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13時間目:遅刻する

10月も終わりに近づいたある朝。いつも通りティルはこう言って登校して行った。


「お母さん、いってきます」

「いってらっしゃい」


 そして、いつも通り大通りの動く歩道を目指す。しかし、前にいた子供達が困惑していた。


「どうしたんだろ?」


 ティルは、その集団の中に飛び込んだ。すると、子供達が口々に「歩道が止まっている」と言っていた。ティルは、慌てた。


「ええっ?遅刻しちゃうよ!!」


 そう言いながら、ティルは家に走って戻った。


「ティル?何で帰って来たの?」

「歩道が、止まってるの!!」

「ええっ?」

「どうしよう?」


 ノエルは、腕に抱いたリノを見つつ、対応を思案した。そして、ティルに言った。


「お母さんが送るわ!」

「いいの?」


 ノエルは頷く。リノを抱えたまま、ティルの手を引く。そして、外に出ると、こう唱えた。


「チアッカイア、ヴエ。施錠」


 自宅は薄いガラスのような傘に覆われた。それを確認すると、ノエルは再び唱える。


「エッセチオ、ピア!」


 ノエルは、作成した箒にティルを乗せ更に唱えた。


「ヴオ、エレア、エーレエ!メビラ学園へ!」

「お母さん、ありがとう」

「しっかり掴まるのよ?」

「うん!」


 リノを抱えながら前で箒を操るノエルの背中にティルは強くしがみついた。一方、リノは驚いたのか泣き始めてしまった。ティルはその泣き声に即反応した。


「リノ、ごめん!」

「大丈夫よ、リノ。お母さんがいるからね」


 ノエルはリノをあやしながらメビラ学園を目指し飛ぶ。すると、隣からこう声をかけられた。


「ティルちゃん!」

「エリンちゃん!」


 エリンも母親の箒にて登校していた。ノエルはエリンの母親にこう声をかける。


「大変ですね!」

「お互いね!でも、赤ちゃん泣いちゃってそちらの方が大変じゃないですか?」

「大丈夫ですよ」


 そして、ティルとエリンは、登校時間ぎりぎりに学校へと着いた。


「ありがとう!お母さん!!」


 ティルは、そう言うと、エリンと走って校舎へと入って行った。ノエルとエリンの母親は、再び箒に乗り帰宅して行く。ティルは、無事に教室の席に着くと呟いた。


「もう、何で止まったの?歩道」


 モニカの耳にも動く歩道が止まったという報せは届いていた。教室に瞬間移動にて入ってくるなり全員が無事に登校して来た事を確認する。そして、児童達にこう声をかけた。


「皆さん、今朝は大変でした。学校も、何故動く歩道が全部止まったのか調べています」


 そんなモニカの言葉から始まったこの日の授業だったが、内容はいつも通り。そして、通常通りの下校の時間が来る。


「はい、皆さん、お知らせです。歩道は皆さんが授業を受けている間に動くようになりました!気をつけて下校してください!!」


 それを受け、ティルは安堵した。


「よかった。お母さんに迎えに来てもらわなくて済む」


 そして、いつものようにエリンとフェリシア、ティルの3人で下校した。家に到着すると、ノエルは言った。


「おかえり。歩道、動いてよかったわね」

「うん!」

「それで、今日は原因を調べるからグレゴリオは帰れないって」

「そう。お仕事大変、お父さん」


 傍らにリノのいるノエルとの夕飯を経て、ティルは就寝した。


 翌日は、学校が休みであった。


「おはよう、お母さん」

「おはよう」


 そう挨拶を交わすと、グレゴリオがようやく帰宅した。


「ただいま」

「お父さん!おかえり!!」


 グレゴリオは、いつもより体が重そうだった。ノエルはそんな夫に声をかける。


「だいぶ、疲れているようね」

「抗削魔法の使い手とやり合った。今回の事は、彼らがやった事だったよ。交通管理局に乗り込んで自分達の力を誇示して行ったそうだ」


 そのグレゴリオの言葉を一部、ティルは復唱した。


「こうさく、まほう」


 ノエルは少し険しい顔になる。


「まさか、犯人と?」

「かなり気を使ったよ。今回の逮捕は」

「私達、正統魔法の使い手の力を全部無効化しちゃうのよね」


 グレゴリオは、一度歯ぎしりをした後言った。


「同僚がやられた。今、病院で治療中だよ」

「魔法が戻らなかったら、大変よね?」

「そのまま殉職だ」


 ノエルは明らかに震え始め、グレゴリオの腕を掴んだ。グレゴリオは、はっとしたがすぐに努めて穏やかな表情をした。


「僕は、無事に帰って来た。大丈夫だよ、ノエル。ごめん、動揺させてしまったね」


