25時間目:埋め合わせの続き
6月も下旬になった。メビラ学園は、運動会を開催し、その中でティルは、箒リレーに出場した。家族の応援がノエルのみの状況で、ティルはクラスの皆と2位の成績を手にした。
翌日の運動会の振替休日。ティルは、朝、自宅の前でグレゴリオとノエルと手を繋ぎ、輪を作っていた。そして、グレゴリオが唱えた。
「ティエ、エレエ、ティエーレア、エッセピオエーレ、ティオ。メビラ学園へ!」
ティル、グレゴリオ、ノエルの姿は、一瞬にしてティルの学校の前に。ティルは、開口一番にこう言った。
「早く来ないかな?」
「すぐ来るわよ」
「きっとね」
ノエル、グレゴリオは、柔らかい笑顔でそう返した。すると、こちらに向かって来る箒の影が2つ見えた。
「エリンちゃん!」
ティルは、そう声を上げた。呼ばれたエリンは、エマヌエーラの箒に乗り、ティルに手を振る。そして、傍らの箒に乗るユリウスと共に笑顔で降り立った。
「ティルちゃん!」
エリンはエマヌエーラの箒から離れ、一目散にティルの所へ来た。ティルは、エリンと共にピョンピョン飛び、笑顔を交換する。その横で、ユリウスがグレゴリオに声をかけた。
「ラーナーさん、この度は、お誘いいただきありがとうございます」
「いいえ。誘ったのは、娘ですから」
ユリウスは、その言葉を受け、ティルを見下ろした。
「ティルちゃん、誘ってくれてありがとうね」
「うん!」
ノエルはそんなやり取りを見ながらエマヌエーラに話しかけた。
「でも、フレンツェルさん、やっぱり大変じゃないですか?お店、お休みにして」
「1日くらい臨時休業しても大丈夫です。娘の為ですから」
ティルは、エリンの手を取り、こう言った。
「ね!行こ!!」
この日、ラーナー家とフレンツェル家合同の遠足がようやく実現。行き先は勿論、学校の遠足で行く筈であった学園近くの川べりの公園である。子供の足で10分程度かかるその公園までの道を、ティル、エリン、グレゴリオ、ノエル、ユリウス、エマヌエーラの6人で歩いて行く。
エマヌエーラが道中尋ねた。
「お腹の子、大丈夫ですか?」
ノエルは、自らのお腹に手を軽く当て、答えた。
「大丈夫です。今もとっても元気に動いてます」
「あら、それはよかったですねぇ」
一方、グレゴリオは、ユリウスにこう言った。
「いや、むしろこちらは謝らなきゃならないかもしれません」
「え?」
「私の方の仕事の休みがなかなか合わせられなくて、すぐにこの遠足が出来なくて、すみません。エリンちゃんをかなり待たせてしまったなと」
ユリウスは、それを聞いて、エリンを呼ぶ。
「エリン、この遠足、待つの嫌だったかい?」
エリンは、首を横に振った。
「なんだか、待ってる間、楽しかった!」
グレゴリオは、ほっとした様子でエリンに言った。
「そうかい。ごめんね?エリンちゃん。そして、今日は楽しんで!」
「うん!」
そんな会話を楽しんでいるうちに、公園に辿り着く。グレゴリオは言った。
「さ、2人で遊んできな?」
ティルは首を横に振った。
「お父さんと一緒に遊ぶ!それに、エリンちゃんのお父さんも来て!!」
グレゴリオとユリウスは目を見合わせた。そして、2人は笑い、ティルに従う事にした。エリンは、目を輝かせ、ユリウスの手を引いた。
「お父さん!遊ぼ!!」
ノエルとエマヌエーラが見送った父子2組は、追いかけっこなどの遊びをし始める。その後、ブランコに乗る事にした。ユリウスがブランコに座ったティルとエリンにこう尋ねる。
「どれで遊びたい?」
ティルとエリンは、同時に「お花!」と答えた。ティルは笑いながら言った。
「エリンちゃん、気が合うね!」
