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105/108

105時間目:手紙

時間軸を統合すると決めた翌日。モニカは朝の会が終わった後、ティルを呼び、手紙を渡した。


「これは、学園長からです」

「ありがとうございます」


 ティルは、手紙を受け取ると、自らの席に戻ろうとする。


「ラーナーさん、最近、学園長に目をかけられているようですが、何かあったのですか?担任として、心配で」


(えっと、どうしよう。嘘つく?)


 ティルは、黙ってしまう。モニカの顔の心配の色が濃くなる。


(あ、何か言わなきゃ)


「あ、の、学園長先生とお友達なんです。私」


(これ、嘘?本当?)


 モニカは、目を丸くする。


「ラーナーさんと学園長が?そんな、いつお友達になったのですか?」

「ま、前の年です」

「そうだったんですか。でも、素敵なお話ですね?お友達が学園長の学校に通う事になったというのも」

「そうですね」


 そうティルが返すと、1時間目が始まる鐘の音が鳴る。


「引き止めてすみません。さ、席に戻ってください」

「はい」


 ティルは、自らの席に戻ると、手紙を机上の左上の端に置き、授業を受け始めた。そんな様子を右斜め前の席からハワードが一瞬だが見ていた。


 1時間目の授業が終わる。ティルは、イヴァンからの手紙を開けようとするが、ハワードに声をかけられ、手が止まった。


「ラーナーさん、先生から何を?」

「えっとね、お友達からの手紙、もらったの」

「何で先生から?」

「オリーン先生じゃない先生とお友達なの。オリーン先生、その先生の代わりに手紙を届けてくれたんだ」

「誰だ?」


(うー、それ以上訊かないでっ!ハワードくん!!だけど、正直な事言うよ)


「学園長先生!前の年にね、お友達になってたんだ!!」

「なん、だと?学級委員長である僕すら学園長先生と友達じゃないのに」

「ハワードくん、学園長先生とお友達になりたい?紹介する?」

「いや、遠慮する。実力で友人になる」

「そうなの。頑張ってね!」


(って話でいいのかなぁ?)


 気を取り直し、イヴァンからの手紙を開けようとしたが、2時間目が始まる鐘の音が鳴ってしまった。再び、ティルは手紙を机上の左上に置き、授業を受ける。


(次の休み時間には、読みたいなぁ。学園長先生からのお手紙)


 2時間目の授業が終わる。ティルは、イヴァンからの手紙を開けようとするが、今度はエリンに声をかけられ、手が止まった。


「ティルちゃん、さっきの休み時間、学級委員長と話してた事、本当なの?」

「えっ?何?エリンちゃん」

「学園長先生とティルちゃんがお友達って。聞こえちゃったんだけど、びっくりしたよ?」

「そ、そうなんだ!」


(エリンちゃんに、聞かれちゃった。って事は、クラスの皆に聞かれちゃったのかも)


「ティルちゃん、幼稚園の時、そんな事言ってなかったよね?大人のお友達がいるって」


(う、エリンちゃん、その時はまだ学園長先生と会ってないんだけど。うー、どうしよう)


「あっ、あの、最後の春休みに初めて会ったの!」


(エリンちゃんには、嘘ついちゃった)


「そうなんだ。ティルちゃん」

「あの、エリンちゃんも学園長先生とお友達になる?」

「えっと、ちょっと、学園長先生、こわい」

「そうなの。じゃあ止めておこうね」

「うん」


 エリンは、自らの席に戻って行った。ティルはそれを目で追いかけた。


(お手紙、家に帰ったら開けよう)


 イヴァンからの手紙は、鞄に入れられた。


 そうして、この日1日の授業を終え、ティルは帰宅した。


「ただいま!」

「おかえり、ティル」


 ノエルが迎えた。流れるようにティルは自室へ行く。そして、鞄からイヴァンからの手紙を取り出し、ようやくそれを開封した。


「なんだろう?」


 その手紙には、こう書いてあった。


「ノヴァ・テンポーレ、時間を混ぜる時を、来年の3月31日に決めた。やはり、時間のサイクルを変えたくないからな」

「来年かぁ」


 手紙の内容は続く。


「その時に、ひとつだけ問題がある。時間を混ぜる為の呪文がない。過去のテンポーレもやった事のない事をやる為だ。そこで、ノヴァ・テンポーレに呪文を考えて欲しい」

「えっ、私、出来る?」


 そして、手紙はこう締めくくられた。


「実行まで、半年はある。ゆっくり考えるように。これは、最初で最後の私からの宿題だ。初等部1年生の知識しか持たないノヴァ・テンポーレには、正直難しい話だとは思うが、君は、高等部まで修了した年数、ここ、メビラ学園で学習してきた筈だ。出来ると信じている。では、3月31日にまた会おう。イヴァン・オーケン」

