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20時間目:飛んだ後の美味しい時間

翌日、メビラ学園の第三校庭には、体操服に着替えた初等部1年3組の面々がこの日の3時間目の体育の授業を受け始めていた。


(箒で飛ぶんだけど、どうしようか決めておこうかな?)


 ティルが考え込んでいると、箒の出し方について、モニカが切り出す。それを受けて、隣にいた女子児童1人が小声でこう言った。


「『エッセチオ、ピア』ってお母さん達が言ってた。あれかな?」


(んー、残念!)


 すると、モニカはその呪文を唱えた。


「エッセチオ、ピア!」


 箒がモニカの手に現れる。児童達は歓声を上げた。しかし、モニカは箒をすぐにしまう。


「中等部くらいの年齢からですかね、大人に近くなっていくと、この呪文で箒を使う時に魔法で作って使えます。でも、今の皆さんはそれが出来ません。違う呪文を今日、教えます」


 ティルの隣の女子児童は、恥ずかしそうな顔でうつむきながらこう呟いた。


「あ、違ったんだ」


 ティルはその女子児童に小声で声をかけた。


「ハズレちゃったね?でも、呪文完璧じゃん!」


 女子児童は、はにかんだ顔をティルに見せた。


(仕方ないよね。大人はそう唱えるもん)


 そうして、呪文の反復練習を経て、児童達は杖を持ち、「ウ、エッセア、エーレエ。箒」と唱える。すると、光の糸に包まれ出現した自作の箒を手にする事が出来た。


「よくできました!これから、箒に乗って、飛んでみましょう!」


 再び、呪文の反復練習が始まる。一応ティルもそれをこなした。その後、モニカの号令で実際に飛ぶ時を迎えた。


(きーめた!下手に飛ぶ!!)


 そして、箒に跨った児童達の「ヴオ、エレア、エーレエ。校庭の中」という呪文が校庭に響き渡る。低空飛行ではあるが、「初めて」飛べた児童達は、それぞれ歓声を上げた。しかし、モニカが落下対策に張った網の上で、すぐに児童達の飛行は、不安定に。フェリシアは、悲鳴に似た声を上げた。


「ふあぁ!」


(フェリシアちゃん、危ないなぁ。けど、真似する!)


「ね!一緒に頑張ろ!!」

「う、うん!ラーナーさん!!」


 そこに、エリンも来る。


「ティルちゃん!混ぜて!!」

「エリンちゃん、いいよ!!」


 ティル、エリン、フェリシアはしばらくよろよろ飛んだ。そんな様子を、近くに来たラインハルトが見て微笑んだ。


「3人共、頑張ってね」


 エリンとフェリシアが同時に「うん!」と応える。一方ティルは、こう返した。


「飛ぶの、上手だね!さすが、騎士団団長の家の子だね!!」

「ん?何でそれを知ってるんだい?」


(あ、やばっ!)


「あっ、えーと、マラブルってどこかで聞いたなーって思って!!」

「そう、君の所まで父の名前は届いてるんだね?誇らしいよ!」

「そうそう!」


 ラインハルトは、それから得意気に空を飛び回った。


(あー、なんとか誤魔化せた)


 その頃になると、ティルはじめ多数の児童が網の方に落下。大半の児童達がトランポリンのように跳ね、遊び始める。当然、モニカは叱った。


「その網は、遊びの道具ではありません!」


 不安定ながらまだ飛べているハワードがそれに続いた。


「真面目に授業しよう!!」


(本当!真面目だよ!ハワードくんは!!)