「うん!ティルちゃん!!」
そして、グレゴリオはティルの、ユリウスはエリンのブランコの鎖にある花の形をしたアクセサリーをポンポン指で叩いた。すると、アクセサリーはブランコ全体を光で包んだ。そんなブランコをグレゴリオとユリウスが揺らす。だんだんティルとエリンの自力で揺らされるブランコからは、ひとつ、またひとつとかわいらしい花が散り始める。
「お花出てきたね!エリンちゃん!!」
「うん、かわいいね!ティルちゃん!!」
グレゴリオとユリウスは、自らの娘の近くで微笑み、ノエルとエマヌエーラは、それを遠くで見守りながら、こちらも微笑んだ。
そうしていると、昼が近くなった。一旦6人は集合。その場でユリウスは、こう言った。
「もし、よろしければ、パンをここで作らせてもらっていいですか?」
その提案を拒否する者はいなかった。それを受け、ユリウスはこう唱えた。
「ピエーレエ、ピア、エーレア、エーレイ!パンを作ろう!!」
すると、どこからともなく出て来た粉と水が螺旋状に絡み合い、混ざる。そして、途中、出現したバターと一緒に捏ねられていく。それから、様々な工程が空中で行われ、ふっくらとした生地が出来上がる。そして、その生地は、いちごジャムを内包し、炎に包まれた。そうして、10分程度で出来上がったジャムパンは、遠足参加者の全員の手元にサッと届いた。
「わー!焼きたてだ!!」
ティルは歓声を上げた。エリンは誇らしげな笑顔を浮かべ、楽しそうに頷いた。
「うん!一緒に食べよ!!」
そうして、皆でパンを頬張った。温もりたっぷりのパンは、香ばしさと甘さを提供してくれた。ティルは、そんな中、ノエルのお腹に話しかけた。
「ね!弟!エリンちゃんのお父さんのパン、美味しい?」
ノエルは、ニコッとして言った。
「美味しいって言ってるわ」
それを聞いていたエマヌエーラもニコッとする。
「ありがとうね。ティルちゃんの弟くんも、うちのパン食べてくれて」
食休みを経て、再びティルとエリンはしばらく遊び、その後、帰路に就く。帰りも、メビラ学園まで歩く。そんな中、エマヌエーラはノエルに尋ねた。
「お腹の子、男の子なんですか?」
ノエルは苦笑いして言った。
「あえてお医者さんには性別を訊いてないんですけど、ティルったら弟、弟って言うんですよ」
「なんだか知らないですけど、かわいいですね?ティルちゃん」
「ありがとうございます」
そうして、メビラ学園に着くと、2組の親子は別れる事に。エリンは一片の曇りのない笑顔でこう言った。
「ティルちゃん!今日は楽しかったよ!!」
「私も楽しかった!エリンちゃん!!」
そのやり取りの横で、親達もこの日の感謝の言葉を交わした。その後、エリンは、ユリウスの箒に乗る。そして、エマヌエーラと共に帰って行った。見送ったティルはいつまでも手を振り続けたが、呟くように言った。
「帰ろ」
それを受け、朝と同じように、ティルとノエルと輪を作ったグレゴリオが唱えた。
「ティエ、エレエ、ティエーレア、エッセピオエーレ、ティオ。家へ!」
自宅に到着したティルは、名残惜しそうに公園の方角を見た。しかし、家に入りながらこう言った。
「今日は、ありがとう!お父さん、お母さん。それに弟!!」
グレゴリオとノエルは、笑ってくれた。ティルは、それを見ながらニッと笑った。
(きっと、イテラリピティで、今日の楽しさ、皆の中から消えちゃうんだよね。でも、今日、今、楽しい皆の顔を見れて本当によかった!)
それから、就寝の時間を迎えた。ティルは、寝床にて暦をふと見た。
(うーん、遠足楽しかったけど、今度の試験、またどうしよう?)




