第13話 サルディーニャ半島へ
ミラノでマルコから「通行料」として厳しい試練を課された向日葵。
彼から手渡されたのは、ナギが待つ(あるいはナギを飲み込もうとしている)地中海の孤島、サルデーニャ島への切符でした。
数十時間に及ぶ孤独な航海。しかし、その船内で向日葵を待ち受けていたのは、安らかな休息ではなく、形なき「悪意」の香りでした。
1人、向日葵が、初めて実戦に挑みます。
ジェノヴァ港からサルデーニャ半島へ向かう夜行フェリー。数十時間の孤独な航海の最中、深夜の船内に異変が起きる。
突如として漂い始めたのは、これまでの人生で嗅いだことのない**「何かが腐敗し、凝縮されたような、どろりと重い獣の匂い」**だった。
空調を通して侵食するその悪臭は、乗客たちに悪夢を見せ、船全体を負の感情で支配していく。
人影はない。ただ、曲がり角の先に**「一瞬だけ揺れる黒いコートの裾」と、そこから漂う「焦げたゴムと、**「死んだ花の混ざったような不快な残り香」**な臭いがする。
向日葵は、廊下の角で一瞬だけ翻った「黒いコートの裾」を目撃するが、姿なき犯人が放つ「焦げたゴムと死んだ花の残り香」に意識が遠のく危険な香りだった。
向日葵は朦朧とする意識の中、バッグに残された素材で必死に抗う。
アルテミシアの苦味で悪臭の核を叩き、パネトーネの甘い酵母で人々の不安を鎮める。
さらに、窓から入り込む地中海の強烈な「潮風」を巻き込み、一気に解き放った。
暗い霧が晴れるように悪臭が消え、
船内に「雨上がりの草原」のような清々しさが戻る。人々が安らかな眠りに戻った。
そんな向日葵の足元に風に舞った一枚のメモが落ちてきた。
震える手で拾い上げたメモには、万年筆の綺麗な
字体のイタリア語でこう記されていた。
『La morte segue Kujo.』
イタリア語は読めない「向日葵。」しかし、
調香の知識が残酷に意味を繋ぐ。
「Kujo(九条)」、そして禁忌の香りと共に語られる単語**「morte(死)」**。
(九条と……死? ナギが死ぬというの? それとも……)
朝の光の中、荒々しい岩肌を剥き出しにしたサルデーニャ半島が見えてくる。
銀座でもミラノでも嗅いだことのない、野生のハーブ「マキア」の香りが風に乗って届く。
向日葵は、不吉なメモを握りしめ、ナギが待ち受ける(あるいは彼を焼き尽くそうとしている)未知の地へと降り立つのだった。
読んでいただきありがとうございます!
今回は、船内という逃げ場のない密室での「香りバトル」を描いてみました。
姿を見せない犯人が放つ「腐敗した獣の匂い」と、向日葵が即興で作り出した「浄化の香り」。香りは目に見えないからこそ、一度侵食が始まると逃げられない恐怖がありますね。
最後に残された謎のメモ『La morte segue Kujo.』。
直訳すると「死は九条を追う」……。果たしてナギの身に何が起きているのか。
物語はいよいよ、野生の香りが渦巻くサルデーニャ島へと上陸します。