 ティルは、網の上で寝転びながら、ハワードを見上げていた。


 そんな体育の授業も終わり、この日の日程は終了。ティル達は体操服から制服に着替えると、下校して行く。ティルは、エリンに声をかけられた。


「ティルちゃん!一緒に帰ろ!!」

「うん!」


 そうして校門を2人でくぐり、動く歩道に乗ってしばらくした頃、ティルのお腹がギュルギュル鳴った。


「あ」

「ティルちゃん」


 ティルとエリンは見つめ合った。そして、ティルは恥ずかしさをごまかす為に笑った。エリンもつられて笑い、こう言った。


「ねぇ、ティルちゃん、うちのパン食べて行く?」

「いいの?」

「うん!」

「じゃあ行く!」


 そして、ティルはエリンの自宅へと行く。


「ただいま!お母さん!ティルちゃん連れて来た!!」

「あらー、ティルちゃん、いらっしゃい」


 迎えてくれたのは、エリンの母親、エマヌエーラであった。


「こんにちは!」


 ティルは元気に挨拶する。その横で、エリンが言う。


「ねぇ、ティルちゃんお腹空いてるの!お父さんのパン、ある?」

「取ってくるわ」


 エリンの自宅はパン屋の店舗を兼ねている。エマヌエーラは、店舗の方へと行った。残されたティルとエリンの部屋に、再びギュルギュル鳴るお腹の音が響いた。ティルとエリンは見つめ合う。


「今度は、私もお腹鳴っちゃったよ、ティルちゃん」

「エリンちゃん、本当にお腹空いたよね」


 そんな会話をしていると、皿に乗せられた食パンをエマヌエーラが持って来た。


「さ、召し上がれ」


 ティルはエリンと共に食パンにかぶりついた。柔らかくしっとりした食パンは、ほんのり甘く、香ばしい耳との相性は抜群であった。


「やっぱり、エリンちゃんのお父さんのパン、美味しいっ!今日の朝も、食パン焼いて食べたの!!」


(この食パン、美味しくて1日に何回食べても飽きないよー。本当に美味しい!)


 ティルは、元気に言った。エマヌエーラは、微笑んで返した。


「そう言えば、昨日、グレゴリオさんが買いに来てくれていたわねぇ。いつもありがとうね。ティルちゃん」


 そう言うと、エマヌエーラは再び店舗の方へと行った。


「お母さん?」


 エリンは呟く。しばらくすると、またエマヌエーラが戻って来る。その手には、紙袋が。


「ティルちゃん、これ、おうちに持って行って?お父さんとお母さん、そして、お母さんのお腹の赤ちゃんの分よ」

「ありがとう!エリンちゃんのお母さん!!」


 そうして、ティルは自宅に帰って行った。迎えたノエルは、眉間に皺が寄っていた。


「遅かったわね?どこ行ってたの?」

「えっと、エリンちゃんの所に行ってたの!!」


 そして、ティルは「お土産」のパンを差し出す。ノエルは、紙袋の中に並ぶコッペパンを見てわずかに表情を緩ませたが、再び厳しい視線でティルを見た。


「行ってたのは嘘じゃないのね?わかったわ。でも、帰って来ないと心配なのよ?私は」

「ごめん、お母さん。お腹空いちゃって、エリンちゃんが連れてってくれたの」

「わかったわ。パン、ごちそうになって来たのね?」

「うん」

「よかった。事故に遭ってたらって考えちゃったわ」

「大丈夫!お母さん!!」


 ノエルはようやく眉間の皺をほどき、微笑んだ。


「後でフレンツェルさんにはお礼しないと。でも、その前にお昼ね。ティル、こっちでも食べる?」

「うん!お母さんの作ったお昼も食べる!!」


 そうして、ティルはノエルと共にきちんとした昼食を摂る。


「今日、魔法使ったの?」

「うん。体育で飛んだ」

「なら、仕方ないわね、お腹が空くのは。でも、もうちょっとしたら、給食始まるから」

「給食!楽しみ!!」


(って今度は言ってみよう)


 その後、慣らし授業の1週間が終わり、本格的な授業が始まる。ティルはこの日の昼、学園の食堂にて給食を食べた。同級生が給食の味に感動している中、ティルは、淡々と食べていた。


(皆、給食美味しいよね?わかるよー。おすすめは、じゃがいも団子だよ。でも、皆で見つけてね?)



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