 ティルは、グレゴリオがノエルの背中をポンポン叩くのを見ながら小さく呟いた。


「お父さんとお母さん、難しい話してるなぁ。ね、リノ?」


 リノはそのつぶらな瞳でティルを見つめるだけだった。ティルは、ニッと笑う。


「やっぱり、リノ、かわいい」


 ティルがそう言うと、リノはフニャフニャ笑った。


 翌々日、ティルは登校して行く。いつものように動く歩道は動いていた。そこにティルは乗った。


「こうやって登校出来るのも、大人の人が、魔法で働いてくれてるからだよね。私も、早く大人になりたいな。そして、お母さんみたいにお仕事する人を支えたいよ」


 延々と呟くと、少し先の方にフェリシアがいる事に気づいた。歩道は動いてはいるが、少し歩いてフェリシアに近寄る。


「フェリシアちゃん!おはよ!!」

「おはよう!ティルちゃん!!」


 それから、2人は動く歩道を降り、メビラ学園に繋がる道を歩き始めた。すると、視線の先にエリンを見る。ティルはフェリシアと共に大きく声を届けた。「エリンちゃん!!」と。


 やがて、モニカが教室に入って来るが、その顔は少し険しい物であった。


「皆さん、授業の前にお話があります」


 ティル他児童は、モニカに注目する。


「先週、動く歩道が止まったのは、抗削魔法の使い手が力を見せびらかしに行ったのが原因でした」


 ざわめく教室内。ティルは、事前にグレゴリオから話を聞いていたため、特に感情が動く事はなかった。しかし、周囲を見渡すと、「抗削魔法」の事がわからない様子を見せる児童や、逆に恐怖を感じているような表情の児童がいた。そんな中、ラインハルトは表情が引き締まっていた。


「マラブルくんも、騎士団のお父さんから話、聞いてたのかな?」


 そんなティルの小さな呟きをかき消すようにモニカは話を続ける。


「メビラ学園にも、西の方にあるナウロに抗削魔法学部がありますが、今回のように力を見せびらかすために行く事はやめてください。また、それとは反対にあなた方正統魔法学部の皆さんに、抗削魔法学部の皆さんから、行き過ぎたいたずらがされないように私達は力を注ぎますので、安心して学んでいってください」


 いつものように児童達は、「はーい」と声を揃える。勿論、ティルもそうした。そのティルの視線の先で、ラインハルトが力強く頷いていた。そんな中、ハワードが立ち上がる。


「少なくとも、この学級の人はナウロに行ってしまう人達でないと思っている。しっかり先生の言う事を皆で守っていこう!どうだ?」

「賛成だよ!」


 ラインハルトは挙手の上、そう返した。つられてティルも手を挙げた。それを真似するように、エリンやフェリシア、他の児童も次々と手を挙げる。それを見たモニカは、安心した表情で朝の学級会を閉じた。


 そんな朝ではあったが、この日の授業は、極めて普通の授業で、通常通りに放課後を迎え、下校し始めた。ティルは、ラインハルトに駆け寄る。


「マラブルくん!」

「どうしたんだい?」

「あの、マラブルくんのお父さん、あの事でお仕事したの?」

「警察を助けたって言ってたよ」

「じゃあ、私のお父さんと一緒にお仕事したかも」

「そうかい。沢山の抗削魔法の人達が動く歩道を動かしている正統魔法の人達を攻撃していたって聞いたよ」

「えっ。私のお父さんは、そこまで詳しく言ってなかった。お父さんとは違う警察の人が病院に行ってるって事は聞いたけど」

「警察の?それは聞いてなかった。こわいね、抗削魔法って」

「うん」


 それを近くで聞いていたハワードが話に加わる。


「こんな時、議会は直接何も出来ないと、父は悔しがっていたな。法律を作っても、守ってもらわないと何の力にもならないって」

「学級委員長」


 そうティルが呟くように言った後、ハワードはこう言った。


「まあ、2人とも、気をつけて帰れよ」


 ティルは、短く返した。


「うん、学級委員長」


 ラインハルトはそのハワードの言葉に頷きながらティルより先に歩き出し、帰宅して行った。ティルはその後に続き、帰路に就く。


「抗削魔法、やっぱりこわいなぁ」


 そう言いながら、ティルは帰宅した。その後、ティルが寝る間際にグレゴリオも帰宅する。


「おかえり、お父さん」

「ただいま、ティル」

「私、寝る。おやすみなさい」

「うん、おやすみ」


 そうして、ティルは自室へと向かうが、グレゴリオとノエルの会話が聞こえた。


「同僚、回復したよ」

「よかったわね?」


 ティルは、自室に入りながら呟いた。


「でも、こわいのは変わらないよね」




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