105時間目:手紙
時間軸を統合すると決めた翌日。モニカは朝の会が終わった後、ティルを呼び、手紙を渡した。
「これは、学園長からです」
「ありがとうございます」
ティルは、手紙を受け取ると、自らの席に戻ろうとする。
「ラーナーさん、最近、学園長に目をかけられているようですが、何かあったのですか?担任として、心配で」
(えっと、どうしよう。嘘つく?)
ティルは、黙ってしまう。モニカの顔の心配の色が濃くなる。
(あ、何か言わなきゃ)
「あ、の、学園長先生とお友達なんです。私」
(これ、嘘?本当?)
モニカは、目を丸くする。
「ラーナーさんと学園長が?そんな、いつお友達になったのですか?」
「ま、前の年です」
「そうだったんですか。でも、素敵なお話ですね?お友達が学園長の学校に通う事になったというのも」
「そうですね」
そうティルが返すと、1時間目が始まる鐘の音が鳴る。
「引き止めてすみません。さ、席に戻ってください」
「はい」
ティルは、自らの席に戻ると、手紙を机上の左上の端に置き、授業を受け始めた。そんな様子を右斜め前の席からハワードが一瞬だが見ていた。
1時間目の授業が終わる。ティルは、イヴァンからの手紙を開けようとするが、ハワードに声をかけられ、手が止まった。
「ラーナーさん、先生から何を?」
「えっとね、お友達からの手紙、もらったの」
「何で先生から?」
「オリーン先生じゃない先生とお友達なの。オリーン先生、その先生の代わりに手紙を届けてくれたんだ」
「誰だ?」
(うー、それ以上訊かないでっ!ハワードくん!!だけど、正直な事言うよ)
「学園長先生!前の年にね、お友達になってたんだ!!」
「なん、だと?学級委員長である僕すら学園長先生と友達じゃないのに」
「ハワードくん、学園長先生とお友達になりたい?紹介する?」
「いや、遠慮する。実力で友人になる」
「そうなの。頑張ってね!」
(って話でいいのかなぁ?)
気を取り直し、イヴァンからの手紙を開けようとしたが、2時間目が始まる鐘の音が鳴ってしまった。再び、ティルは手紙を机上の左上に置き、授業を受ける。
(次の休み時間には、読みたいなぁ。学園長先生からのお手紙)
2時間目の授業が終わる。ティルは、イヴァンからの手紙を開けようとするが、今度はエリンに声をかけられ、手が止まった。
「ティルちゃん、さっきの休み時間、学級委員長と話してた事、本当なの?」
「えっ?何?エリンちゃん」
「学園長先生とティルちゃんがお友達って。聞こえちゃったんだけど、びっくりしたよ?」
「そ、そうなんだ!」
(エリンちゃんに、聞かれちゃった。って事は、クラスの皆に聞かれちゃったのかも)
「ティルちゃん、幼稚園の時、そんな事言ってなかったよね?大人のお友達がいるって」
(う、エリンちゃん、その時はまだ学園長先生と会ってないんだけど。うー、どうしよう)
「あっ、あの、最後の春休みに初めて会ったの!」
(エリンちゃんには、嘘ついちゃった)
「そうなんだ。ティルちゃん」
「あの、エリンちゃんも学園長先生とお友達になる?」
「えっと、ちょっと、学園長先生、こわい」
「そうなの。じゃあ止めておこうね」
「うん」
エリンは、自らの席に戻って行った。ティルはそれを目で追いかけた。
(お手紙、家に帰ったら開けよう)
イヴァンからの手紙は、鞄に入れられた。
そうして、この日1日の授業を終え、ティルは帰宅した。
「ただいま!」
「おかえり、ティル」
ノエルが迎えた。流れるようにティルは自室へ行く。そして、鞄からイヴァンからの手紙を取り出し、ようやくそれを開封した。
「なんだろう?」
その手紙には、こう書いてあった。
「ノヴァ・テンポーレ、時間を混ぜる時を、来年の3月31日に決めた。やはり、時間のサイクルを変えたくないからな」
「来年かぁ」
手紙の内容は続く。
「その時に、ひとつだけ問題がある。時間を混ぜる為の呪文がない。過去のテンポーレもやった事のない事をやる為だ。そこで、ノヴァ・テンポーレに呪文を考えて欲しい」
「えっ、私、出来る?」
そして、手紙はこう締めくくられた。
「実行まで、半年はある。ゆっくり考えるように。これは、最初で最後の私からの宿題だ。初等部1年生の知識しか持たないノヴァ・テンポーレには、正直難しい話だとは思うが、君は、高等部まで修了した年数、ここ、メビラ学園で学習してきた筈だ。出来ると信じている。では、3月31日にまた会おう。イヴァン・オーケン」
