第5話 冒険者
少し読みに難いかも知れません。
フィアナが起きてきたのは数時間後。
寝癖が付いた髪で、オッさんのように欠伸を吐き、アリアとレクスの元にやってくる。
「おはよ……ふぁ……」
「あ、おはようお姉ちゃん」
「うん。レクスもおはよ……」
レクスはフィアナに言葉を返さず、返事の代わりに手を挙げた。単に、寝惚けているフィアナに付き合うのが面倒くさいからだ。
その後、レクス達はアリアの作った朝食を食べる。朝食を作る最中に、レクスがアリアの料理を手伝おうとしたが、レクスの手付きが危なかった為か、アリアは慌てた様子で、レクスが料理に手伝う事を断っていた。
フィアナが朝食を食べながら、
「そう思えばレクスって旅人だよね?」
「一応……旅人だ」
「こらからどうするの?」
「……決まってない」
レクスがそう言うと、フィアナは嬉しそうな表情を浮かべた。
「えっと……なら、次に行く場所が決まるまで……私の家に住んでみない?」
「いいのか?」
「私はいいわよ。アリアは?」
「私もお姉ちゃんと同じでいいですよ」
アリアはフィアナの意見に頷いた。
しばらくの間、レクスは深く考える。
自分がフィアナとアリアの側にいていいのか、嘘をついているのにも関わらず……。
「分かった。じゃあ……フィアナ、アリア、これからもよろしく」
レクスの言葉を聞いて、フィアナとアリアは「やった!」っと言葉を漏らして、二人で仲がいいように、ハイタッチをしていた。
***
3人は朝食を食べ終わっていた。
フィアナは冒険者の仕事があるのか、朝食を食べ終わると、部屋に一旦戻った後に、昨日と少し似ている装備を着てやってきた。
アリアの方も鞄を肩に掛けている。
「二人とも何処かに行くのか?」
「私はいつもと同じようにギルドよ」
「私は図書館に行くつもりです」
フィアナはレクスの予想通り冒険者の組合に行くようだった。
アリアは、魔法を学ぶために図書館に行くのだろう。レクスの知り合いに魔法を学ぶ為に、図書館に住んでいた人物の影響でレクスは、この世界の図書館の事は知っていた。
「レクスは行くところは無いわよね?」
「そうだな……」
「なら、一緒にギルドに行かない?」
「……俺がギルドにか?」
レクスは少しだけ躊躇っていた。
何と言ってもレクスは暗黒騎士だ。
元々、ギルドは魔獣や魔族を全般に討伐する組織。そんな組織の中に上級魔族である暗黒騎士が行くのは場違いにも程がある。
「レクスはお金とか持っているの?」
「……ない」
「えっ……お金持ってないの?」
コクっとレクスは頷いた。
それを見たフィアナとアリアが驚きの表情を浮かべて、少し怪しげな視線を向ける。
「よく……この町まで来れたわね」
「色々あってな」
「じゃあ、余計に私と一緒にギルドで頑張らないといけないじゃない」
フィアナは「やれやれ」と囁く。
だが、すごく嬉しそうに微笑んでいる。
「アリア、私とレクスはギルドに行くわね」
「気をつけてねお姉ちゃん」
レクスとフィアナはギルドに向かって歩みを始めた。アリアはフィアナのことを心配そうな目で見送りながら手を振っていた。
だが、アリアはレクスの側に近寄ってくる。
「レクスさん……」
「なんだアリア?」
レクスの耳元で小さい声でアリアは話す。
「お姉ちゃんのことお願いします」
「分かってる。怪我なんてさせない」
「レクスさんありがとうこざいます」
アリアは礼儀正しくレクスに頭を下げる。
余程、フィアナの事が心配だったのだろう。
レクスは、フィアナが呼んでいたので、そろそろフィアナの元に戻るとアリアに伝える。
「レクスさん!」
アリアはレクスの名前を強く叫んだ。
「気をつけて行ってきてください!」
「分かった」
レクスは頷いてアリアに手を振った。
嬉しそうにアリアは微笑んだ後、目的の図書館に向かって歩みを始めて行った。
