27時間目:叱られて夏休み
一学期は終業式を迎えた。終業式が終わった後、モニカは、児童1人1人に成績表を手渡しで渡していく。そして、ティルの番が来た。モニカは、こんな事を小声で言いながらティルに成績表を渡した。
「ラーナーさん、放課後、職員室に来てください」
「えっ。はい」
(えっ?何?)
それから、モニカはティルの後の児童にも成績表を渡していった。そして、最後の児童に成績表を渡し終えると、夏休み前の挨拶をした。
「皆さんにとっての初めての夏休みが明日から始まりますね!1ヶ月半、事故のないように楽しんでください!!」
児童達は、「はーい」と元気に返事をする。一方、ティルは生返事。
(えー、何だろう?先生、何の話があるんだろう?)
それからすぐに放課後となった。児童達は皆思い思いに下校していく。そんな中、エリンがティルに声をかける。
「かーえーろ!ティルちゃん!!」
「ご、ごめん。これから職員室に行かなきゃ駄目なんだ!先に帰ってて?」
そう返したティルは、エリンの返事を待たずに職員室へと向かって行った。
「オリーン先生」
そう言いながらティルは職員室に入室していく。そこには、初等部から高等部までの担任達。わずかな女性教諭と大勢の男性教諭がそれぞれの仕事をしていた。その人波の中を縫うようにしてティルはモニカの所に辿り着いた。
「ラーナーさん」
「何ですか?先生」
「単刀直入に言いますよ。早く下校させたいですし」
「はい」
(なんか、先生怒ってる)
「今度の試験、どうしたんですか?変な答案用紙でしたよね?」
(ああ、先生に変って思われちゃった!)
「えっと、えーっと」
返す言葉が見つからないティルの目の前に、ティルが提出した算数の答案用紙が差し出された。
「この問題が解けるのに、この問題が出来ないのはおかしいのではないかと思っています。初めての試験で緊張しましたか?」
「は、はい。緊張しました。それに、えっと、じ、時間がなくて」
「そうでしたか。でも、こんな事を続けていたら、手抜きと思われてしまいます。以後、気をつけてください」
(手抜きかぁ)
「ごめんなさい。二学期の試験は頑張ります」
「そうしてください」
ティルは頭を下げ、それから職員室の出口を目指した。
(難しいなぁ。ちゃんとやったらやったで変だし、わからないふりしたら、手抜きって。うーん、そうだよね)
そうして、職員室を出た。
「うーん。帰ろ」
ティルは、昇降口方面へ足を向ける。すると、後ろからエリンの声。
「ティルちゃん!」
「えっ!エリンちゃん、待っててくれたの?」
「ティルちゃんと帰りたかったから!」
「ありがとう!帰ろ!!」
そうして、ティルはエリンと共に下校していく。その最中、動く歩道に乗った頃、エリンは尋ねた。
「職員室で何の話してたの?」
「えっ。し、試験がボロボロだったから怒られてたの」
「ティルちゃん、そうだったんだ」
エリンは、わずかに首を傾げ、こう続けた。
「でも、幼稚園の時のティルちゃんって先生に怒られた事なかったじゃん?どうしたの?」
「えっ!えー、えーっとね、やっぱり、幼稚園と学校は違うよ!!し、試験なんて初めてだし!!」
「そうかな?」
(エリンちゃん、私もそうかな?だよ。えっと、幼稚園の私ってどんな私だったっけ?うー、こんな事、誰にも訊けないよー!)
「なんだか変なの。ティルちゃん」
(変で大丈夫!エリンちゃん!!)
「あはは、変かも!」
ティルの苦笑いが、エリンに届く。
「なんだかよくわからないけど、先生とか学級委員長に怒られるティルちゃん、私、見たくないなぁ」
「ご、ごめん。ごめんね?エリンちゃん!二学期は頑張るよ!!」
「本当?」
エリンは、ティルの目を覗き込んだ。ティルは、ニッと笑い、こう返した。
「エリンちゃんには約束する!」
エリンは、ほっとした様子でこう言った。
「うん!約束!!」
一転、エリンはキラキラした目で言葉を続ける。
「明日からの夏休み、いっぱい遊ぼうね!」
「うん!それも約束!!」
そうして、ティルはエリンと別れた。
帰宅すると、ティルはノエルに成績表を一目散に渡した。ノエルは、すぐに中身を見て唖然とした。そして、険悪な空気が漂った。
「ちょっと、何?この成績」
「ごめん、お母さん」
ノエルは、ひとつ深呼吸をした。
「帰ってきたらグレゴリオにも見せるけど、怒られちゃうかもしれないわね」
「うん」
夜、グレゴリオは帰宅した。
「ただいま」
ティルとノエルは声を揃え、「おかえりなさい」と言った。更にノエルは言葉を続ける。
「疲れてると思うけど、これ、見て」
ティルの成績表がグレゴリオに渡る。グレゴリオの眉間には、みるみる皺が寄った。
「なんだい?これは。ティル、こっちに来なさい」
「はい、お父さん」
少し縮こまりながらティルはグレゴリオの所へ行く。
「随分成績が悪いね。何してたんだい?この一学期」
「頑張ったよ?」
「でもね、これはちょっと酷いよ」
「ごめんなさい」
グレゴリオは、その右手を柔らかくティルの頭に乗せて言った。
「謝るのは僕じゃないよ。将来のティルだよ」
「将来の、私?」
(そんな、お父さん、将来なんて来ないよ!)
「そうだよ、ティル。このまま落ちこぼれで行ったら、幸せが来なくなるかもしれないからね」
「そう、かも?」
「そう」
「じゃあ、二学期はちゃんとする」
「わかればいいよ」
グレゴリオは、ティルの頭の上の右手を取り払った。
「約束だよ?ティル。僕は応援する」
「うん!頑張る!!」
グレゴリオは、ひとつ深呼吸した後、笑顔になった。
「この話は、ここまで!」
「うん、お父さん」
見守っていたノエルは、柔らかく頷いた。
「じゃあ、夕飯にしようね!ティル!それにグレゴリオ!」
そして、夕飯を経て就寝の時間が来る。
「おやすみなさい。お父さん、お母さん」
グレゴリオとノエルは声を揃え、「おやすみ、ティル」と言ってくれた。その後、グレゴリオとノエルは、何やら話し合いをし始めたようだったが、ティルは自室へと行った。
(今日は、なんだか皆に怒られちゃった。やり過ぎちゃったんだ。駄目だなぁ)
ティルは、鞄から分厚い問題集を取り出す。
(とりあえず、これ、また2日で片付けよう)
夏休みの宿題。何度も見た問題集。それを、机の上に置き、ティルは眠りに就いた。




