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11時間目:弟との夏休みは終わっていく

ノエルが出産した数日後、朝早くにティルは、グレゴリオの瞬間移動の魔法で産科医院に行った。ノエルとティルの弟は、母子共に経過がよく、この日退院する。2人は迎えに来たのだ。


「お母さん!」

「ティル、いい子にしてた?」

「うん!」


 グレゴリオは、懐から首輪を出す。そして、呟いた。


「母さん、一緒に暮らす家族が1人増えるんだ。ああ、母さん」


 そんなグレゴリオの声を聞きながら、ティルは弟の顔を覗き込み見つめた。つぶらな瞳に見つめ返され、歓喜の声を上げる。


「んー!かわいい!!弟、かわいい!!」


 ノエルやグレゴリオ、医院の職員達はそんなティルの歓声に微笑んだ。しかし、弟はティルの声に驚き、泣き始めてしまった。ノエルは、弟を抱き上げ、緩やかに揺らす。


「あらあら。さっきの声は、お姉ちゃんよ。いい子だから泣かないで」

「ごめん、お母さん。ごめん、弟」


 ティルは、縮こまった。グレゴリオがそんなティルの頭を撫でる。


「かわいいからね、ティルが大声上げるのも無理はないよ」

「うー、でも、ごめん」


 次第に弟は泣き止み、ノエルの腕の中で眠った。ほのかな光が弟の体から漏れ出てくる。


「弟!光った!!」


 ティルが反応すると、グレゴリオは言った。


「赤ちゃんにはね?いっぱい成長の為の魔法が詰まってるんだよ。だから時々、魔法が溢れてきて光るんだ」

「ふーん」

「ティルも赤ちゃんだった頃、それはそれは元気に光ったんだよ?」

「そうだったんだ!」


 その後、ティルはグレゴリオの、ティルの弟はノエルの瞬間移動にて自宅に帰って行った。帰るなり、ひとつの大事な話し合いが始まる。グレゴリオは囲いのある寝床に寝かされた自らの息子に視線を注ぎ、こう切り出した。


「この子の名前を決めようか」

「そうね」


 グレゴリオとノエルは、机に座り、自動筆記の筆で思いついた名前を書き出していく。そして、ある程度書いた後、ノエルがティルに話しかけた。


「ティルに選んでもらおうかな?この子の名前」

「いいねノエル。ティル、弟の名前、どれがいい?」


 ティルは、迷いなくグレゴリオが書いたとある名前を指差した。ノエルが言った。


「リノ。リノね?」

「うん!弟、リノ!!」

「ティルに、リノ!僕とノエル、4人でこれから家族だ!」


 そんなグレゴリオの一言を受け、ティルはノエルと共に頷いた。


 それからというものの、毎日ティルはリノにべったりだった。朝起きてすぐにリノの寝床へ行き、何をするのでもなくずっとリノを見続ける。時には、リノの傍らで居眠りをしてしまう日もあった。


 そんなある日、グレゴリオとノエルは、居眠りするティルを見てお互いに見つめ合い言った。


「ノエル。ティルは本当にリノが好きだね?」

「そうなのよ。きっと、楽しみだったのね」


 その両親の会話が耳に届いたティルは、一旦目を覚まして呟いた。


「とっても楽しみだったよ、お父さん、お母さん。リノはかわいい。かわいいよ。だから、ずっと一緒にいたい」


 ほのかな光を不規則に放つリノをティルは見つめ、再び眠りの世界へと旅立った。勿論、リノは他の赤ちゃんと同様に、よく泣く。ティルの居眠りは、リノの泣き声で強制終了した。


「わあっ!リノ?ど、どうしたの?ミルク?おむつ?」


 ティルは、リノの頭を撫でて落ち着かせようとする。そんな中、ノエルが来る。


「ミルクの時間ね。リノ、遅れてごめんね?」


 ノエルは、リノを一旦抱き上げ落ち着かせた後、授乳し始める。


「リノ、お腹すいてた」

「そうね。ティルも赤ちゃんの時、こんな風に『お腹すいたよ』って言ってくれたわ」

「そうなの?」

「そうよ。でも、ティルの時は私もグレゴリオも、どうしてティルが泣いてるのかわからなかった時があったのよ」


 グレゴリオもその話に加わる。


「そうだったね。ティルの言葉をわかってやれなかったんだ。ごめんね?ティル」

「大丈夫だよ、お父さん」


 時は過ぎ、9月となった。ティルの夏休みは、終わってしまった。二学期がこの日始まるのだが、ティルは、鞄に宿題を入れてあるなど登校の準備はしているものの、リノの隣に制服姿で座り込み、動かない。


「ほら、学校遅れるよ?」


 グレゴリオが登校を催促するが、ティルはこう返した。


「やだー。リノの傍にいるー」

「ティル。そんな理由で学校は休めないよ。学校行きたくない理由に、リノを使っちゃ駄目だよ」

「違うのー。やだー、やなのー、リノと離れたくないー」

「ほら!立って!!」


 グレゴリオは、ティルの鞄を持ちながらティル本人を抱き上げる。ティルは、浮いた足をバタバタさせながら大声を上げた。


「やだやだ!お父さん!!」

「やだじゃない!行くよ!!」


 グレゴリオは、瞬間移動でティルを登校させる事を決断した。


「ノエル、ティルを学校に送ってから出勤する」

「わかったわ。ティル、グレゴリオを困らせちゃ駄目よ」

「お母さん!やだ!学校行きたくない!!」

「ごめんな、ティル。ノエル、行ってくるよ」

「いってらっしゃい。グレゴリオ、ティル」


 そして、グレゴリオは無情にも呪文を唱えた。


「ティエ、エレエ、ティエーレア、エッセピオエーレ、ティオ。メビラ学園へ!」

「やだー!!」


 次の瞬間、ティルの目に学校の校門が映る。ティルはようやくグレゴリオの腕から解放される。グレゴリオから鞄を受け取ったティルはグレゴリオの顔を見上げ、むくれた。


「うー、お父さん」

「じゃあ、今日は半日なんだから頑張って学校行ってくるんだよ。僕はお仕事行くからね」

「うー、わかったー」


 グレゴリオは、そのティルの返答を聞き届けた後、瞬間移動にて出勤して行った。ティルは、渋々校舎に入る。すると、フェリシアが声をかけてきた。


「おはよう!ティルちゃん!!」

「おはよう、フェリシアちゃん」


 遅れて後ろからエリンが来た。


「ティルちゃん!おはよう!!」

「エリンちゃん、おはよう」

「どうしたの?ティルちゃん、元気ないね?何かあった?」


 少しの時間、ティルはエリンの顔を見つめた。それから口を開く。


「夏休みに、弟産まれたの」

「えっ!えー!!凄い!よかったじゃん!!」


 エリンはそう言って明るい顔を見せてくれた。フェリシアもエリンと同様に明るい顔をしてこう尋ねた。


「弟、何て名前なの?」

「リノだよ!」


 その返答を聞いた後、エリンは首を傾げる。


「いい事があったのに、何で元気ないの?」

「リノ、とってもかわいくてかわいくて、今日、学校来たくなかったの」


 フェリシアは笑った。


「ティルちゃん、リノくんの事凄く好きになっちゃったんだね!」


 エリンも笑う。ティルは、笑う2人を見てこう言った。


「うん、大好き!リノの事!!」


 そんな話をしながらティル、エリン、フェリシアは教室に入った。こうして、ティルは二学期を始めた。



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