26時間目:穴だらけの試験
ラーナー家とフレンツェル家の合同遠足から数日後。その日の3時間目の授業は、算数であった。黒板に、苺が5個、葡萄が3個あり、苺と葡萄は合計何個になるかを問う問題が書いてあった。モニカは言った。
「さて、実物を使って考えてみましょう」
そして、モニカは1人1人の児童の机の上に、薄手の白い紙を乗せていった。それが終わると、モニカの呪文が教室に響いた。
「チイ、ビオ。苺!」
すると、全員の紙の上に5個ずつ苺が出現。それを確認すると、モニカは、再び唱える。
「チイ、ビオ。葡萄!」
今度は、全員の紙の上に3個ずつ葡萄が出現した。
「紙に乗っている苺と葡萄の数を数えましょう!」
その声に促され、ティルはじめ児童達は、「いーち、にー、さん」と数え始め、最後に「はーち」と言った。
「はい!この問題の答えはわかりましたね?」
再び教室に児童全員の「8個!!」という声が揃う。
「はい、正解!8個でした!!このような問題は、試験にも出ますので、よく復習してくださいね。さ!皆さん、苺と葡萄を全部食べていいですよ!!」
それに促され、児童達は、苺や葡萄を頬張った。一方、ティルは、指先が震える。
(あの美味しくない実を思い出しちゃうよ。やだなぁ)
「い、苺と葡萄じゃん。大丈夫、美味しい物だよ」
その呟きの後、意を決してティルは葡萄を口にした。皮ごと食べられる種なしの葡萄は、甘く爽やかな刺激でティルの舌を喜ばせた。そして、ティルは、他の児童と共にこう言った。
「美味しい!」
(当たり前だけどね)
更に、ティルは酸味と甘味のバランスが絶妙な苺も残りの葡萄と共に平らげた。
(あー、でも、思い出しちゃった)
それから、4時間目の授業を経て、給食の時間が来る。
「う、今日はじゃがいも団子にしよう」
そして、ティルはそのじゃがいも団子を自らに取り分ける。すると、1年3組の児童だけでなく、他の初等部1年生の児童達がじゃがいも団子の所に並び始める。
(あ、皆、気づいた?じゃがいも団子の美味しさ!うー、早く食べよ!!)
そして、ティルは適当な席を選び、着席。そして、牛乳を一口飲んだ後、じゃがいも団子を口に放り込んだ。
(んー!美味しい!!)
ふわふわでなめらかな食感のじゃがいも団子からは、しつこくない甘さが溢れてくる。そして、濃厚なソースが、旨みを引き出す。そんな喜びの中、ティルは笑顔になった。
(うん!授業頑張ろう!!)
後日、試験の日が来た。魔法の杖が回収された後、試験が始まる。ティルは自らの名前を書いた後、しばらく解答を書けなかった。そんな様子にモニカは気づき、心配の視線を注ぐ。ティルはそんなモニカの目を何の気なしに見てしまう。モニカは、軽く首を傾げた。
「う」
ティルは小さな呻き声を上げ、答案用紙に向き合う。モニカは安心した様子を見せ、再び別の児童の様子を教卓から見回し始めた。
(わざと間違えたいんだけど、思いつかないよ。思いきって書かないで出したい。けど、駄目だよね?うー、やっぱり全部書いちゃえ!)
しかし、取り掛かりが遅かった事から、答案用紙に空欄を作ってしまった。
(あ、これで満点はなくなった!こうすればいいんだ!!)
それからティルは解答を考えるふりをし、間を空けて解答を書いていく。全教科空欄がちらほらある解答用紙を提出するティル。そんな試験の1日も終了。ティルは、戻って来た魔法の杖を握りしめつつ、自らの机に突っ伏した。そんな様子を見たハワードが声をかけてきた。
「そんなに疲れたのか?」
「う、うん」
「まぁ、不真面目なりに、全力を尽くそうとしたんだろうな」
(全力じゃないよ。あ、違う全力かも)
「で、でも、わかんない所は、書けなかったよ。あはは」
「やはりな。それに懲りたら、これからは真面目に授業を受けるように」
(あはは。ハワードくん、相変わらずだね)
「はい!学級委員長!!」
ティルは、右手を高く挙げ、元気な声をハワードに聞かせた。しかし、思いの外大声になってしまったようで、ハワードはビクッとし、耳を両手で塞いだ。
「そこまで声を大きくしなくても聞こえる」
「あ、ごめん」
一転ティルは小声でそう言い、ペコリと頭を下げた。そこに、エリンが来た。
「ねぇ、学級委員長!ティルちゃんをいじめないでよ!!」
言われたハワードも、庇われたティルも目を丸くする。
「僕は、いじめをしようとはしてない」
「エリンちゃん!私、全然いじめられてないよ!!」
エリンの眉間には皺が寄り、口はへの字になってしまった。ティルの背中には冷や汗。ハワードは左の拳を額に当てる。
「まぁ、言い過ぎたかもしれないな。すまない」
そのハワードの言葉に、エリンの表情が緩んだ。
「もう、いじめないでね!」
「エリンちゃん、ありがとう」
(エリンちゃん。ハワードくんは、頭が固いだけなんだけど、いじめてるように見えちゃったんだね)
エリンは、笑顔でティルの手を引いた。
「ね!ティルちゃん、一緒に帰ろ!!」
「うん!学級委員長、さようなら!!」
ハワードは、手を振ってティルとエリンを見送り、自らも帰宅した。
一方、ティルと共に下校しているエリンは、目を輝かせていた。
「もうすぐ夏休みだね!何しよう?」
「そうだね!」
(9回目の初等部1年生の夏休みだー。本当に何しよう?)
「迷っちゃうよね?エリンちゃん!」
「うん!」
(あ、でもリノがもうすぐ産まれるんだった!また会える!!)