「半年。頑張ってみようかな?」
それから、夕飯の時間が来た。ティルは、食事中にこう尋ねる。
「ねぇ、お父さん、お母さん」
グレゴリオと、傍らにリノを座らせているノエルが一斉にティルを見た。
「あの、魔法の呪文って、どうやって作るの?」
「どうしたの?急に?」
ノエルが尋ね返した。ティルは、グレゴリオとノエルの顔を交互に見ながら言った。
「学校の宿題なんだ」
「そうかい。でも、初等部1年生でその宿題は、早いような気がするよ」
グレゴリオは首を傾げた。ノエルも首を傾げたがこう言った。
「今の教育の仕方が変わったのかも」
「そうか。それなら、僕もうろ覚えだけど、教えるよ」
「お願い!」
それを受け、グレゴリオは今ある知識を話し始めた。
「昔のレボルテの言葉を参考にしてるらしいんだ。それを分解して組み直しているようだよ」
「ティルに、昔のレボルテの言葉、わかるかしら?」
「頑張る!学校の図書室で調べてみる!!」
「そうしたらいいよ」
(図書室なんて、行った事ないなぁ)
「だから、宿題の為に、時々帰りが遅くなるかも!」
「わかったわ。でも、あんまり遅くならないようにね?そして、気をつけて帰ってくるのよ?」
「うん!!」
そのやり取りを、リノはほわんほわん光りながら見つめていた。
翌日の放課後。ティルは初めて図書室へと足を踏み入れた。
「レボルテの古い言葉がわかる本って、どれだろう?」
ここは、初等部から高等部向けの本が揃っている。その中から、古い言葉を集めた本を探すが、途中、絵本が目に入り、立ち止まる。
「面白そうな絵本」
(絵本読みに来たんじゃない!)
ティルは頭を横に何度も振り、目的の本を再度探す。すると、それらしい本を見つける。
「これ、かな?」
重い辞書であった。それを取り出し、閲覧のための机の方に行くと、ラインハルトが本を読み耽っていた。
「ラインハルト、くん」
(と、隣、行きたい)
「ねぇ、マラブルくん、隣、いい?」
「いいよ?ラーナーさん。珍しいね?図書室に来るなんて」
「今日、初めてなの」
「そうかい」
ラインハルトは、そう返すと、自分の本へと視線を移した。ティルはラインハルトの隣に座り、辞書を開く。
(わぁ、難しい言葉ばっかり。大丈夫かなぁ?私)
ティルは、辞書をゆっくり読み進める。
(無理かも)
その難しさに、早くも音を上げそうになったが、その時、優しい歌声が聞こえて来た。ティルは呟く。
「歌?」
(なんか、聴いた事がある歌)
そして、ティルは立ち上がる。同時に、ラインハルトも立ち上がった。ティルとラインハルトは、歌の聞こえる方向へと向かう。窓際に行くと、フェリシアの姿が。歌声の主は、フェリシアであった。ラインハルトは窓を開ける。ティルは言った。
「メンデスさん、歌上手!」
「ありがとう。いいお天気だったから、帰る前に歌いたくなっちゃったの」
それを受け、ラインハルトが言った。
「近くで、聴いていいかい?」
「あっ、私も!」
「いいよ?」
ティルとラインハルトは自らが借りた本を手に、表へ。フェリシアは言った。
「じゃあ、次は、『ひなぎく』を歌おうかな?」
ティルは、ラインハルトと共に頷いた。フェリシアは歌い始める。そして、ティルとラインハルトは本を再び読み始めた。
(なんか、とっても上手な歌を聴いてると、難しい本も、頑張って読めそう)
やがて、フェリシアは歌い終わった。そして、ティルとラインハルトの読んでいる本を軽く覗き込んだ。
「マラブルくんは、戦い方の本。ラーナーさんは、難しそうな本。2人とも、頭がいいんだね?」
ラインハルトは返す。
「褒めてくれてありがとう。ラーナーさんも凄いね」
「あっ、ありがとう。でも、あんまりわかんなくて」
「わからない本をどうして読んでるんだい?」
「私、学園長先生とお友達になって、特別な宿題を出されちゃったの」
ラインハルトとフェリシアは「へぇ、凄い!」と声を揃えた。そして、ラインハルトは言う。
「ラーナーさん、頑張ってね」
「私、応援するよ。ラーナーさん」
フェリシアもそう返した。ティルはそれに応え言った。
「ありがとう!頑張るね!!」




