17時間目:9回目の入学式
(私、ティル!ティル・ラーナー!!ってもう知ってるよね?ちょっと1週間くらい落ち込んでたけど、もう大丈夫!今日からメビラ学園初等部1年生!え?2年生じゃないって?私の悩みってこれなんだ!!とりあえず、今日は楽しい入学式!ここでまた沢山勉強を教えてもらうんだ!)
6歳に戻ったティルは、学び舎の講堂にて新入生の席についていた。揃いの濃い紫色の魔法帽、黒色の魔法ローブという出で立ちの児童達は、170名程度。児童達は皆、後ろを向きキョロキョロしている。その先の保護者席にいる親を探しているのだ。一方、親達も自らの子供の晴れ姿を探し、目が合うと、親子共々手を振り合う。ティルは、それを見回す。
(えっと、一応やろうかな?)
そして、グレゴリオとノエルを探す。
「お父さん、お母さん」
ティルは両親を見つけ、呟く。両親の柔らかな表情を見てティルは、元気に手を振った。それを見つけた両親も手を振り返す。ティルはニッと笑い、講堂の前方にある舞台の方へと向き直った。それと同時に前方左にこの入学式の式進行を担当する年頃は40代の男性教諭が立ち、小さな声で呪文を唱える。
「アエンメ、ピエレイ、エッフェイ、チア。ヴオ、チイ」
すると、式進行の男性教諭の声が、講堂内に響き渡る大きな声に変わる。
「只今より、エスパランタ1535年度、メビラ学園の入学式を執り行います。はじめに、国歌斉唱。一同ご起立の上、ご斉唱ください」
舞台の左手にあるピアノがひとりでに伴奏をはじめる。教諭や保護者達はそれに合わせ国歌を歌い出す。新入生である児童達は、国歌を歌える者は少なく、あやふやなメロディーを口ずさむ。そんな中、ティルは国歌を完璧に歌う。
「調和の名の山並みに囲まれし我が国よ、豊かな魔法に包まれ輝け。照らせ光よ、愛しレボルテの行く末を」
国歌が最終盤に差し掛かった頃、一斉に人々は伴奏と共にこう唱える。
「ビアエンネ、ディイ、エエーレア。エンネア、ゼータイオ、エンネア、エレエ」
すると、舞台後方に大きな国旗が現れ、無風の中はためき始める。引き続き国歌は続く。
「いずれ世界の光となりしレボルテよ、永遠に」
国歌は終わった。静まり返る講堂内。式進行の男性教諭はそんな中、こう言った。
「ご着席ください。次に、学園長挨拶に移ります。当学園、学園長イヴァン・オーケン」
青色のスーツに身を包んだイヴァンは、講堂前部の舞台に登壇し、小声で拡声魔法の呪文を唱える。
「アエンメ、ピエレイ、エッフェイ、チア。ヴオ、チイ」
講堂の後ろまで声が届くようになったイヴァンは、挨拶を始めた。
「春の花が咲き誇り始めたこの良き日に、メビラ学園に入学の皆さん、ご入学おめでとうございます。これから初等部、中等部、高等部と12年間、魔法をはじめ、この学校で世の中の事を学んでください」
そんな話から学園長挨拶は始まった。そんな挨拶も半ばに差し掛かった頃だった。
(ねぇ、学園長先生、それ聞くの9回目なんだ。飽きちゃうよ)
「ふ、ふあぁ」
ティルの小さなあくびであった。
(何回我慢しても、ここであくびが出ちゃう。隣のハワードくんが私に目をつけちゃう。もう、嫌だ)
ティルの懸念通り、右隣に座っているハワードが、その気配に気づき眉をひそめる。ティルは、なおも出そうになるあくびを止める為、右手で口を押さえた。きつく閉じたティルの両目からはわずかな涙。そうしている間にも学園長挨拶は続いた。
「メビラ学園学園長、イヴァン・オーケン」
そう締めくくられた挨拶にかかった時間はおおよそ5分。イヴァンは降壇して行った。
それから、来賓の紹介と挨拶等を経て新入生の点呼の時間となった。担任となる教諭が代わる代わる講堂の右前方に立ち、拡声魔法を用いながら児童の名前を1人1人呼んでいく。3番目に立ったのは、モニカであった。
「エスパランタ1535年度、メビラ学園に入学を認められ、1年3組にて学ぶ者」
そして、モニカは、登録番号順に児童の名前を呼んでいく。
「ティル・ラーナー」
「はい!!」
ティルは、大きな声でそれに返事した。
やがて式は最後となる。式進行の男性教諭がこう言った。
「最後に、児童の全員に魔法の杖を授与し、エスパランタ1535年度、メビラ学園の入学式を閉じます」
そして、再びイヴァンが登壇し、こう唱えた。
「チオエンネ、エッフェエ、エーレイ、エーレエ。新たな学びの者たちに、魔法の杖を与えん!」
すると、舞台全体が光に包まれ、その光はキラキラと拡散されていく。その光一粒一粒が小さな茶色の魔法の杖を形作り、児童一人一人に降ってくる。勿論、ティルの手元にもそれは届く。ティルは右手を高く挙げ、魔法の杖をしっかり受け取った。そして、小さな声で杖に話しかけた。
