第4話 早朝
テスト…………Test!
レクスの早朝は早かった。
まだ、朝日も顔を出ていない時間に、レクスは庭で、小さく何かを話していた。
「おい……聞いてるか?」
「暗黒騎士のくせに話しかけないでよ」
「……消すぞ」
「ごめんなさい! すいません! それだけはやめて下さい! 貴方がいないとダメです!」
レクスの側をよく見ると、レクスの近くには無数に輝きを放つ光が飛び交っていた。羽の生えた少女のような容姿を持っている。
これは謂わゆる精霊というものだ。
普通は人間の側に姿を隠しているが、魔力が濃くなる早朝になると、精霊の意思が関係なく、勝手にレクスの周りに姿を見せる。
レクスは無意味に精霊の頬を突く。
精霊はその人差し指に噛み付こうとした。
「……噛み付くなよ」
「アンタが勝手に触るからでしょ……」
レクスは精霊と接するのを毎日やっている。
何でもいいから、精霊と話さないと、いきなりブチ切れて手に負えなくなるからだ。
「あの子達……いい子だね」
「……エルティアに微かに似てる」
「あ……レクスの言う通り……そうね」
精霊はレクスの肩に乗り黄昏る。
まるで主人の真似をするように……。
「そう言えばリア……」
「なに?」
「お前、アリアのこと気になってるだろ?」
そう言うと先程までレクスの肩に乗っていたリアが頬を真っ赤に染めて言葉を返す。
「き、気になってないわよ……ただ、アリアだっけ? あの子には才能がある」
「へぇ……リアがそう言うなんて珍しい」
リアは精霊でも……他の精霊を束ねる主精霊。レクスの周りにいる精霊達はリアの配下に属しており、その主精霊のリアとレクスは契約を結び、今の関係を作っていた。
かれこれリアとレクスは随分と長い時を過ごしている。だが、それでも二人の間には深い溝がある。決して、踏み込めない溝が……。
「アンタも才能があるのよね……一応」
「一応って……でも……そうだな」
今まで内緒にいていたが、レクスは人間ではない。闇の力を扱う魔族。暗黒騎士と呼ばれる上級魔族だったのだ。しかし、なぜ、レクスが人間に化けているのかは、誰も知らない理由があった。
だが、人間の振りをしているのか、レクスはリアも契約ができ精霊魔法も扱える。
これにはリアも最初は驚いていた。
「レクス……」
リアが不意に真剣にレクスの名前を呼ぶ。
レクスはリアの言いたい事が分かっていた。
「あれ…………レクスさん?」
「アリアか……」
レクスが振り向くと、そこには寝巻き姿のアリアが立っていた。銀髪は既に整えられているため、寝癖などは目立っていない。どうやら、自室で髪をといてきたのだろう。
アリアはレクスに隣に座っていいか聞いた。
ここら辺はフィアナと違い礼儀正しい。
「レクスさんって早起きなんですね」
「俺はやる事があったんだよ」
そう言ってレクスはリアを突く。
リアは「やめなさいっ!」と言ってレクスの人差し指に噛み付こうと牙を見せる。レクスとリアが戯れていると、不意にも隣にいたアリアが少しだけ笑ったような気がした。
レクスとリアは……まさかと考える。
精霊は普通は人間には見えない。
ただし、精霊と契約を結ぶ事ができる人間だけには、精霊の姿は朧しげに見えるのだ。
「アリア……やっぱり見えるのか?」
「ハッキリとは見えなですけど……微かに」
「どこにいるかは分かるんだよな?」
「……はい」
アリアは返事を返しながら、リアがいる方向に人差し指を差し出した。リアはアリアの人差し指にチョコンと座った。
アリアはリアが座った感触を人差し指に感じたのか、少しだけ驚いた表情を浮かべた。
「話は聞こえないのか?」
「話し声は聞こえないですね」
どうやらアリアには精霊と契約する才能があるらしい。声が聞こえないのは、契約をしていないから当たり前だ。もし、仮にアリアが契約をしてなく、精霊の声が聞こえるのだとしたら、それは世界の理に反する事になる。
精霊の姿を見える人間は珍しい。
リアもレクスも頭の中でそう考えていた。
「そう思えば……レクスさんは何をしていたんですか?」
「俺は魔力を整える事とアリアも見えてると思うが、目の前の精霊と会話をしていた」
「あ……お姉ちゃんの為に【リザレクション】まで発動したからですよね……」
アリアはレクスに再びお礼を言った。
確かに【リザレクション】は多少、レクスの負担になるが、人間でない……暗黒騎士のレクスには神大級魔法など問題は無かった。
アリアがレクスをチラッと見つめる。
聞きたい事がある事は明らかに分かった。
「どうしたアリア?」
「いえ……その……レクスさんって魔法も精霊魔法もどちらも使えるのでしょうか?」
「基本的には普通の魔法だが、危険になったり、自我が無くなると精霊魔法を使う」
アリアはレクスの言葉を聞き「自我?」と首を傾げる。しかし、レクスの言葉により、考えていた事を一瞬にして遮られてしまった。
レクスはアリアに視線を送り、
「アリアは……魔法に興味があるのか?」
レクスの問いにアリアは静かに頷いた。
「私はお母さん……いえ、幼い私を育ててくれたお姉さんのような魔法使いになりたいんです」
「アリアを育てたお姉さん? フィアナとは別人なのか? それともフィアナが?」
「お姉ちゃんとは別の人です。その人は、幼い頃から魔法の才能も剣の才能も優れていて、私の憧れの人だったんです」
アリアは目を輝かせてレクスに話した。
どうやら、アリアのお姉さんと言う人の影響でアリアは魔法に興味があるらしい。
魔法にも使うには才能が必要となるが、アリアなら確実に魔法の才能もあるだろう。
「今もその人みたいになりたいのか?」
「はい! 私はお姉さんのようになりたいです! 子供みたいな夢ですけど……」
アリアは「へへ」と少しだけ照れるように微笑んだ。それを見てレクスは拳を握りしめて決心する。
「アリア……俺が魔法を教えようか?」
「い、いいんですか?」
「構わない。寧ろ、俺で良ければ……アリアの夢の手伝いをさせてもらえないか?」
「レクスさん。ありがとうございます! こ、こんな不甲斐ない私ですけど、これからご指導……どうぞよろしくお願いします!」
アリアは喜んだようにレクスに手を差し出す。レクスは、その手を優しく握りしめて、アリアの頭を優しく撫でた。精霊のリアもアリアの夢を応援するように、レクスの手に紛れてアリアの頭を撫でていた。
レクスは懐かしむかのように……。
次回更新は木曜日か金曜日を予定しています。
次話には作者の好きなキャラが登場!




