19時間目:初日のようで初日でない授業
ティルは、ギリギリのところで遅刻を免れた。
「ふぅー。ま、間に合ったぁ」
ティルが大きな息をつくと、すぐにモニカが瞬間移動にて教室に来た。
「はい!皆さんおはようございます!!」
「おはようございます!!」
ティル他児童達は、元気に挨拶を返す。朝の会を経て、この日の1時間目が始まる。
「はい、1時間目は学級活動です。まずは、皆さんの自己紹介の時間にしましょう」
その一言から登録番号順に簡単な自己紹介が始まり、ティルの番が来た。
(これ9回目だぁ)
「私は、ティル・ラーナー。えっと、えっと、よろしくお願いします!」
ティルの自己紹介にモニカと同級生は拍手した。
(うー、また同じ事言っちゃったよー)
勿論、ティルも他の同級生の自己紹介に拍手をした。自己紹介の時間が終わると、モニカは言った。
「次に、学級委員を決めます。学級委員長になりたい人、手を挙げてください」
(今度も、ハワードくんかな?)
ティルの右斜め前に座るハワードが手を挙げた。
(やっぱりね)
それを受け、モニカは言った。
「ハワード・フリーダーさんが学級委員長でいいですか?」
児童の拍手がそれを承認する。そして、学級副委員長、書記、会計と、次々に学級委員が決まっていく。全ての学級委員が決まると、モニカはこう声をかけた。
「さあ、改めて学級委員の皆さん、自己紹介をしてください」
「学級委員長になった、ハワード・フリーダーです。よろしくお願いします」
それに倣い、他の学級委員も挨拶をする。その度にティルは拍手を贈った。やがて、1時間目は終わる。エリンがティルの元に来ようとするが、そのティルは、それに気づかず廊下へと繰り出した。
(私の教室は、ここなんだけど、ここじゃない)
ティルは、どんどん歩いて行く。それを、エリンが追いかける。
(本当は、どこが私の教室になってたんだろう?)
とりあえず、ティルは初等部2年3組の教室を覗いてみた。数人の児童がそれに気づき、首を傾げる。ティルは、すぐに移動する。更に初等部3年3組の教室を覗こうとしたところ、ティルの後ろから声がした。
「ティルちゃん!どこに行くの?何してるの?」
「え、エリンちゃん。えっと、なんでもないよ」
「もぉ!なんでもないんだったら、教室にいてよ!ティルちゃんとお話ししたかったのに!!」
「ごめん!エリンちゃん!!」
それから、1年3組の教室に戻りながらティルとエリンは話をした。
「ティルちゃんと同じクラスになれて凄く嬉しいよ!幼稚園では違うクラスだったから!!」
「そうだね、エリンちゃん!」
(そうだったよね。エリンちゃん、毎回そう言ってくれるよね。ありがとう)
ティルとエリンは、それから手を繋いで教室に戻った。すぐに2時間目の授業が始まる。教科は、図画工作で、乗り物になる箒作りをするのだ。モニカは、自身の魔法で児童の机の上と自らの教卓に箒の材料を出した。
「では、手順を見せますね。これから、皆さんが成長し、魔法を学んでいくにつれ、魔法で箒を作る事が出来るようになっていきますが、まだ皆さんはその段階にありません。なので、手作りの箒で空を飛んでみましょう。上手に作れなくても構いません。皆さんが乗れる大きさの箒の形になっていればいいです」
モニカの実践と何色かのチョークを駆使した黒板への手順の説明が同時進行で行われる。ティルは、それを見つめた。
(先生、凄いなぁ。同じ事を同じように何回も言えるなんてさ。上手に作れなくていいって先生が言ってるから、今回は少し下手でもいいよね?箒)
ティルは、箒を作り始める。
(う、なんか、やっぱり難しい)
下手に作ろうとしても、慣れた手つきが綺麗な箒を作りかける。その度に箒を解体し、作り直す。
「ふぅ、出来た」
授業も終わりに近づいた頃、ようやくティルは下手な箒を完成させた。それから、あまり間を空けずにモニカは言った。
「皆さん、箒、出来上がりましたね。その箒は一旦自分の席に立てかけておいてください。次の時間で、杖に入れる呪文を教えます」
児童達は、「はーい」と答えた。すると、2時間目が終わった事を知らせる鐘の音が鳴った。モニカは、授業を終了させると、一旦職員室へと瞬間移動して行った。すると、エリンが自ら作った箒をティルに見せに来た。
「どう?私の箒!」
「わー!エリンちゃん、上手!!」
エリンは、ティルの箒に視線を移し、言った。
「ティルちゃんの箒、なんか変じゃない?」
「あはは!失敗しちゃった!!」
そんな会話を近くで聞いていたハワードが2人の間に入ってきた。
「ラーナーさん?」
「あ、はい。学級委員長」
「昨日の学園長先生のお話の時は、あくびをしてたな?そんな不真面目だから、箒もちゃんと作れないんだ」
「ごめんなさい」
(ハワードくん、やっぱり来ちゃった)
ティルは、思いっきり頭を下げた。隣のエリンが戸惑っていると、ラインハルトが近寄ってくる。
「穏やかじゃないね?学級委員長」
「まぁ、謝った事だし、これ以上は言わない」
ハワードは、その場を立ち去る。ティルは、こう言い、再び頭を下げる。
「あ、ありがとう」
「いいんだよ。厳しいね?学級委員長は」
「う、うん」
そのティルの返事を聞いたラインハルトは、微笑み自らの席に戻った。それを見送ったティルの視線の先には、多少怯えているようなフェリシアがいた。
(フェリシアちゃん、ハワードくんこわいよね)
エリンがティルに再び話しかける。
「ティルちゃん、頑張って作ったのに、酷いよね?学級委員長」
「私の箒が下手なのが悪いんだよ。ハワ、うん、学級委員長はちゃんとしてると思うよ」
「そう?」
(ハワードくんは、ああいう人だから仕方ないよ、エリンちゃん)
そうしていると、3時間目の開始を知らせる鐘の音が響く。モニカは、教科書の出し方や箒の収納方法を教える。
(やっぱり、ちゃんとした方がいいんだけど、それはそれで、目立っちゃうし。あー、もー、どうしたらいいの?)
ティルは、モニカの指導を待って1つ目の呪文を唱える。
「エレイ、ビエーレオ。ティエ、エッセティオ。国語」
すると、杖から紙が沢山出てくる。それが本の形を成した。無事に教科書を杖から取り出す事が出来た。
(わざと失敗するのも楽じゃないし)
ティルは、再びモニカの指導を待って2つ目の呪文を唱える。
「チオエンネ、エッセエエーレ、ヴア、エーレエ。箒」
杖の先から発せられた糸のような光が箒を包み、小さくなった箒は、見えなくなる。そして、光の糸が杖に戻り、完全に箒は杖の中へ。
モニカは、家での呪文練習を促し、3時間目の授業を終わらせた。
そして、慣らし授業の為、1年生は午前中で下校となった。ティルは、エリンに声をかけた。
「エリンちゃん!一緒に帰ろ?」
「うん!!」
そうして、エリンと手を繋いでティルは帰宅した。ノエルが迎える。
「ただいま!」
「おかえり!」
夕方遅くにグレゴリオも帰宅。
「ただいま」
その手には、エリンの家のパン屋で作った食パンが一斤。
「おかえり!お父さん!!もしかして、エリンちゃんの所のパン?」
「そうだよ」
ノエルは、微笑んだ。
「じゃ、明日の朝に焼くわね?」
「そうしてくれ」
「明日の朝、楽しみ!!」




