18時間目:イテラリピティ
ティルは、入学式を終えて、無事に帰宅した。
「ね!お父さん、おばあちゃんに会いたい」
「ちょっと待ってて」
グレゴリオは懐から首輪を出した。それと同時にティルは鞄から杖を出す。
「ティル、おばあちゃんと会って何をするんだい?」
ティルはニッと笑って言った。
「おばあちゃん!杖!!」
その様子を見たノエルは微笑みながら言った。
「あらあら、見せたかったのね?魔法の杖。天国のおばあちゃん、喜んでるわ、きっと」
グレゴリオは目を細めながらティルを見つめる。
「ああ、母さん、無事にティルは学校に通う歳になったよ」
「うん!1年生!!」
そして、ティルの杖とグレゴリオの持つ首輪は、同時にしまわれた。
「お父さん、おばあちゃんと会わせてくれてありがとう!着替えてくる!!」
「うん、そうしてきなよ」
ティルは、杖の入った鞄を持ちながらいそいそと自室へと行った。そして、鞄を床に置くとその鞄を見つめる。
(イテラリピティで消えちゃった杖、戻って来た。あー、よかった。あ、イテラリピティって多分、時間が戻っちゃう事なんだ。3月終わりに寝た後に、いつも夢の中で聞こえる言葉なの)
一転、ティルはクローゼットに向かう。ゴソゴソとこの日の午後を共にする衣服を探す。やがて、白色で柔らかい印象のワンピースがポスンと床に落ちる。そして、ティルは魔法帽と魔法ローブをさっと取り払い、黒のジャケットのボタンに手をかける。
(イテラリピティ、イテラリピティって私言ってるけど、何でイテラリピティが起きてるのか、全然わかんないの。だから、いつまで経っても私、1年生のままなんだよね)
ジャケットが床に落ちる。ティルは、タータンチェックの赤いリボンを緩め、白のブラウスの襟から外す。
(でも、こうやって毎回新しい制服を着れるのは、いいかな?って思ってるんだけどね)
続いて、これもタータンチェックで赤いスカート、白いブラウスも床に落とす。
(それに、毎回全部同じ事を繰り返してるわけじゃないんだ。私がやる事、やれる事は自由なんだよね。毎回毎回違う事が出来るから、助かってるんだ)
クローゼットから出されたワンピースは拾われる。
(皆がイテラリピティを知らないのは、凄く嫌だけどね)
ホワッとワンピースに包まれたティルは、制服が乱雑に床に落ちている光景を見て、呟いた。
「これ、どうしようかな?」
(初めてイテラリピティになった時、びっくりして皆に言ったら、皆、変な目で私を見たから、間違いないよ)
ティルは、制服を拾おうと、床にしゃがむ。
(いいなぁ、皆は。全部が初めてを楽しんでる。私は、そんな初めてを邪魔しちゃいけないんだ。私1人の為に、皆が楽しくなくなるのは、駄目でしょ?)
しかし、ティルは制服を拾わなかった。
(だけど、ちょっとわがままする。毎回、同じ私にはしないよ。ずっと同じ私じゃつまんないから)
「置きっぱなしにしよ」
(この1年は、ちょっと悪い子になっちゃおうかな?うん、6歳の悪い子!)
宣言通り、床に落とされたままの制服は、部屋を出て行くティルを見送った。
「ん、パンのいい匂い!」
階段を降りながらティルはこう声を上げた。
(美味しそうな匂い。あ、イテラリピティになる前に食べた美味しくない物の味、思い出しそう。やだなぁ。思い出したくないから、この話は気が向いたら話そうかな?)
食卓につくと、食パンがこんがり焼けていた。ティルは尋ねる。
「ね!お母さん、このパン、エリンちゃんの所の?」
「違うわ」
「ふーん。ま、いっか!食べる!!」
警察の制服に着替えたグレゴリオが食卓につきながら、話に加わる。
「フレンツェルさん所のパンがよかったかい?」
「うん」
「仕事の帰りに、買ってこようか?ティル」
「本当?やった!お父さん、お願い!!」
「ごめん、グレゴリオ」
「いいよ。ティルの入学祝いって事でさ」
ティルはそう言ったグレゴリオの顔を見つめ、少し体を縮こませた。どこのパン屋が作ったかわからないパンではあったが、食べてみるとカリッとしていた。
「うん!これも美味しい!!」
「よかったわ。ティル」
ノエルは、ほっと胸を撫で下ろした。そんな昼食も終わる。グレゴリオは多少食休みをした後、立ち上がった。
「じゃ、仕事行ってくる」
「いってらっしゃい、グレゴリオ」
瞬間移動にてグレゴリオは出勤して行った。ティルは、グレゴリオが消えた方向に手を振った。
そうして、この日は終わりを告げる。床に置きっぱなしにした制服に見上げられながらティルは就寝した。
翌朝。
「ティル、ティル。起きて!遅刻しちゃうわよ!!」
「んー?お母さん?」
「早く起きなさい!それに、制服、脱ぎっぱなしじゃない!ちゃんとしなさいよ!!」
「うー」
ノエルは、リノがいるお腹を庇いながら制服を拾い、ティルに着させようとした。
「だ、大丈夫!1人で着れるよ!!」
「早くしなさいよ。それと、今日帰って来たら、ちゃんと制服はクローゼットにしまいなさいよ」
「うー、わかったよ!」
ティルは、少し皺になってしまった制服を素早く着て、食卓へ。多少ぬるくなってしまったスープ等の朝食を短時間で済ませ、登校して行った。
(悪い子、難しいなぁ。やっぱり止めようかな?)




