15時間目:冬休みと新たな年が始まる
12月のある夜。ティルは、自室にて二学期の成績表をじっと見つめていた。
「試験、大嫌い」
そう呟きながら、昼間自分にかけられた言葉を思い出した。ハワードに、終業式後の放課後にこう言われたのだった。
「一学期の試験と同じく、君は満点か。カンニングでもしてるんじゃないのか?」
「かっ、カンニングっ?し、してないよっ!」
「本当にしてないのか?」
「してない!してない!!」
「嘘じゃないだろうな?ここで学級委員長の僕には、『カンニングしてる』と正直に言っておいた方がいい。誰にも言わないし、バレた時は僕がなんとかしてやる」
「だ、大丈夫だよ!私、何もしてないから!!」
ティルはモニカから配られた成績表をきつく抱え、逃げるように帰宅した。
「カンニングしてるように見えちゃったんだ」
自室にて頭を抱えるティル。今度は、帰宅後の両親とのやり取りを思い出す。グレゴリオが帰宅早々、ティルに話しかけた。
「ティル、明日から冬休みだね?」
「うん!」
「その前に、成績だね」
「う、うん」
ティルの手は躊躇。しかし、渋々成績表をグレゴリオに見せた。グレゴリオは、目を丸くする。
「ノエル!ティル、一学期と一緒だ!全教科満点だ!!」
「凄い!ティル頑張ったのね?」
「うー、ちょっとだけ」
「偉いぞ!ティル!!」
「でも、大変だったんじゃない?」
「う、うん」
ティルは机の上の冬休みの宿題の問題集を見つめ、呟く。
「頑張ってるわけじゃないよ、お父さん、お母さん」
ティルは、成績表を鞄の中にしまいながら、再び冬休みの宿題の問題集を目に映しまた呟く。
「夜更かししてやっちゃお」
それから、ティルは深夜までかけて、夏休みに出された宿題の問題集より薄い問題集を完成させた。
「本当にめんどくさい」
完成させた問題集を鞄に詰めた後、ティルは、その日最後の呟きを寝床の中で響かせた。その直後、まるで急に電源が落ちた機械のように眠りに就いた。
翌朝、ティルは大幅に寝坊する。揺らされる感覚に目を開けると、そこにはリノを抱いたノエルが。そのノエルの声は、多少強い声色だった。
「ティル!もうお昼近いわよ!冬休みだけど、いい加減起きなさい!!」
「うーん、ごめん」
ティルのその日の最初の食事は、朝食と昼食が一緒になってしまった。食事をとりながらティルはこう言った。
「ごめん、お母さん。冬休みの宿題全部やって昨日は寝るの遅かったの」
「宿題は、ちょっとずつでいいのよ。夏休みといい、何で詰め込んじゃうの?」
「だって」
ティルは、一瞬の沈黙の後、こう答えた。
「あ、遊びたいから!」
「もう、しょうがない子。でも、夜更かしして体壊したら遊びたくても遊べなくなっちゃうわよ?」
「ごめん」
うなだれるティルをノエルは少し見つめた後、わずかな笑みを見せこう言った。
「でも、今のところ元気みたいだし、体に気をつけて存分に遊びなさい?」
「うん、わかった」
その後、自室に行ったティルは、呟いた。
「でも、何して遊ぶ?」
その後、ティルは心から楽しいと思える遊びを思いつく事なく冬休みを過ごしていく。そうしているうちにエスパランタ1535年が終わる日を迎えた。その日ティルは、リノの世話に精を出していた。夕方、家の中にグレゴリオの声が響いた。
「ただいま」
「あ、お父さん!おかえり!!」
ティルは、リノの元から離れ、グレゴリオの方に駆け寄った。
「おー。ただいま、ティル。今日もいい子にしてたかい?」
「うん!」
「おかえりなさい、グレゴリオ。もう、ティルはいい子もいい子よ。遊びたい盛りなのに、今日もリノの面倒を見てくれてたんだから」
「お!そうか!偉いぞ?ティル」
グレゴリオは、ティルの頭を撫で、流れるように抱き上げた。
「よし!夕飯食べて、外に行こう!!」
「うん!お父さん!!」
そして、食事の後、身支度を済ませ、家族4人で散歩に出た。近所の家々からも人々が続々と出てくる。そして、皆この街一番の広さを誇る広場へと足を向ける。しかし、ティル達家族は、それと逆方向に歩く。そんな中、ノエルは胸に抱いたリノに話しかける。
「リノ、花火を見せてあげるからね?」
そう言い終えると、ノエルはグレゴリオの腕の中のティルの方に目を向ける。
「ティル、ごめんね?リノを広場に連れて行けないから、今年は花火だけになっちゃって」
「いいの!リノのためだもん!!」
広場では、年越しの催し物が開かれているのだが、産まれたばかりのリノには負担と判断し、一家は遠目で年越しの花火だけを見ると決めていたのだ。
しばらくすると、グレゴリオは言った。
「ここなら見れるかもしれないね、花火」
少し長めの坂道を登りきった所の道端ではあったが、そこでグレゴリオとノエルは足を止めた。更にグレゴリオは、抱き上げていたティルを降ろす。
「うん!見れるよ!花火!!」
ティルは、花火が上がる広場の方角を向いた。少し肌寒い時間であったが、厚着をしてきたのと、家族での雑談が相まってそれを忘れさせてくれた。そんな中、グレゴリオは腕時計をチラッと見て、雑談を締めくくるようにこう言った。
「そろそろ、だね」
すると、広場の方角から小さなポンという音が聞こえた。ノエルの明るい声が、リノに降る。
「始まったわ。リノ?花火よ!」
間髪入れずにドーンと花火が轟き始める。リノは初めて聞く音に驚き、泣き始めてしまった。ノエルは、一転リノをなだめる。そんな様子を見たティルはリノの元に行き、ピョンピョン飛ぶ。
「大丈夫だよ、リノ!花火、綺麗でしょ?」
その声が届いたのか、次第に落ち着くリノ。そんなリノの顔は花火の光に染まる。ノエルはそんなリノを見て言った。
「ありがとう、ティル。リノ、花火が大丈夫になってきたみたい」
「そう!よかった!!」
ティルは、ほっとして自らも花火を堪能し始めた。グレゴリオは、ため息混じりにこう言う。
「いつ見ても、年越しの花火は凄いな」
「遠くだけど、ここで見ても凄いよ!」
ティルは、そう返しながらニコニコした。
15分は続いたであろうか。花火は、一際大きい物が上がり、終了した。グレゴリオは余韻の中、言った。
「新年、おめでとう。ノエル、ティル、そして、リノ!」
「おめでとう、グレゴリオ、ティル、リノ!」
「うん!お父さん!お母さん!リノ!おめでとう!!」
それから、一家は帰宅し、就寝する事に。それぞれ挨拶を交わした後、ティルは自室へ。そして、暦をめくり、エスパランタ1536年1月になった事を改めて噛み締めた。しばらく暦を見つめていたが、照明を落とし、眠りに就いた。
(あと、3ヶ月だなぁ。私の悩み、何もしないで解決して欲しいよ。解決した後に、悩み、言いたい)




