第2話 帰る家
テスト勉強の毎日……。
レクスは静かに夜空を見上げていた。
星々が燦然たる輝きを放っている。
レクスが星を眺めていると、
「う、うぅ……」
今まで寝ていた少女が頭を抑えて姿勢を起こした。【リザレクション】の影響なのか、少しだけ頭の処理が追いついていないようだ。
未だに寝惚けた表情を浮かべている。
頬にはヨダレを流してるし。
「おーい? 生きてるか?」
「はふぇ?」
「自分の名前は覚えているか?」
「名前……名前……フィアナ・ユグリシア」
フィアナは「ふぁぁ……」言いながら、目を擦りレクスに名前を伝える。レクスも、そんな寝惚けたフィアナの耳元で優しく呟く。
「俺の名前はレクスだ。それよりフィアナ……先程のことは覚えているか?」
「……さっきのこと?」
フィアナは頭を抑えて悩むように考える。
そして、大きな声を上げた。
「思い出した! 私、オークに殺されかけて……それでどうしたんだっけ?」
「お前は殺されかけたじゃなく……殆ど殺されていたけどな……まぁ、死にかけのフィアナを俺が助けたんだよ……分かったか?」
「うん。微かに覚えてる」
どうやら記憶が没落した訳ではないようだ。
単に頭が未だに寝惚けているのだろう。
フィアナはゆっくりと立ち上がる。
だが、バランスを崩しその場に倒れこんだ。
「あれ? なんで立てないの?」
「……副作用だな」
「えっ? なんの副作用?」
「俺が【リザレクション】を使ったんだ」
フィアナはそれを聞き呆然と口を開いた。
訳も分からないと言った表情だ。
レクスが使った神大級魔法【リザレクション】は人間なら普通は使える事が出来ない魔法。それをレクスは使ったと言ったのだ。
驚くのも当たり前なことだろう。
「【リザレクション】!?」
「あぁ……死にかけだったからな」
「私が立てない理由は分かった。それより……あのオークはどうしたの?」
フィアナが先程から警戒していたのは、これが理由か……。確かにオークと言っても、そこら辺の魔獣とは格が違う。この辺りでオークを目撃したのはレクスも初めてだった。
レクスはフィアナに自分の剣を見せる。
それを見てフィアナは息を飲んだ。
「……まさか倒したの?」
「ほら、フィアナの後ろにある肉塊」
フィアナはレクスの指差した方を振り向く。
「うえ……」
「な、オークは俺が倒したから大丈夫だ」
少し口を押さえて苦笑するフィアナ。
警戒心を少しだけフィアナは緩めた。
レクスの言うことを信じたのだ。
誰でもあんな肉塊を見せられれば、オークを倒したと理解出来る。いや、オーク以外でもナニカを倒した事は明白に分かっただろう。
「ん……やっぱり力が入らない」
「急いで帰る用事でもあるのか?」
「無いけど……妹が家で待っているのよ」
それを聞いてレクスは少し考えた。
「ここから遠いのか?」
「遠くないわ。ほら、見えるでしょ?」
フィアナは遠くに見える町を指差した。
ここからでも微かに見える町。
「あの町にいるのよ」
「………………意外に近いな」
「そうね。でも……足が動かないし、夜の草原は魔獣が少しだけ凶暴化してるから」
「町に戻る事は出来ないと……」
今のフィアナの足では草原を抜ける事は不可能だろう。もし、立てたとしても走る事は確実に不可能だ。そんな足で草原を歩いていたら、闇に潜んでいる魔獣の格好の餌になるだろう。だが、それは一人の場合の話だった。
「フィアナ……俺が街まで送ろうか?」
「えっ…………いいの?」
「俺は別に構わない。どうせ、フィアナの足が治るまでは、ここで俺が見張らないと行けないし。このままがいいなら……」
「お願い! 私を町に連れてって!」
即答だった。
フィアナは真剣な表情でレクスに頼み混んだ。それを聞いたレクスの頬が微かに緩んだ気がした。レクスは静かにフィアナに寄り添い、フィアナの小さな手を優しく握る。
フィアナは何事かと思い顔を赤く染めた。
「ちょ! な、何するの?」
「立てないだろ? ほら……手を貸すから」
「……ありがとう」
そっぽを向いてフィアナは小さく囁いた。
「じゃあ……そのまま俺の背中に乗れ」
「えっ?」
「まさか乗り方が分からないとか言うなよ」
「それぐらい分かるわよ!?」
フィアナは「失礼します」と述べた後、ゆっくりとレクスの背中に身体を乗せた。レクスにフィアナの体が触れる。体重の重みがレクスにかかるが、決して重くは無かった。