「半年。頑張ってみようかな?」


 それから、夕飯の時間が来た。ティルは、食事中にこう尋ねる。


「ねぇ、お父さん、お母さん」


 グレゴリオと、傍らにリノを座らせているノエルが一斉にティルを見た。


「あの、魔法の呪文って、どうやって作るの?」

「どうしたの?急に?」


 ノエルが尋ね返した。ティルは、グレゴリオとノエルの顔を交互に見ながら言った。


「学校の宿題なんだ」

「そうかい。でも、初等部1年生でその宿題は、早いような気がするよ」


 グレゴリオは首を傾げた。ノエルも首を傾げたがこう言った。


「今の教育の仕方が変わったのかも」

「そうか。それなら、僕もうろ覚えだけど、教えるよ」

「お願い!」


 それを受け、グレゴリオは今ある知識を話し始めた。


「昔のレボルテの言葉を参考にしてるらしいんだ。それを分解して組み直しているようだよ」

「ティルに、昔のレボルテの言葉、わかるかしら?」

「頑張る!学校の図書室で調べてみる!!」

「そうしたらいいよ」


(図書室なんて、行った事ないなぁ)


「だから、宿題の為に、時々帰りが遅くなるかも!」

「わかったわ。でも、あんまり遅くならないようにね?そして、気をつけて帰ってくるのよ?」

「うん!!」


 そのやり取りを、リノはほわんほわん光りながら見つめていた。


 翌日の放課後。ティルは初めて図書室へと足を踏み入れた。


「レボルテの古い言葉がわかる本って、どれだろう?」


 ここは、初等部から高等部向けの本が揃っている。その中から、古い言葉を集めた本を探すが、途中、絵本が目に入り、立ち止まる。


「面白そうな絵本」


(絵本読みに来たんじゃない!)


 ティルは頭を横に何度も振り、目的の本を再度探す。すると、それらしい本を見つける。


「これ、かな?」


 重い辞書であった。それを取り出し、閲覧のための机の方に行くと、ラインハルトが本を読み耽っていた。


「ラインハルト、くん」


(と、隣、行きたい)


「ねぇ、マラブルくん、隣、いい?」

「いいよ?ラーナーさん。珍しいね?図書室に来るなんて」

「今日、初めてなの」

「そうかい」


 ラインハルトは、そう返すと、自分の本へと視線を移した。ティルはラインハルトの隣に座り、辞書を開く。


(わぁ、難しい言葉ばっかり。大丈夫かなぁ?私)


 ティルは、辞書をゆっくり読み進める。


(無理かも)


 その難しさに、早くも音を上げそうになったが、その時、優しい歌声が聞こえて来た。ティルは呟く。


「歌?」


(なんか、聴いた事がある歌)


 そして、ティルは立ち上がる。同時に、ラインハルトも立ち上がった。ティルとラインハルトは、歌の聞こえる方向へと向かう。窓際に行くと、フェリシアの姿が。歌声の主は、フェリシアであった。ラインハルトは窓を開ける。ティルは言った。


「メンデスさん、歌上手!」

「ありがとう。いいお天気だったから、帰る前に歌いたくなっちゃったの」


 それを受け、ラインハルトが言った。


「近くで、聴いていいかい?」

「あっ、私も!」

「いいよ?」


 ティルとラインハルトは自らが借りた本を手に、表へ。フェリシアは言った。


「じゃあ、次は、『ひなぎく』を歌おうかな?」


 ティルは、ラインハルトと共に頷いた。フェリシアは歌い始める。そして、ティルとラインハルトは本を再び読み始めた。


(なんか、とっても上手な歌を聴いてると、難しい本も、頑張って読めそう)


 やがて、フェリシアは歌い終わった。そして、ティルとラインハルトの読んでいる本を軽く覗き込んだ。


「マラブルくんは、戦い方の本。ラーナーさんは、難しそうな本。2人とも、頭がいいんだね?」


 ラインハルトは返す。


「褒めてくれてありがとう。ラーナーさんも凄いね」

「あっ、ありがとう。でも、あんまりわかんなくて」

「わからない本をどうして読んでるんだい?」

「私、学園長先生とお友達になって、特別な宿題を出されちゃったの」


 ラインハルトとフェリシアは「へぇ、凄い!」と声を揃えた。そして、ラインハルトは言う。


「ラーナーさん、頑張ってね」

「私、応援するよ。ラーナーさん」


 フェリシアもそう返した。ティルはそれに応え言った。


「ありがとう!頑張るね!!」




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