101時間目:いつもと違う誕生日
ティルは、イヴァンの傍にいると決めた。その後の11月半ばのある日、ティルはモニカと共にオーケン家に帰宅する。やがて、イヴァンも帰宅してきた。その時、ティルは自室にいたが、1階からモニカの声が聞こえた。
「ラーナーさん、下に下がって来てください」
「え?なんだろ?」
ティルは、終わらせた宿題を鞄に入れ、1階へと降りて行った。すると、イヴァンとモニカがこんな呪文を共に唱えた。
「ビウオエンネ。チオエンメ、ピエレエ、アエンネ、エンネオ」
また、イヴァンは言った。
「誕生日おめでとう、ノヴァ・テンポーレ」
モニカも続いた。
「お誕生日おめでとうございます、ラーナーさん」
そう声をかけた2人の魔法は、空間に誕生日を祝う文言が書かれた横断幕を出現させた。その美麗な文字は光を放ち、ゆったりとした間隔で色が変わる物であった。更に、幻想的な装飾が部屋いっぱいに飾られた。
「ありがとうございます。学園長先生、オリーン先生」
(前のイテラリピティまでは、お父さんとお母さん、そして、リノにお祝いしてもらってたなぁ。なんか、新しい)
食卓には、いつもより豪華な食事が並び、その真ん中には、レボルテの国中で、一番有名な菓子店のケーキが鎮座していた。
「わあ、なんだか凄いです」
イヴァンとモニカの微笑みが、ケーキのろうそくの向こうに見える。そのろうそく7本の火をティルは思いきり吹き消した。イヴァンの簡易な拍手と、モニカの念入りな拍手が家中に響く。
「13回目の7歳だなぁ」
ティルは独り言を言った。それにイヴァンが返す。
「正しくは、19回目だな」
モニカは、それを受け、言った。
「何回目でも、おめでたい日というのは、変わらないでしょう?」
「それも、そうだな、オリーン先生」
それから、誕生日祝いの夕飯が始まる。ティルは、その最中に言った。
「卵絡め麺、美味しいです!」
モニカは微笑んだ。
「私の得意料理です。美味しいと言ってくださってありがとうございます。本当は、ラーナーさんの好きな料理を作って差し上げたかったのですが、わからなくて、こちらを選びました」
「大丈夫です!果物以外だったら、何でも好きだから!!」
イヴァンの顔にわずかな時間、憂いが浮かぶ。その傍らでモニカは、ほっとした表情を見せた。
「それは、よかったです」
ティルも笑顔で食事を続ける。卵絡め麺のまろやかで芳醇な香りがティルの鼻を優しく通って行った。少しすると、モニカは多少慌てた声を上げた。
「あ、あの、ラーナーさん」
「何ですか?オリーン先生」
「果物を私、一学期の算数の時間に使ってしまいましたね。嫌だったでしょう?」
「あっ、大丈夫です!食べたら美味しいんで!!」
「そうですか?なら、よかったです。でも、何故?」
そこでイヴァンの咳払いが響く。
「その話は、ここまでにした方がいい、オリーン先生。後で説明する。なんとなくだが、ノヴァ・テンポーレが果物を苦手としている理由はわかるからな」
「すみません、ラーナーさん。嫌いな物の話は嫌ですよね?」
「いいですよ。オリーン先生」
ティルがそう言うと、イヴァンは、話題を変えた。
「ところで、『あれ』は、どちらが渡す?オリーン先生」
「学園長からお願いします」
「わかった」
イヴァンは席を一旦外し、どこかに行ってしまったが、間もなく戻る。するとその手に彩り豊かな包装紙で包まれた物が。イヴァンはそれをティルに渡しながら言った。
「これは、本当のご両親から届いた誕生日の贈り物だ、ノヴァ・テンポーレ。受け取るがいい」
「お父さんとお母さんの?」
「ああ」
ティルは、それを開けた。そして、明るい声を上げる。
「『王子様シリーズ』の絵本だ!」
モニカは、微笑んだ。
「よかったですね、ラーナーさん!」
「はい!!」
ティルはその胸に絵本を抱き寄せ、元気に返事した。やがて、誕生日祝いの夕飯は終わりを告げる。そして、就寝時間が来る。
「おやすみなさい、学園長先生、オリーン先生」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい、ラーナーさん」
その手には、誕生日祝いの絵本が。寝床へ行くと、ティルはそれを読み始めた。
「これ、欲しかったんだ。お父さん、お母さん、ありがとう。今度のおやすみの日、ありがとうって言いに行こう」
ティルは、絵本を何度も読み返し、余韻に浸った後、一度絵本を再び抱き締め、本棚へしまった。そして、照明を落とし、寝床へ。
(なんだか、とっても幸せ。1人じゃないっていいなぁ)
うとうとし始めるティル。
(1人、1人かぁ)
ティルの目は閉じられる。
(エルドレッドさんも、1人だったんだよね)
眠気に抗えず、ティルは夢の世界へと旅立った。
翌朝、ティルはモニカに起こされる。
「ラーナーさん、朝ですよ」
「んー?あ、おはようございます!オリーン先生!!」
それから、ティルはイヴァンとモニカと共に朝食を摂った。その後の片付けの最中、モニカはティルに声をかけた。
「ラーナーさん、果物の件、学園長から聞きました。とても美味しくない実を食べた経験から、果物が苦手になったのでは?と」
「そ、その、そうです」
(時の実の事だ)
「これからの食事は、果物は避けますね」
「えっ、大丈夫ですよ!」
「そうですか?」
「はい!」
「なら、今後も出しますね」
それから、ティルは、イヴァンの瞬間移動にてモニカと共に登校して行った。




