22時間目:変わり映えしない作文
翌朝、ティルは家族全員揃っての朝食の時間を過ごしていた。その食卓の傍には、中年男性の小人が浮いていた。そして、延々と話をしている。
「本日の天候予定です」
そんな一言から30分刻みの天候スケジュールが発表されていく。
「午前9時30分から午後1時まで雨。午後1時から午後3時まで曇り。午後3時から午後10時30分まで晴れ」
「今日は、雨の時間が長いな。雨除けを持って行こう」
グレゴリオがそう呟いた。すると、ノエルが棚から雨除けの小さな杖を持ち出し、グレゴリオに渡した。
「ありがとう、ノエル」
「ん」
短めのノエルの返答であった。それから、ノエルは少しの時間動かなかった。
「お母さん?」
「ん、赤ちゃん今日は元気でいっぱい動いてるのよ」
「そうなんだ!弟、今動いたんだね!!」
(リノ!元気でよかった!!)
ノエルは、ティルの明るい笑顔と、グレゴリオのほっとした表情を同時に眺めた。
「その子は、無事に産まれるといいな」
「そうね、グレゴリオ」
ノエルは座りつつお腹を撫でる。
(あんまり私覚えてないんだけど、リノの前にも赤ちゃんいたんだって。でも、お母さんのお腹の中で死んじゃったらしいんだ)
ティルは、明るい笑顔を崩さずにこう言った。
「弟、来てくれるよ!」
ノエルはその言葉に、微笑んだ。一方、グレゴリオは苦笑い。
「また、妹かもしれないって言ってるだろう?ティル」
「んー!絶対弟!!」
グレゴリオの苦笑いは、ノエルにうつる。
「よっぽど弟が欲しいのね?わかったわ、頑張って弟を産んであげるわ」
「うん!」
(欲しいんじゃなくて、早く会いたいんだけど。でも、夏休みまでお預け。うー、こうなってくると、お母さんが羨ましいよ!リノとずっと一緒だもん!!)
元気なティルの返答を聞き届けると、グレゴリオは、立ち上がる。
「じゃあ、行ってくる。体に気をつけてね?ノエル。ティル、勉強頑張るんだよ?」
ティルは、ノエルと共に頷き、声を揃えて「いってらっしゃい」と言った。それから少しの時間を過ごすと、ノエルは言った。
「そろそろ、ティルも時間ね。いってらっしゃい」
「うん!いってきます!!」
ティルは、玄関から出る。周囲をひと回り軽く見た後、通学路を歩き始めた。
(うーん、やっぱり悪い子出来ない。悪い子だったら、あそこで学校嫌だって言うよね)
着いた学校では、その日の日程をティル達児童生徒も教職員もこなしていく。そして、放課後の前にモニカが言った。
「今日は、宿題を出します。皆さんの家族についての作文を書いてきてください」
(わー、来た。作文の宿題!)
それから帰宅したティルは、自分の学習机に向かい椅子に座ると、床につかない脚をバタバタさせた。
「紙、勿体無いから、ちゃんとしたの最初から書こう」
ティルは、原稿用紙を出し、作文に向き合った。そして、1回できちんとした形になった作文は、綺麗な字で書かれていた。
(なんか、どんどん真面目な感じになっていってる。駄目だなぁ)
翌日、モニカは言った。
「さ!皆さん宿題の作文は書いてきましたか?」
ティル達児童は、「はーい」と返した。モニカはそんな児童にこう声をかけた。
「では、1人1人読み上げてください。登録番号順に発表をお願いします」
そして、一番小さい番号の児童から作文を読み上げていった。
「私の家族。1年3組、フェリシア・メンデス。私のお父さんは、聖歌隊で歌っていて、バリトンというお仕事をしています。とても上手な歌を歌います。私もお母さんもその歌が好きです。家でもお父さんは、私とお母さんの為に歌ってくれます」
(いつか、フェリシアちゃんのお父さんのお歌聴けるかな?)
「僕の家族。1年3組、ハワード・フリーダー。僕の父は、政治家です。バソト院の議長で、議員達をまとめています。議会が忙しい時は、何日も家に帰りませんが、僕と母は、このレボルテという国が良くなるように父を応援しています」
(というか、ハワードくんのお父さん、絶対頭固いよね)
「私の家族。1年3組、エリン・フレンツェル。私のお父さんは、パン屋をしています。お父さんの作るパンは、とっても美味しいです。毎日毎日お父さんの作るパンを食べています。美味しくて美味しくてとっても幸せです」
(わかる!わかる!!エリンちゃんのお父さんのパン、今日も食べたいな!!家にあるかな?)
「僕の家族。1年3組、ラインハルト・マラブル。僕の父は、騎士をしています。プルド団の団長で、国に忠誠を誓っています。僕は、そんな父が誇りです。いつも母と共に父の任務が成功するように祈っています」
(きっと、ラインハルトくんのお父さんは、とってもかっこいいんだろうな)
そんな出だしから書かれた作文が、書いた本人によって次々に読み上げられていった。1人1人読み終わる度に、他の児童からの拍手が教室に響く。
「はい、次はティル・ラーナーさん」
(来た。皆と一緒でいつもと変わらない作文になっちゃったけど、皆、聞いてね)
「私の家族。1年3組、ティル・ラーナー。私のお父さんは、警察官です。みんなが安心して暮らせるように、街を守っています。私とお母さんは、そんなお父さんをかっこいいと思っています。私の家族には、もうすぐ弟が産まれます。とっても楽しみです。4人家族になったら、きっと楽しいと思います。今までよりも、もっと仲良く過ごしたいです」
作文を読み終わったティルは、同級生から拍手をもらった。
(休み時間になったら、多分またラインハルトくんがハワードくんになんか言うよね。近くにいようかな?)
そして、休み時間になった。父親の職業談義に児童達は花を咲かせ始めた。ティルは、右斜め前のハワードを後ろから見つめた。すると、ラインハルトが歩み寄ってくる。
(来た。ラインハルトくん)
「学級委員長のお父上は、バソト院にいたんだね」
「知っているだろう?フリーダーの名は」
「知ってるよ。『下』の方の議会だと思ってね」
「『一番上』の騎士団に自分の父親がいるから、偉ぶりたいのか?」
「いや、頑張ってるんだろうな、と、思ってさ」
「ふん」
(またー。偉い人の子って事は2人共、同じじゃん)
「ね、ね。ハワードくんのお父さんも、ラインハルトくんのお父さんも顔はあんまり知らないけど、知ってるよ!凄い人だよね!!」
ティルにかけられた言葉に、ハワードとラインハルトは表情を緩める。ラインハルトはこう返した。
「前にも、僕の父を褒めてくれたね。ありがとう」
一方、ハワードはこう返した。
「不真面目なのに、議会の事は知ってるのか?いや、作文で知ったから適当な事言ったんだろうな。まあ、評価には、感謝する」
「えへへ!適当だったかも!!」
ティルは笑ってその場を離れた。廊下に行くと、ひとつため息をついた。
(適当かぁ。うーん、適当な1年生っていうのもいいかも?)