フィアナが興味深そうにレクスの元に近づいてくる。顔はニヤニヤと笑っていた。
「へぇ……アリアと随分と仲いいのね」
「色々とあるからな」
「色々ってなによ! 気になるじゃない!」
「色々は色々だ」
レクスは今朝にアリアと話した事はフィアナには内緒にした。もしかしたら、アリアはフィアナに内緒にしているかも知れない。
レクスがアリアに魔法を教えることも、いつかアリアがフィアナに教えるだろう。
「それよりギルドはどこなんだ?」
「……こっちよ」
不機嫌そうにフィアナはレクスの手を引く。
やはり先程の事が影響しているようだ。
レクスと視線を合わせるたびに「ふんっ」と言って、そっぽを向いていた。
しばらくレクスとアリアは町の中を歩いた。
そして町の外れに到着する。
「レクス着いたわよ」
「……ここがギルドか」
レクスは目の前の建物に圧巻する。
それは他の建物と比べてギルドの方が、耐久性にも大きさも格段に違っているからだ。
材質はレンガと鉄の混じったもの。
普通の剣を振っても傷は付かないだろう。
「何してるのレクス?」
レクスがギルドの前で止まっていると、フィアナが先にギルドの扉を開けて、ギルドの中に入ろうとしていた。
レクスはフィアナの側に行く。
「いらっしゃいませ!」
ギルドの中に入ると可愛らしい女性が、フィアナとレクスを出迎えていた。どうやら、この人達が受付の仕事をしているらしい。
同じ服装の人が、受付と思われる場所にも立っていたからだ。
それに、このギルドは酒場もギルドと共通で経営しているらしく、ギルドの隣には酒場があり、冒険者達が朝から酒を交わしていた。
随分と賑わっているギルドだ。
レクスとフィアナを迎えた受付の女性が、フィアナを見て少しだけ怪しげに視線を送る。
「あれ? フィアナさんですよね?」
「あ、そうです」
フィアナは歯切れの悪いように言葉を返す。
次の瞬間。
受付の人はすごい声で叫び始めた。
「マスター! ギルドマスター!」
先程まで騒いでいたギルドが急に静かになり、受付の人の声が何度も響き渡った。
受付の奥から物凄い物音が聞こえる。
しばらくすると年季の入った老人が、一瞬のうちにフィアナの元に駆け寄ってきた。
「おぉ! 可愛い娘のフィアナよ!」
「……っ!」
急に老人はフィアナを強く抱きしめた。
「は、離しなさいよお爺ちゃん!」
「はぁはぁ……久しぶりじゃの。ほれ、スベスベの頬を私にスリスリさせてくれ」
「キモっ! いい加減に離しなさい!」
フィアナは我慢が出来なかったのか、老人の胸ぐらを掴み、酒場のテーブルに向かって力強く投げ飛ばした。老人が空中を何度も回転して、テーブルに叩きつけられる。
老人がテーブルに当たり、テーブルは簡単に半壊して砕け散った。
「痛い……酷いよフィアナ」
「お爺ちゃんがバカな真似するからでしょ」
ため息を吐いてフィアナは話した。
老人は腰をついて立ち上がる。
「それより今日はどうしたんじゃ?」
「彼を登録してほしいのよ」
「む……彼だと?」
老人はドスの声を発し、レクスの方を見る。
すると、老人はレクスの方を見つめたまま、戦慄したような表情を浮かべて固まった。
老人の手が微かに震えている。
フィアナは不思議そうに首を傾げていた。
「な、なぜ貴様がここにいる!」
「お前……俺のことを?」
レクスは驚きながら老人の顔を見つめる。
老人は焦ったようにレクスに指を指した。
「れ、レクスじゃな……」
「……そう言うお前は…………」
「ロンドールじゃ! 忘れたとは言わせん!」
ロンドールの名前を聞いてレクスは思い出した。
「お前……ロンドールなのか!?」
「久しぶりじゃの……レクス!」
ロンドール・フォーゲル。
閃光の英雄と呼ばれた人物だった。
「じゃ」の使い過ぎな気がする。




