます。今日は、校歌を歌ってください」
そして、モニカは唱えた。
「エッセティエーレウ、エンメエエンネ、ティオ。小さなピアノ」
すると、モニカの教卓に、小型のピアノが現れた。そして、モニカは児童を指名し、その児童に校歌を途中まで歌わせる。また、歌声を聴いて、児童が高音部か低音部のどちらに向いているか判断し、担当パートを告げる。
「はい、次はティル・ラーナーさん」
「はい」
「エッセウオ、エンネオ。メビラ学園校歌」
モニカの魔法で演奏される小型のピアノの音色に合わせてティルも途中まで校歌を歌う。
「あなたは、高音部ですね」
「はーい」
(わかってたよ、先生)
次々とパートが分けられていく児童達。エリンも高音部に振り分けられた。
(エリンちゃん!また一緒!!)
その後、ハワードも高音部に振り分けられる。
(ハワードくんもだったよね)
そうして、全員のパートが決まり、それを受けてハワードが学級委員長として言った。
「お客さんに、楽しんでもらえるように、頑張って歌おう!」
「はーい」
ティルは、他の児童と共にそう返事した。
その後放課後になり、エリンと下校して行くティル。
(前のイテラリピティでは、フェリシアちゃんとも帰ったんだよね)
「ねぇ、エリンちゃん、合唱、同じ高音部でよかった!」
「うん!」
エリンは、ニコニコしてこう言った。
「ね、歌って帰ろ?」
「そうだね!!」
そうして、涼しさが混じる風に、ティルはエリンとひなぎくのメロディーを乗せた。
「ティルちゃん、上手だったよ!私、まだまだだね?練習しなきゃ」
「えー、私、エリンちゃんのひなぎく好きだよ?」
「えっ!そう?ありがとう!!」
(私より、聖歌隊のお父さんがいるフェリシアちゃんの方が上手だと思ってるけどね)
後日の事だった。ハワードが帰りの会にて提案した。
「これから、放課後少しの時間、合唱の練習をしないか?」
その提案に、賛同の声が上がった事から早速この日、教室で歌の練習をし始めた。児童達が思い思いに歌う中で学級副委員長の男子児童が、こう言った。
「高音部パートと低音部パート1人ずつ選んでさ、2人1組とかで歌ってみない?」
ハワードがそれに返した。
「それは、いいな。1日何組ずつかでやろうか」
そして、ランダムに児童が選ばれる。この日は、ティルとフェリシアの他、数人が選ばれた。最初に男子児童の組が歌う。ティルは、呟いた。
「なんか、いいなぁ」
それからもう1組の男子児童の組が歌い、次にティルの番が来た。高音部のティルの低音部の相手は、フェリシアだった。
(ハワードくんに、ちゃんとしてるって思ってもらうためには、上手く歌わなきゃ)
そうして、ティルとフェリシアは前に出てひなぎくの合唱を披露する。児童達は、その完璧なハーモニーに、驚きを隠せなかった。
(やっぱり!フェリシアちゃん、上手!!)
歌い終わると、自然に拍手が。ティルは思わずフェリシアにハイタッチをしようとするが、フェリシアはふいと自らの席に戻って行った。
(フェリシアちゃん?)
ティルは首を傾げた。そんな中、ハワードはこう言った。
「1日目で、手本みたいな組が出たな。メンデスさんは、さすが聖歌隊のお父上がいる人だ。ラーナーさんは、歌が上手だったんだな。見直した」
「ありがとう、学級委員長」
ティルはそう返した。一方、フェリシアも小声で返した。
「ありがとう」
それからもう1組女子児童の組が歌い、この日の自主練習は終わった。ティルは、エリンと下校するが、エリンは少し不機嫌だった。
「エリンちゃん、どうしたの?」
「メンデスさん、なんか嫌」
「え?」
ティルは首を傾げる。すると、エリンはこう返す。
「だって、ティルちゃんを無視したじゃん」
「あ、そうだったね。何だったんだろう?」
翌日ティルが登校すると、エリンがフェリシアと話しをしていた。そして、エリンは話し終わるとティルの姿を見てティルの所へと来た。
「エリンちゃん、おはよう」
「おはよう、ティルちゃん」
「メンデスさんと、何話してたの?」
「昨日の事」
(あ、話したんだ)
「メンデスさん、ティルちゃんが歌が上手だったから、かなしくなっちゃったんだって」
「ええ?」
「メンデスさん、ティルちゃんより上手に歌えないって、お父さんが聖歌隊にいるのに、警察官の家のティルちゃんより上手な歌が歌えないって」
「そうだったんだ」
ティルは、フェリシアへと視線を移した。すると、モニカが来て、朝の会が始まる。ティルはエリンと共に自らの席についた。
(フェリシアちゃんと話す?話すんだったら、何を話せばいいんだろ?)
