30時間目:そばにいたいのに
夏休みは、この日で終わる。夕飯を終え、あとは就寝するだけという時間となった。夕飯の片付けが終わったノエルは声を上げた。
「まだ部屋に行ってなかったの?ティル」
まっさら状態の食卓に座るティルは、短く答えた。
「うん」
「今日は、早く寝なさい」
「やだ」
「もう。夏休みが終わっちゃうの、嫌かもしれないけど、明日寝坊しちゃうわよ?学校遅刻したらどうするの?」
「うー」
ティルの顔は膨れた。しかし、観念してこう言った。
「わかった。寝る」
「いい子ね。おやすみ」
「うん、おやすみ」
ティルは、自室の寝床に入り、天井を見つめる。
(学校、行きたくない)
一旦寝返りをうち、机の方を見た。
(結局、お父さんに買ってもらった問題集も終わらせちゃった。何回も間違って楽しかった。だけど、学校はそんな事簡単に出来ないよ)
ティルのため息が、部屋に消えていく。その部屋は、ティルによって照明を落とされ、暗くなった。
「うー、寝よう」
暗がりの中、ティルは目を瞑るが、なかなか寝つけなかった。
(やっぱり、学校行きたくない!エリンちゃんと会えるけど、学校行きたくない!!)
ティルは、ムクッと起きた。
(リノ!)
部屋を出て、ティルは寝静まった両親の部屋に入る。そこには、リノも寝ている。
(うー、あんまり姿見えないけど、リノ、明日までここにいるよ!!)
そして、ティルはリノの寝床の横に座り、リノが放つ不規則な光をずっと見つめていた。
(リノ、勉強より、リノ。だって、4月になったら、また夏休みまでお別れだもん。本当は、1秒だって離れたくないんだよ)
ホワンとリノは光る。
(この光を、ずっとずっと見てたいよ。リノ)
ピカピカとリノは光る。
(リノ、大好き!!)
翌朝。ティルが目を開けると、自室の寝床にいた。
「え?えっ!えっ!!何で?」
飛び起き、ティルは寝間着のまま部屋を飛び出した。台所に行くと、ノエルが朝食を作っていた。
「何でっ?」
朝の挨拶より先にティルの口から出たのは、そんな一言だった。振り返るノエル。そこを通りかかったグレゴリオが言った。
「ティル、何で僕とノエルの部屋に昨日の夜来たんだい?」
「えっと、リノと一緒にいたかったの!」
「びっくりしたわよ。リノにお乳をあげようと思って起きたら、ティルが床で寝てるんだもの」
「ね、寝ちゃったんだ」
グレゴリオはしゃがみながらこう言った。
「あんな所で寝たら、風邪引くよ?学校休まなきゃいけなくなるよ?」
「うー」
(私は、それでいいけど、駄目なんだよね)
ノエルもグレゴリオの脇でしゃがみ、こう言った。
「グレゴリオにお礼言いなさいよ。部屋まで運んでくれたんだから。それが済んだら、制服に着替えて来なさい」
「うー。お父さん、ありがとう。着替えてくる」
「どういたしまして。遅刻しないようにね」
そんなグレゴリオの声を聞きながら、バタバタと自室に行き、制服に着替える。そして、身支度を整えた頃には、朝食が出来上がった。ティルは、グレゴリオと共に朝食を摂る。その隣の部屋で、ノエルはリノの世話をし始める。
(あー、学校行きたくない。けど、前のイテラリピティみたいにしても、駄目だよね)
朝食を口に運ぶグレゴリオをチラと見るティル。
(お父さんに、瞬間移動で学校に連れて行かれたから、今日は、素直に学校行こう。嫌だけど)
ほぼ同時に朝食を摂り終わったティルとグレゴリオ。すると、ティルはこう言った。
「ね!お父さん、今日は学校に連れてって!!」
「え?」
(お父さん、困ってる。だけど、歩きで行ったら途中で帰りたくなっちゃう)
リノの世話が終わり、ティルとグレゴリオの所に来たノエルがそれを聞き、眉間に皺を寄せた。
「ティル?歩けないの?」
