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23時間目:苛立ちと遠足

5月に入った。1週間後に遠足を控えている中、学校では身体測定がこの日行われた。初等部担当の男性養護教諭が1年3組の教室に回って来た。その30代の養護教諭は元気に声をかけた。


「1年3組の皆さん、5人ずつ教室の前に並んでください!」


 モニカは、養護教諭の助手として動く。対象の児童を並ばせながら、こう言う。


「はい!登録番号順ですよ!!」


 モニカに案内された児童達は、素直に教室の前に並ぶ。きちんと並んだ事を確認すると、養護教諭はこう唱えた。


「エンメイ、エッセウ、エーレア、ゼータイオ、エンネエ。皆の体を測るよ!」


 並ばされた児童達は、養護教諭から放たれた光の糸に頭から足先まで包まれる。数秒で光の糸が消えた後、養護教諭は、児童の名前と身長等をモニカに伝える。それをモニカは記録していった。ティルは、順番を待ちながらその光景をひたすら見ていた。


(なんか、この身体測定ってイテラリピティが起こったばっかりの頃はなかったんだよね。3回か4回前のイテラリピティからやるようになったんだけど、止めて欲しい)


 そんなティルの番が来た。他の4人の児童達と教室の前に並びながら、測定を受ける。そして、養護教諭はこう言った。


「ティル・ラーナーさん、身長120センチ」

「はい、ティル・ラーナーさんは、身長120センチですね」


 モニカは復唱する。ティルは小さくため息をついた。


(あー、また120センチ。折角、三学期に125センチまで身長伸びたのに!もー、やだ)


 そして、身体測定も最後の組が終わり、養護教諭は教室を出ていった。


(ちっちゃくなっちゃった事、何回も知りたくない!!)


 それから、何事もなく授業は進んでいくが、放課後、エリンがティルに話しかけてきた。


「ね、ねぇ?」

「何?エリンちゃん」


 ティルが振り返って見たエリンの表情は、わずかに怯えていた。


「ど、どうしたの?エリンちゃん?」

「え、えっと、ティルちゃん今日、怒ってる?」

「え?」

「ずっと口とんがらせてて、ちょっとこわい」


 ティルは、自らの口を左手で隠した。その後、ニッと笑い、こう取り繕った。


「ご、ごめん。何でもないよ!エリンちゃん!!」

「そう。ならよかった!!」

「えっと、い、一緒に今日、帰る?」

「うん!」


 そして、エリンと共に下校して行くティル。そんなティルは、エリンにこう言われた。


「なんか、ティルちゃんって怒るんだって1日思ってた」

「えっと、怒ってないよぉ」


(怒ってた。エリンちゃん、ごめん。でも、説明出来ないから、怒ってない事にして!)


 エリンは、ほっとした様子でこう返した。


「やっぱり、ティルちゃんは、幼稚園の頃から変わらないよね!」


(エリンちゃん、私は、変わっちゃったよ。でも、でも、言えない!)


「そう、だね。エリンちゃん」

「うん!これからも友達!!」

「うん!友達!エリンちゃん!!」


 ティルとエリンはどちらからともなく手を繋いで帰宅した。


(うー、身長とかの事は忘れよう!そして、来週の遠足で気分変えよう!)


 その遠足当日の朝早く。グレゴリオとノエルは戸惑っていた。


「ねぇ、グレゴリオ、どういう事なんだろう?」

「わからない」

「私の記憶違いじゃなければ、今日の天候予定って1日中、晴れだったわよね?」


 戸惑う両親の視線の先には、窓に映る外の大雨が。運動着に身を包んだティルは、起きたばかりではあったが、グレゴリオとノエルを交互に見る。そんな中で、グレゴリオは言った。


