16時間目:過ぎ去る三学期と春休みそして
1ヶ月続いた冬休みも終わり、三学期の始業式の日が来た。モニカは、三学期最初の言葉を児童達にかける。
「皆さん、冬休みは楽しめましたか?今日から三学期が始まります。この三学期は、一学期、二学期より短いです。また、2年生になるための勉強もしていきます。皆さん、頑張りましょうね!」
児童達は、声を揃え、「はーい」と言った。一方、ティルは返事をしたふりをする。それは誰にも気づかれる事はなかった。授業は翌日から始まる為、この日の日程は終了する。一斉に下校し始めるティル達。
「ティルちゃん、帰ろ!フェリシアちゃんも!」
「そうだね、エリンちゃん」
ティルは、エリンに呼ばれ返事をした。そして、フェリシアと3人でいつものように下校して行く。その道中で、フェリシアのこんな言葉を聞いた。
「三学期って、楽しい事ないよね?」
「そうだね、フェリシアちゃん」
エリンはそう返した。ティルは少し考えた後、返答する。
「でも、先生が言ってたじゃん?一番短いって。すぐに楽しい春休みが来るよ!」
「ティルちゃん、そうだね」
フェリシアは、にっこりしながらそう返した。
そして、翌日からティルはじめ、メビラ学園の児童生徒達は、それぞれの担任などの教諭の授業を怒涛の如く受けていった。また、数少ない行事もこなしていく。
ティルは、その中で受けた身体測定で125センチまで成長し、試験では、再び満点となる答案を提出した。
そんなあっという間の三学期は最後の通常授業の時間を迎える。最後の教科は国語。モニカは終了間際にこう言う。
「はい、皆さん、試験などで見ましたが、しっかり字を書けるようになりましたね。これから皆さんは2年生になりますが、2年生の授業からは自動筆記で字を書く事になります。1年生最後の授業は、自動筆記の呪文の練習です」
新たな魔法を使える事に、児童達は興奮した。そして、モニカはその呪文を書いた印刷物を魔法で児童1人1人に配布した。
「鉛筆を出しましたか?手に持ってください」
そのモニカの問いに、ティル他児童達は「はーい」と答える。
「では、皆さんついてきてください。エッセチエーレイ、ヴエ、エーレエ」
ティル達児童は、一斉にその呪文をゆっくり唱え始める。
「エッセチエーレイ、ヴエ、エーレエ」
すると、鉛筆は児童達の手から離れ、呪文が書いてある印刷物の上に浮遊し始める。児童全員が成功した事を確認すると、モニカは言った。
「皆さん、上手です!さあ、今日は好きな事を思い浮かべて念じてください。これこれこういう物を書きたいと」
自分や好きな物の名前、将来の夢など思い思いの事を書いていく児童達。ティルも一言だけではあったが、自動筆記にてこんな事を書いた。「大人になりたい」と。ティル以外の児童達は、自分の魔法で初めて文章が書けた事に感動の声を上げた。そこで、授業終了の鐘が鳴った。
翌日、修了式が執り行われる。それぞれの児童生徒の教室の黒板には、学園長のイヴァンが映っていた。そのイヴァンは、こう話した。
「メビラ学園、正統魔法学部の児童生徒の皆さん、1年間の勉強は、どうでしたか?春休みは、そんな勉強の成果を復習する時間にしながら、休みでないと出来ない体験もしてみてください。では、よい春休みを!」
イヴァンの式辞が終わり、黒板は元通りになった。それを確認した後、モニカは言った。
「皆さん、1年間、よく頑張りました!次に登校する時は、2年生になりますね!新しく入ってくる1年生の立派な先輩になってください!勿論、私は皆さんの担任としてまた一緒に勉強します。まずは、春休みを楽しみながら、2年生になる準備も進めていってくださいね!」
児童達は、元気に「はーい」と返事をする。しかし、ティルだけは返事をしなかった。代わりに、こんな事を呟いた。
「2年生に、早くなりたい。なりたいよ。いつなれる?」
やがて、下校の時間となった。ティルは、校門前に佇む。それを見たラインハルトが話しかけてきた。
「どうしたんだい?帰らないのかい?」
「ちょっとね」
「そうかい」
ラインハルトが立ち去ると、ハワードが入れ替わるように話しかける。
「何をしてるのかわからないが、そこに立っていたら、通る人の邪魔になるんじゃないのか?」
「ご、ごめん。別な所に行くよ」
「そうしてくれ」
ハワードは、本当にティルが移動した事を確認した後、下校して行った。
その後、ティルはいつものようにエリンとフェリシアと下校した。
「ばいばい、エリンちゃん、フェリシアちゃん」
「またね!ティルちゃん、フェリシアちゃん」
「うん!ティルちゃん、エリンちゃん」
そうしてティルは2人と別れた。
「ばいばい、エリンちゃん、フェリシアちゃん」
ティルは、自宅への道を歩きながら再び2人が聞いていないのにも関わらず呟いた。
それから、ティルは春休みへと突入。夏休み、冬休みとは違い、宿題がないため、最初からリノの傍にいる日々を過ごし始める。
そうしているうちに3月は最終日となった。相変わらずティルはリノをずっと見つめていた。ノエルは、ティルに声をかける。
「今日もリノを見ててくれてありがとう。だけど、飽きない?」
「んー、大丈夫。私リノ大好き」
「あらー。リノ?いいお姉ちゃんね?」
リノは、あやふやな発音の声を聞かせてくれた。それをノエルは笑顔で聞く。ティルは、ノエルを見つめた後、ニッと笑い、リノの方に視線を向けた。そんなティルの頭をひと撫でした後、ノエルは家事に戻る。しばらくすると、ティルはうつむきこう呟いた。
「リノ、やっぱり、ずっと、ずっと、傍にいたいよ。ずっと、ずっと、傍にいて欲しいよ」
一方、リノは、純真無垢な笑顔をティルに見せる。ティルの唇が、一瞬ブルッとなった。しかし、再びニッとティルは笑い、こう言った。
「そうだ!風船で遊ぼ!!」
そして、ティルは唱える。
「ピアエレ、エレオエンネ、チイ、エンネオ。赤、白、緑!いっぱい飛んで!!」
すると、小さな風船がポコポコと出てくる。そして、フワリフワリ浮かんだり、そっと沈んだりし始める。リノは、それを目で追い始め、手をバタバタさせた。
「ふふっ。リノ!楽しい?」
リノは、再びあやふやな発音の声を上げる。そして、リノの体から不規則に光が溢れる。
「私も楽しいよ!リノ!!」
ティルは、自らが出した沢山の風船の中から緑の風船を手に取り、振った。それにリノは反応し、手を伸ばしてくる。ティルがその風船をリノに渡すと、リノは両手で風船を挟み、ティルのように振り始める。
「リノ!かわいい!!」
ノエルは遠目でその様子を見てこう言った。
「あらあら、楽しそうね?ティルは将来いいお母さんになるわ」
そのノエルの声が耳に届いたティルは、ふっと笑顔を消し、呟いた。
「私、お母さんになれる?」
その夜。ティルは、寝床からエスパランタ1536年3月の暦をひたすら見つめていた。
(ねぇ、明日は来る?明日は、どっち?悩み、解決する?それとも、そのまま?)
そうしているうちに、ティルに抗えない眠気が訪れる。ティルは、それに屈し照明を落とし深い眠りに就いた。
燦々と春の朝日が降り注ぐ中、ティルは目を覚ますが、その表情は、無気力そのものであった。そして、呟いた。
「イテラリピティ」
ティルの頬を涙が伝った。