(多分、1年後にはまたお別れだけど)
「これから、よろしくね?」
それに応えたように、魔法の杖はキラッと光り輝いた。他の児童も、魔法の杖に笑顔になったり、興奮する様子を見せたりした。一方、保護者は、無事自らの子供達が魔法の杖を受け取れた事に歓喜し、惜しみない拍手を贈った。
そうして、入学式は終わった。担任の誘導により、講堂を後にする児童達。ティルは、出口付近でちらっと講堂内を振り返った。一瞬口を尖らせるが、すぐに他の児童達と共に講堂を後にしたティル。そして、呟いた。
「入学式、終わった」
(9回目のね)
一方、保護者も後に続くように講堂を去り、教室へと移動して行った。
場所は変わって初等部1年3組の教室。教室後方に保護者達がひしめき合う中、児童達は木目鮮やかな机を前に、着席していた。そして、教室前方の教壇にモニカが立ち、ここでの第一声を上げた。
「今日から皆さんの担任になります、モニカ・オリーンです。よろしくお願いします!」
保護者達の拍手が起こる。それにつられるようにティルをはじめ、他の児童達も拍手した。ティルはここでも呟いた。
「オリーン先生」
(知ってるよ。だけど、先生は私を忘れてる。っていうか、知らないんだよね)
モニカは、拍手が収まると言った。
「式で渡された魔法の杖には、教科書が入っています。大事にしてくださいね」
児童達は、改めてその杖を見る。そして、児童達のこんな声が揃った。
「はーい!!」
しばらくすると、鐘の音が教室に響いた。モニカは言う。
「さあ、校門での写真撮影の時間になりました!皆さん、移動しましょう!鞄と杖を持ってください」
モニカの誘導にて、ティル達は、校門へ。白く重厚な校門前にティル達1年3組の児童達と保護者は整列。その輪にモニカは入り、こう唱える。
「エッフェオ、ティオ、ジエーレア、エッフェイア」
すると、写真機が出現。浮遊する写真機は閃光を放ち、1年3組の児童達を撮影した。すぐに写真機から人数分の極々小さな写真の玉が飛び出す。ポコポコと出てきたそれをティルは受け取る。その写真の玉を撫でたティルは笑っていた。
「皆の写真だ」
それと時を同じくして、モニカは児童や保護者に声をかけた。
「それでは、本日の日程はこれで終わりです。気をつけて下校してください!」
「はい!」
ティルは、他の児童や保護者と共にそう返した。すると、両親が隣に来た。ノエルはこう声をかける。
「入学おめでとう!ティル!!」
「うん、ありがとう!お母さん!!」
グレゴリオも微笑みながらこう言った。
「家族だけの写真撮影もしていこうか?」
「そうだね!お父さん!!」
そして、グレゴリオは唱える。
「エッフェオ、ティオ、ジエーレア、エッフェイア!」
グレゴリオの出した写真機がティル達親子を撮影する。ティルの手元にある写真の玉が2つに増えた。ティルはその2つの写真の玉を交互に見る。
「えっと、こっちが皆との。こっちがお父さんとお母さんとのだね」
最初に集合写真を収めた写真の玉を振る。すると、手元の空間に先ほどの光景が小さく立体映像として現れた。
「ふふっ、よく撮れてる!」
そう言ったティルは、今度は家族写真の方の写真の玉を振り、立体映像を映す。そこには、ティル本人ときっちりスーツを着こなしたグレゴリオ、リノを身ごもるノエルが鮮明に映っていた。グレゴリオがそれを見ながら言う。
「さ、帰るよ!ティル!!」
「そうだね!お父さん!!」
ティルは、写真の玉2つを再び振る。すると、立体映像が消えた。それを見届けたノエルは笑顔で尋ねてきた。
「何で帰る?ティル?」
「うんと、瞬間移動!」
その返答にグレゴリオは心配の声を上げる。
「大丈夫か?」
ノエルは、自らのお腹に軽く手を添えながら、柔らかく頷いた。それを受け、グレゴリオは言葉を続ける。
「でも、瞬間移動は使った人に負担がかかるから、僕の瞬間移動魔法で帰ろう!僕も含めて3人なら行ける!!」
「3人じゃないよ!4人!!」
ティルは、ノエルのお腹に手を添えた。
(リノ、またそこに戻っちゃったね)
ノエルはそんなティルを見下ろし、微笑んだ。グレゴリオも微笑みながら頷き、こう言った。
「確かにね!さ、僕に掴まって!!」
ティル、グレゴリオ、ノエルは輪になる。すると、グレゴリオがこう唱えた。
「ティエ、エレエ、ティエーレア、エッセピオエーレ、ティオ!家に帰宅せよ!」
瞬間移動で帰る他の家族達と共に、ティル達一家はメビラ学園の前から一瞬にして消えた。




