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死体の山からゴミ装備集めて俺だけ壊れビルド  作者:


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3/4

第3話 狙うな。外せ

 廃坑の入口は、外縁区の北斜面に開いていた。


 昔は鉱石を掘っていたらしい。今は木組みが腐り、入口の半分が崩れている。中からは湿った土と獣臭、それに死体の匂いが流れてきた。


 ミラは入口の前で足を止めた。


「ここ、小鬼の巣ですよね」


「まだ巣とは限らない」


「巣じゃなかったら?」


「巣になりかけてる」


「それ、ほとんど同じです」


 ミラの手は震えていた。曲がった短弓を握る指が白い。曇った眼帯は右目に巻かせた。レクは左の義眼に重ねたが、ミラにはミラの条件が必要だった。


 片目を塞がれたミラは、いつもよりさらに不安そうに周囲を見る。


「見えにくいです」


「それでいい」


「よくないです。普通は見えた方が当たります」


「普通に当たるなら、お前はここにいない」


 ミラは言い返そうとして、口を閉じた。


 レクはひび割れたナイフを抜く。戦うための刃ではない。小鬼一体と正面から斬り合えば、まず押し負ける。


 だから、正面からやらない。


 坑道に入る。


 壁は硬い岩で、ところどころに古い支柱が残っている。天井には小動物の骨や、冒険者の装備片が引っかかっていた。小鬼は光るものを集める。遺品も、骨も、食べ残しも、全部巣へ持ち込む。


 奥から、爪が岩を擦る音がした。


「来る」


 レクが低く言うと、ミラが弓を構えた。


 小鬼が三体、壁を蹴って飛び出してきた。子供ほどの背丈。灰色の皮膚。裂けた口。手には骨を削った刃。


 ミラの弓が揺れる。


「狙うな」


「でも!」


「壁だ」


「敵じゃなくて?」


「敵を狙うな」


 ミラは息を詰め、右の岩壁へ矢を放った。


 矢は小鬼の横を抜け、岩に当たった。


 跳ねた。


 乾いた音が坑道に響く。矢は予想より鋭く角度を変え、小鬼の耳を裂いた。


「当たっ――」


「次」


 小鬼が悲鳴を上げて突っ込んでくる。ミラは二射目を放つ。今度は天井の骨に当たった。矢は跳ねたが、敵ではなく支柱へ刺さる。


 支柱が折れ、土砂が少し落ちた。


 小鬼がひるむ。


 レクはその隙に前へ出て、ナイフで一体の足首を切った。浅い。倒せない。ただ、走る角度を崩せればいい。


「左の壁!」


 ミラが撃つ。


 矢は壁で跳ね、別の小鬼の肩に刺さった。


 当たる。


 だが、狙って当たっているわけではない。


 跳弾の角度が良ければ刺さる。悪ければ外れる。もっと悪ければ、味方に向く。


 次の矢が、それだった。


 壁を跳ねた矢が、レクの頬をかすめた。


 熱い線が走る。血が一筋落ちた。


 ミラの顔から血の気が消える。


「ごめんなさい!」


「止めるな!」


「でも、今、あなたに――」


「囮班なら謝る時間もなく死ぬ」


 レクは小鬼の刃を身をよじってかわした。余裕はない。ナイフで受けたが、刃が欠ける。小鬼の腕力は軽くない。


 ミラは震えたまま、また撃った。


 矢が地面に当たり、跳ね、支柱をかすめ、小鬼の膝裏に入った。


 一体目が倒れる。


 レクが首を掻き切る。


 二体目はミラの矢が肩を裂き、三体目は坑道奥へ逃げた。


 勝った。


 だが、薄氷だった。


 ミラは弓を下ろし、肩で息をしていた。


「私、やっぱり危ないです」


「ああ」


 レクは頬の血を指で拭う。


「危ない。まだ完成してない」


「完成?」


「跳弾はある。直接狙わない補正もある。だが、跳ねた後の矢が敵へ向かわない」


 レクの義眼に、濁った文字が浮く。


《跳弾:発生》

《非照準補正:発生》

《誘導:未接続》


 未接続。


 足りない。


 レクは倒れた小鬼を見る。


 小鬼の死体は素材になる。骨、皮、牙、眼球。どれも外縁区では売れる。だが、今は回収より先に奥を見る必要があった。


 逃げた小鬼が、仲間を呼んでいる。


 坑道の奥から、甲高い鳴き声が返ってきた。


 ミラが小さく後ずさる。


「戻りましょう。今ならまだ――」


「戻れば、お前は囮班だ」


 ミラの足が止まる。


「ここで勝てば、少なくとも明日の囮札は消せる」


「勝てなかったら?」


「死体回収屋の仕事が一つ増える」


「笑えません」


「俺も笑ってない」


 レクは倒れた小鬼の耳から小さな骨飾りを外し、壁の傷を見た。小鬼は奥から来た。巣があるなら、集めたものもある。ハズレ装備、冒険者の遺品、何かの部品。


 そして、足りない一枠。


 壊れた義眼は、存在しない装備を見せてはくれない。未来の当たりも教えてくれない。


 目の前にあるものだけ。


 だから、掘るしかない。


 奥へ進むしかない。


 坑道が広くなる。


 そこには古い採掘場の空洞があった。入口側にレクとミラ。正面奥に小鬼長。左右の岩壁には盾や鍋、折れた槍が打ちつけられている。頭上には、支柱代わりの太い骨組み。小鬼長の背後の岩壁には、黒い割れ目が斜めに走っていた。


 硬い面が多い。


 跳弾には悪くない。


 ただし、小鬼も多い。


 十体以上。


 その奥に、一回り大きい小鬼がいた。背は人間の胸ほど。片腕に骨板を巻き、指には錆びた指輪を嵌めている。


 小鬼長。


 ミラが息を呑んだ。


「あれは無理です。普通の小鬼じゃない」


 小鬼長が壁に掛けてあった骨片を掴み、レクへ投げた。


 骨片はまっすぐ飛ばなかった。


 横の岩に当たり、跳ね、ありえない角度でレクの肩へ向かってきた。レクは身をひねったが、骨片が服を裂いた。


 ミラが目を見開く。


「今の、曲がりました?」


「ああ」


 小鬼長が笑うように喉を鳴らした。もう一つ骨片を投げる。今度も壁に当てた。跳ねた骨片は、逃げるレクの足元へ吸い寄せられるように飛んだ。


 レクは義眼で、小鬼長の指を見た。


《対象:跳ね返りの指輪》

《表評価:投射物命中率低下》

《隠し効果:跳弾した投射物を近くの敵性反応へ誘導》

《条件:硬質面で一度以上跳弾》


 レクの背筋に熱が走った。


 曲がった短弓。


 曇った眼帯。


 跳ね返りの指輪。


 全部、命中率を下げるハズレ。


 全部、狙って撃つには最悪。


 だが、狙わない攻撃なら。


 壁を撃つなら。


 跳ねた後だけ敵へ吸われるなら。


「あれだ」


 レクは小鬼長の指を見た。


「あの指輪が最後の一個だ」


 ミラが唇を震わせる。


「奪うんですか、あれを」


「そうだ」


「どうやって?」


 小鬼長が骨板を鳴らし、群れが一斉に動き出した。


 レクはひび割れたナイフを握り直す。


「俺が近づく。お前は外せ」


「当てるんじゃなくて?」


「今はまだ、外せ」


 ミラは震える手で弦を引いた。


 小鬼の群れが壁と天井を走る。


 廃坑そのものが、牙を剥いた。


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