短い朝の会の最中、ティルは心ここにあらずという様子であった。それから1時間目の授業が始まるが、引き続きティルは上の空。
(あー、上手に歌うんじゃなかった。でも、下手に歌ったらハワードくんがまた怒りそうだったし。もー、どうすればよかったんだろ?)
フェリシアは、ティルの後ろの席。フェリシアの様子は窺い知れなかったが、ティルは決めた。
(うん、話そう。1時間目が終わったら、フェリシアちゃんと話そう、きっと、フェリシアちゃんにとって私、嫌な人になっちゃうけど)
1時間目が終わる。モニカは瞬間移動にて教室から姿を消した。ティルはすっと立ち上がる。そして、フェリシアの元に行った。
「メンデスさん」
「な、何?」
その様子を見たエリンもティルとフェリシアの元へ行く。
「昨日、メンデスさんと歌えて私、凄く気持ちよかったよ」
「ラーナーさん、歌、上手だったもんね」
「そ、そうかもだけど、で、でも、学級委員長褒めてくれたじゃん?メンデスさんも上手だったよ!」
フェリシアは、ティルからふいと目をそらす。エリンは口を尖らせた。
(わー、変な雰囲気になっちゃった)
その時だった。近くに座っていたラインハルトが声をかけてきた。
「昨日の主役達が、穏やかじゃないね。歌の上手さで張り合うような話なんて」
ラインハルトは立ち上がり、ティルとフェリシアの間に立つ。
「僕は、昨日の2人の合唱、とても感動したよ。きっと、君達だったからあんなに素敵な合唱になったんだと思うよ?」
フェリシアは、ラインハルトを見つめる。
(ラインハルトくん、ありがとう)
ティルはそれを受けて言った。
「そうそう!それに、低音部って歌いづらそうなのに、メンデスさん、全然そんな感じじゃなかったよ?」
フェリシアは、再びティルを見た。そんなフェリシアを見ながら、ラインハルトは言った。
「そう言った意味では、ラーナーさんより、メンデスさんの方が歌が上手なんじゃないかい?」
フェリシアの目が潤み始める。
「お父さんに教えてもらったから、ここのクラスで一番上手に歌いたかったのに、ラーナーさんも上手で、私、自信なくしちゃったの」
「そうだったんだ。メンデスさん」
「僕も低音部だから、メンデスさんをお手本にしようと思っていたんだけど。そのくらい上手だよ?メンデスさん、自信を持っていいよ」
フェリシアは、ポロっと涙を落とした。エリンは言った。
「マラブルくんもこう言ってる事だし、自信持ってよ!メンデスさん!!」
「うん」
「でも、ティルちゃんを無視した事、謝ってよ」
「エリンちゃん!私の事はいいよ!!」
「ティルちゃん、それじゃ私がモヤモヤするの!」
フェリシアは、ティルとエリンを交互に見て、頭を下げた。
「ごめんなさい、ラーナーさん」
「いいの!学級委員長も言ってたけど、私とメンデスさんで皆のお手本になろう!!」
「うん!!」
そうして、宣言通りにティルは高音部の、フェリシアは低音部の手本となり、クラス全員の歌のレベルを上げていった。
その後、開催された学習発表会で披露された初等部1年3組の合唱は、その日一番の歓声を浴びたのだった。
「やったね!メンデスさん!!」
「うん!ラーナーさん!!」
披露し終わったティルとフェリシアは、ハイタッチをした。
(学習発表会、終わったー!けど、歌はもういいよー。次のイテラリピティでは、演劇やりたい。ちっちゃな役で出たいな)




