14時間目:一歩近づく大人
11月も半ばとなった。いつものように登校したティルが目にしたのは、エリンがフェリシアに何やら耳打ちをしている光景であった。
「何だろ?エリンちゃんとフェリシアちゃん、内緒話?」
そんな呟きを自らの席で響かせたティルの視線の先には、エリンとフェリシアが見つめ合い、微笑む姿があった。ティルは、軽く首を傾げ再び呟く。
「ま、何でもいいよね」
そうしているうちに、モニカが来る。朝の会を経て授業が始まる。この日の1時間目は、理科の授業だった。ティル他児童達は、いつものように魔法の杖から教科書を出し、学習を進める。モニカは教科書のとある頁を児童達に開かせ、こう言った。
「今日は、ここから動物観察をします。皆さん、教科書はしっかり開きましたね?」
モニカはそう言いながら児童全員が教科書の当該頁を開いている事を見回って確認した。それが終わると、こう唱える。
「エンメア、ティエ、エーレイア、エレイゼータ、ゼータイア、ゼータイオ、エンネイ」
すると、教科書に描かれている犬や猫等の動物達が立体映像のように浮かび上がる。児童達は、かわいらしく動く動物の映像に興奮した。
「さ、実際に触ってみてください」
実物と比べたらかなりの小ささではあったが、教科書の上に現れた動物達は、触れる事が出来る。ティルは、表情を変えずに、手に乗る大きさの犬をその手に包んだ。そんな中ではあったが、エリンがたまらず声を漏らす。
「猫ちゃん、かわいいっ」
フェリシアもそれに続いた。
「わー!うさぎちゃんだ!!あったかい」
それと類する事を、他の児童も口にした。その声の波が収まると、モニカはこう言う。
「これは実体映像ですが、実物も皆さんと一緒。同じ命です。皆さんの命も、動物の命も大切にしていきましょうね」
そんな授業をこの日も6時間目までこなし、皆で下校して行った。
翌日もティルは学校に行くため、家を出る。
「いってきます!」
「いってらっしゃい。今日は、寄り道しないで帰って来るのよ?」
「うん。でも、いつも寄り道してないよ?」
「そうだけど、今日は特によ」
「はーい」
いつものように動く歩道に乗ると、前にエリンとフェリシアが並んで立っていた。
「エリンちゃん!フェリシアちゃん!おはよう!!」
エリンもフェリシアも挨拶を返してくれた。それから3人で登校し、教室に入ると、エリンとフェリシアがお互いに目配せをする。ティルは首を傾げるが、エリンとフェリシアは、鞄から赤や桃色をベースにした華やかな厚紙をほぼ同時に取り出した。ティルはその厚紙を交互に見ながら、こう言った。
「えっ?えっ?えっ?何?何?」
そのティルの言葉を聞きながらエリンはその厚紙をティルに渡した。
「お誕生日、おめでとう!ティルちゃん!!」
「えええっ!ありがとう!エリンちゃん!!」
フェリシアもおずおずと厚紙をティルに渡す。
「ティルちゃん、お誕生日おめでとう」
「フェリシアちゃんも、ありがとう!」
そう、この日はティルが7歳となる日なのだ。エリンとフェリシアから渡された厚紙には、誕生日を祝う言葉と、「仲良くしようね」といった文言が書かれていた。ティルは、それを読んで言った。
「もしかして、昨日2人が内緒話してたの、これの事?」
「えっ、見てたんだ、ティルちゃん。そうだよ。エリンちゃんから聞いたの、ティルちゃんが今日お誕生日だって」
「それでね?私から言ったの。お手紙書こう?って」
「フェリシアちゃん、エリンちゃん、嬉しいよ!ありがとう!!」
そんな日の授業も終わり、ティルはいつもの通りエリンとフェリシアの3人で下校する。ティルは、別れ際にこう言った。
「誕生日のお手紙本当にありがとう!!ばいばい!!」
エリンとフェリシアそれぞれニコニコしながら手を振ってくれた。その後、ノエルの言いつけ通りに寄り道をせずに帰宅する。
「ただいま」
「おお、ティル、おかえり」
グレゴリオがティルを迎える。そして、こう声を上げた。
「ノエル!ティルが帰ったよ!!」
「わかったわ!」
家の奥からノエルの声が届く。グレゴリオは、ティルを居間に連れて行く。すると、食卓には焼き菓子等のお菓子が並んでいた。
「お父さん?お母さん?」
ノエルは、リノを抱っこしながら満面の笑みを浮かべていた。ティルは、そんなノエルを見た後、傍らにいるグレゴリオを見上げると、優しい微笑みがその目に映った。そんな両親が声を揃えて唱える。
「ビウオエンネ。チオエンメ、ピエレエ、アエンネ、エンネオ。お誕生日おめでとう!ティル!!」
2人の魔法は、空間に誕生日を祝う文言を象る風船を浮かび上がらせ、蝶々や小鳥の幻影を生み出す。更に、きらびやかな装飾が部屋いっぱいに飾られた。そして、台所からケーキが浮かんで移動して来る。
「わぁー!ありがとう!お父さん!!お母さん!!」
そう声を上げたティルをリノはつぶらな瞳で見つめた。
「そして、リノもね!」
ティルは微笑んだ。ケーキの上には、ろうそくの火が揺らめいていた。それをティルは思いっきり吹き消す。グレゴリオとノエルは一層優しく明るい笑顔になった。それから、ティルの誕生会を兼ねたおやつの時間になる。グレゴリオはしみじみ呟いた。
「あれから、7年か」
「そうね。グレゴリオ」
ティルはそんな会話をする両親を交互に見ながら取り分けられたケーキを頬張る。
「美味しい」
ふわふわした甘い刺激がティルの舌を喜ばせる。そのティルの呟きに、グレゴリオとノエルの柔らかい視線が降り注いだ。
しばらくすると、グレゴリオは時計を見た。そして、言う。
「そろそろ、出かける。ごめんな?ティル。誕生日に最後までいられなくて」
「ううん!お父さん、お仕事頑張ってね!!ありがとう!!」
そして、グレゴリオは瞬間移動にて夜勤の仕事へと向かって行った。
「あ、お父さんにエリンちゃんとフェリシアちゃんからもらったお手紙、見せるの忘れてた」
グレゴリオが消えた空間を見つめティルは言った。ノエルはそんなティルに話しかける。
「お友達からお手紙もらったのね?」
「うん!」
「私に見せて?」
ティルは鞄からエリンとフェリシアからもらった手紙を取り出す。
「あらー!素敵なお手紙ね!!」
「でしょ?」
ノエルは、ティルの頭を撫でた。ノエルの隣に座らせられているリノが、手紙に手を伸ばす。バタバタさせながら伸ばされたリノの手を愛おしそうにティルは見て、リノの目の前に手紙を差し出す。リノはそのつぶらな瞳で手紙を見回すと、ニコニコした。ノエルは、それを見て笑顔で言う。
「リノも喜んでるわね?」
ティルはニッと笑った。そんな誕生会も終わり、ティルは手紙と共に自室へ。誕生日ではあるが、それとは関係なしに出されている宿題にティルは手をつけた。
「7歳かぁ」
ティルはそう呟きながら、宿題を完成させた。すると、夕飯のいい香りがティルの鼻をくすぐる。
「今日は、煮込みご飯だ」
宿題を鞄にしまい、ティルは自室から出て行った。