「うん、歩くのやだ!」
グレゴリオはため息をつき、言った。
「今日だけだよ?」
「ちょっと、グレゴリオ、ティルのわがままを聞いちゃ駄目よ」
「学校に行かないよりはましだよ」
「確かにそうね。いってらっしゃい」
(ごめんね。お父さん、お母さん。わがままで)
「うん、いってきます!お母さん!!リノ!!」
「いってくるよ」
そうして、ティルは鞄を持ち、グレゴリオに抱きつく。グレゴリオは言った。
「しっかり掴まるんだよ?ティル」
「うん!お父さん!!」
グレゴリオはティルの体をしっかり抱きしめ唱えた。
「ティエ、エレエ、ティエーレア、エッセピオエーレ、ティオ。メビラ学園へ!」
ティルが次に目にしたのは、学校の校門。
「お父さん、ありがとう!いってきます!!」
「いってらっしゃい」
そして、グレゴリオは再び瞬間移動をし、出勤して行った。ティルは、それを見送り校門をくぐる。そんなティルの前には、フェリシアがいた。そんなフェリシアにティルは声をかけようと少し駆け出すが、すぐに足を止めた。
(そういえば、今のイテラリピティで、フェリシアちゃんと友達になってなかった。いきなり声かけられたら、びっくりするよね)
再び、ティルは普通の速さで歩き出した。すると、後ろから声がかけられる。
「ティルちゃん!おはよう!!」
「おはよう!エリンちゃん!!」
すぐに手を繋ぐティルとエリン。笑顔で教室まで歩いて行った。
(なんか、今のイテラリピティ、エリンちゃんとばっかり仲良くしてるなぁ。ま、いっか!)
教室へ入ると、ほとんどの児童達が登校していた。ティルは、エリンと共に他の児童達と挨拶を交わす。先程挨拶を躊躇したフェリシアにも挨拶をしたティル。
「おはよう!メンデスさん!!」
「おはよう、ラーナーさん」
おずおずと挨拶を返すフェリシア。その横をラインハルトが通る。ティルは再び挨拶をする。
「マラブルくん!おはよう!!」
「ラーナーさん、おはよう」
ラインハルトは、ふわっと笑い、挨拶を返してくれた。
(フェリシアちゃんもそうだけど、ラインハルトくんともあんまりおしゃべりしてなかったなぁ)
ようやくエリンと別れ、席に着こうとしたティルに、右斜め前の席にもう既に着席していたハワードが声をかけた。
「夏休みで性根を入れ替えたのか?皆に挨拶するなんて」
「えっ?一学期、そんなに挨拶してなかったっけ?」
(ハワードくん、私の事、じろじろ見ないで!恥ずかしいよ!!)
「まぁ、そんな気がしただけだ。おはよう、今日から勉強とか共に頑張ろう」
「そ、そうだね!頑張ろうね!!」
それから、二学期の始業式が行われる。教室での校歌斉唱の後、黒板に学園長のイヴァンの姿が映る。イヴァンは、こう演説した。
「メビラ学園、正統魔法学部の児童生徒の皆さん、夏休みはどうでしたか?有意義な休みであったことを希望します。さて、今日から一番長い学期の二学期が始まります。皆さんの出来る精一杯の学習を進め、学業にまい進していってください」
そうして、始業式が終わる。モニカは、こう言った。
「さて、皆さんが元気に登校して来た事、先生は嬉しいです!!」
(うー、来たくなかったよー。うー、リノぉ)
ティルは、窓に映る一面の曇り空を見つめる。
(窓見ても、リノはいないよね)
そんなティルに気づく事なく、モニカは、話しを続けた。
「二学期は、学習発表会があります。皆さんの活躍を楽しみにしています!!」
(今回は、歌かな?演劇?それともダンス?)
「皆さんの出し物は、歌の予定です。頑張って練習しましょうね!!」
「はーい」
ティルは、他の児童と共に返事をした。
(また歌かぁ。ひなぎくかな?)
そうして、ティルの二学期は、始まった。