レクスは軽々しくフィアナを担いだ。
フィアナは照れるようにレクスの背中に顔を当てて、「こっち見ないで」と囁いた。
「よし……あの町でいいよな?」
「うん。気をつけてよ?」
「わかってる。じゃ……行くぞッ!」
レクスは勢いよく地面を蹴り出した。
大地が抉れ、土が空に舞い上がる。
風の切る音が耳に響き渡る。
レクスはフィアナを落とさないように、慎重に抱えたまま高速で走っていた。
月明かりに照らされた草原を滑走とかける影。その影は次第に速くなり、夜空を流れる流星よりも速い速度で地面を駆け抜ける。
「……ッ! ち、ちょっと何この速度!?」
「喋ると舌噛むぞ?」
「どうやってこんな速度出してるのよ!」
レクスは馬よりも速く走っている。
フィアナが疑問を抱くのも当たり前だ。
「ただ走ってるだけだぞ?」
「嘘つかないでよ!? コレ……走るって言うより、飛んでいるの方が合ってるでしょ!」
「まぁ、飛べなくも無いけど……」
「飛べるの!?」
いよいよフィアナの視線が、レクスを怪しむようなモノに変わって行く。これ以上聞かれたら、確実にレクスは問い質させるだろう。
だが、フィアナが他の質問をレクスに聞く前に、目的地である町の近くに到着した。
ゆっくりとフィアナを地面に下ろす。
「はい……到着っと」
「なんか凄すぎて感想も出ないわよ」
まだ、【リザレクション】の副作用が消えていないのか、足に力が入ってなかった。
レクスはフィアナに手を貸して、体の重心の支えとなる。フィアナも少し照れていたが、次第に慣れて、レクスに重心を預けた。
「家まで送った方がいいよな?」
「ここまで来たからね。それに、私は貴方に助けて貰ったお礼もしたいし」
微笑みながらフィアナはそう言う。
別にレクスはお礼が欲しかった訳ではない。
彼女が無事ならそれで良かったのだ。
ここまでフィアナを手助けしたのも、単にフィアナが心配だったから……。フィアナにはナニカ懐かしいモノをレクスは感じていた。
「ちょっと止まってくれないか?」
町に入ろうとすると、横からレクスとフィアナに止まるように指示がかかる。その方向に視線を送ると、そこには中年くらいのオッさんらしき人物が警戒している様子だった。
そのオッさんにフィアナは手を振る。
「ロドリゲスさん。お疲れ様です」
「あれ? フィアナちゃんだったのか?」
「はい。少し怪我をして……この人に運良く助けて貰ったんですよ」
どうやらフィアナの知り合いだったらしい。
フィアナは俺に支えられながら、ロドリゲスと言う名前のオッさんと会話を弾ませる。
「それで……この人も町に入っていいですか? 少し……お礼がしたいんです」
「大丈夫だよ。ありがとうね君」
ロドリゲスはレクスに向かって頭を下げる。
そして、誰かに伝えてくると言って、ロドリゲスは先にその場を離れていった。
フィアナはレクスに家までの道を案内する。
案内された通りにレクスは足を進めて行き、小さな一軒家に辿り着いたのだった。
「ここがフィアナの家か?」
「そうね……私と妹の家ね」
その家の近くに建てられていた看板には、小さくであるが、フィアナ・ユグリシアとアリア・ユグリシアと刻まれていた。このアリアと言う人物がフィアナの妹なのだろう。
ゆっくりとレクスは家に近づいた。
フィアナが家の扉を軽くノックする。
「アリア? 帰って来たよ」
フィアナが扉の外からそう言うと、家の中から大きな物音が聞こえて、家の扉がドンッ! と開き、中から銀髪の少女が出て来た。
「お姉ちゃん!」
「アリアごめんね……遅くなって」
「心配したんだからね!」
フィアナはアリアを強く抱きしめた。
相当心配だったのか、アリアの方は涙を流して、フィアナの身体を抱きしめている。
その光景をレクスは静かに見守っていた。
「……お姉ちゃん……その人は?」
「えっ……あ、この人は私を助けれくれたレクスよ。お礼がしたくて連れて来たんだけど……ダメだったからしら?」
アリアは首を横に振り否定する。
「えっと……レクスさんでいいですか?」
「そう言う君はアリアで合ってるかな?」
「はい! フィアナ・ユグリシアの妹のアリア・ユグリシアになります!」
アリアは、ぺこりとレクスに頭を下げた。
どうやらアリアはいい人そうだった。
次回更新は火曜日か水曜日を予定しております。




