21時間目:果実
初等部1年3組の「初めて」の給食を見守った夜、ティルは寝床に横たわりながらため息をついた。
(お母さんの料理、エリンちゃんの所のパン、学校の給食、みんな違うけど、とっても美味しい)
ティルの右手は、ティルの口を押さえる。
(美味しい料理いっぱい食べても、あの美味しくない実の味は忘れられないよ)
口を押さえていた右手を、布団の中にゴソゴソ入れ、今度はお腹に当てた。
(あの日も、箒の授業でとってもお腹空いてたけど、何であんな実、食べちゃったんだろう)
その日、ティルのお腹は下校途中ギュルギュル鳴りっぱなしであった。
「わーん、お腹空いたよぉ」
涙が滲みそうな感覚がティルの目頭を襲っていた。そんな中ではあったが、必死に自宅を目指した。ようやく自宅に着くと、その日の朝には無かった綺麗な蔓植物が玄関先に生えていた。そこには、ピカピカ輝くカラフルなりんご程の大きさの実がひとつ成っていた。
「何?これ」
ティルの口の中が、唾でいっぱいになった。
「美味しそう!」
ティルは我慢できずに、その実をもいだ。そして、思いっきりかぶりついた。
「ん、硬い」
その実は噛めない程ではなかったが、ティルの歯を手こずらせた。ようやく一欠片を口の中に受け入れる事が出来た後、ひと噛みする。
「や、柔らかくなった」
果汁が口の中いっぱいに広がるが、甘味、酸味、辛味、塩味、苦味が目まぐるしくティルの舌を襲った。
「んんんっ!何っ?」
吐き出したい衝動に駆られながらも、思わず何度か咀嚼すると、硬さが戻ったり柔らかくなったりを繰り返した。また、熱々のスープが如く果汁が熱せられたり、アイスクリームが如く実が冷たくなったりもした。
「んん、どうしよう?」
そんな中でも、ティルの鼻を果実の香りが次々に通っていく。爽やかさ、香ばしさ、スパイシーさ、ありとあらゆる香りと、生臭さも襲って来た。ティルは、迷った挙句、その実の一欠片を飲み込んだ。
「美味しくない」
右手にあるもいでしまった残りの実を見下ろしながらティルは呟いた。
「こ、これ、どうしよう?」
思わずティルは、残りの実を鞄に入れ、何事もなかったように自宅に入っていった。
「ただいま」
「おかえりなさい、ティル」
ノエルが迎えてくれたが、ティルの脳裏には、先程の実の衝撃が駆け巡っていた。言葉少なげにティルは自室へと入った後、鞄から実の残りを取り出し、震えた。
「何?これ?」
再びギュルギュル鳴るお腹を無視し、その実の処遇を考えた。
「す、捨てちゃお」
部屋の中の要らない紙を探し出し、実をくるんでゴミ箱に捨てた。
「うう、やだ」
それから、すぐにノエルが用意してくれた昼食を摂る事になったが、ティルは食欲が沸かなかった。
「どうしたの?ティル、学校大変だったの?」
「う、ううん!た、楽しかった!!」
ノエルは首を傾げた。
「お昼ご飯、いつもより食べてないから、何かあったんじゃないかって思ったんだけど?」
「な、何でもないよ!!」
ティルは、それから無理をして昼食を完食した。
「美味しかった!」
「そう、よかったわ」
ノエルは、ほっとした様子であった。
その後、あの実は事情を知らないノエルにより確認される事なく捨てられ、玄関先の綺麗な蔓植物は、跡形もなくなくなっていた。それからのティルは、しばらく食欲のない日々を過ごしたが、そんな中でも実を無断で食べた事を言いたくない気持ちで、家では無理をして食事を摂った。
それから、食欲を回復させつつ何事もなく3月まで過ごしたが、その先のティルを待っていたのは、繰り返されるメビラ学園の初等部1年生の1年間であった。
(あれから、あの実は見てないなぁ。見たとしても、もう絶対に食べない!美味しくないもん!!)
ティルは、寝床にて口を真一文字に結んだ。
(んー、寝よう!寝よう!!これから、作文の宿題と、遠足があるんだよね)