「天候管理庁は、何をやってるんだろう?絶対に何かまずい事が起きている。早めに出勤するしかなさそうだね。食事は要らない、今から出る」

「気をつけて、グレゴリオ」


 グレゴリオは、しっかり頷き、瞬間移動にて出勤して行った。ティルは呟く。


「遠足、どうなるんだろ?」

「私もわからないわ。学校に行くにしても、この大雨では危なそうだし」


 対応が浮かばないまま、時間を過ごしていたが、突如、印刷物1枚が現れた。ノエルがそれを手にし、読んだ。


「学校からだわ。遠足、中止だって」

「ええっ」

「それに、初等部1年生は今日1日はお休みだって」

「嘘」

「困ったわね」

「うん」


(遠足で気分変えられなくなっちゃった。今回は、エリンちゃんのお父さんと遠足行く予定だったんだよね)


「やだけど、仕方ないよね」

「そうね」

「今日は、お母さんと一緒だね」


 ノエルは微笑んでくれた。


(なんなんだろ、この大雨。でも、今日はお母さんとリノと一緒だ)


 それから、ティルは、おやつの時間に遠足で食べる予定だったお菓子を食べるなど、わずかな遠足気分を満喫しつつも、ノエルとノエルのお腹の中のリノとの時間を過ごした。


 夕方、外から聞こえる雨音が、ぴたりと止まった。


「雨、終わった!お母さん!!」

「よかった。どうしちゃったんだろうね?」

「うん」


 それから、グレゴリオの帰りを待ちつつ、夕飯の支度をするノエルをティルは眺めた。すると、そのグレゴリオが帰宅した。


「ただいま」


 ティルは、ノエルと同時に「おかえり」と言った。見上げた先のグレゴリオの髪は、生乾きのようだった。ノエルは、こう声をかける。


「雨に降られたのね?」

「うっかり、雨除けを持って行くのを忘れたからね」

「私も、渡すの忘れちゃったわ。ごめんなさい」

「いや、今朝は急遽出勤したから、無理はないよ」


 ノエルは、一瞬目を伏せたが、すぐにグレゴリオに目線を合わせ、言った。


「お風呂、先に入って?」


 ティルも立ち上がり、グレゴリオの傍に行きつつ言った。


「そうだよ!お父さん!!早く!早く!!」


 グレゴリオは、ティルに手を引かれながらこう返した。


「じゃあ、お言葉に甘えるよ」


 そうして、グレゴリオは入浴しに行った。安心しきった表情で、ノエルは夕飯の支度に戻る。


 やがて、夕飯の時間が訪れる。グレゴリオは、こう切り出した。


「今日の雨は、やっぱり天候管理庁の問題だったよ」

「そうだったの、グレゴリオ。何があったの?」


(難しい話かも。聞くだけにしよう)


「天候管理庁の降雨担当の職員の中で、いざこざがあったらしい。何でも、誰が一番良質な雨を降らせる事が出来るか争っていたそうなんだ」

「そんな、大事な国の機関なのに、子供みたいな喧嘩を?」

「僕も耳を疑ったけど、そうだったらしいよ。で、最下位とされてしまった職員が力を誇示するために、今日、無断欠勤して大雨を降らせたってさ。腹いせもいいところだよ」


(なにそれ)


「こうなると、僕みたいな正統魔法の使い手の出番は無くてさ、後方支援に回ったよ。抗削魔法の使い手の同僚が、問題の職員の力を一時的に無効化して、ようやく夕方に雨を終わらせる事が出来たよ」

「お疲れ様」

「お父さん、頑張った!」

「まあ、そうだね」


 グレゴリオは、声をかけてきたティルの顔を見て、思い出したようにこう言った。


「そうだ、ティル、遠足は?」

「中止になっちゃったよ。雨で」

「そうかい。それは、残念だったね。その悪い事した職員は逮捕されたから、これからはそんな事ないと思うよ」

「よかった」


 グレゴリオは、それから少し思案顔になる。そして、再び口を開く。


「今度僕とティルの休みが合う日にさ、僕らだけで出かけよう。遠足の代わりにさ!」

「いいの?お父さん!」


 グレゴリオは満面の笑顔で頷く。


「じゃあ、約束!お父さん!!」


 ティルは、その日一番の笑顔になった。


(お父さんとお母さん、リノと遠足?いいかも!!)




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