表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死体の山からゴミ装備集めて俺だけ壊れビルド  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/4

第4話 あの指輪が最後の一個だ

 最初の矢は、小鬼長の頭上を越えた。


 ミラは直接狙っていない。背後の岩壁を撃った。矢は岩に当たり、跳ね、天井の骨に触れた。


 だが、小鬼長には向かわない。


 横から飛びかかってきた小鬼の肩をかすめ、そのまま闇へ消えた。


「まだだ!」


 レクは叫び、足元の石を蹴った。


 小鬼が一体、レクの脛に噛みつこうとする。ナイフで鼻先を払う。浅い。怯ませただけだ。


 ミラの矢が壁で跳ねる。


 レクの耳元を抜け、小鬼の腕に刺さった。


 助かった。


 危なかった。


 同じ意味だった。


「ごめ――」


「謝るな、撃て!」


 小鬼長が突っ込んでくる。骨刃が横薙ぎに振られた。レクは受けない。受ければナイフが折れる。半歩下がり、足元の死体を蹴って小鬼長の膝へぶつける。


 小鬼長が一瞬だけよろけた。


「右の壁!」


 ミラが撃つ。


 矢は右壁に当たり、跳ね、骨板に弾かれた。


 骨板が削れる。


 だが、喉には届かない。


《跳弾:発生》

《非照準補正:発生》

《誘導:未接続》


 未接続。


 足りない。


 小鬼たちが一斉に天井へ上がる。古い骨組みの上を走り、上から降ってくるつもりだ。


「天井の骨を撃て!」


「落とすんですか?」


「違う。跳ねさせる」


 ミラの矢が天井の骨へ飛ぶ。


 骨に当たった矢は、次の骨へ跳ね、さらに壁へ当たった。小鬼たちが身を伏せる。一体の耳が飛び、別の一体の足に刺さる。


 だが、矢は散る。


 敵へ集まらない。


 ミラの呼吸が荒くなる。


「当たってるのに……止められない!」


「まだ完成してない」


 レクは小鬼長の刃をかわし、岩壁に肩を打ちつけた。息が詰まる。小鬼長が笑うように口を裂く。


 ロトに装備を渡した手が、また脳裏に浮かんだ。


 未完成のものを誰かに渡す恐怖。


 安全だと言って渡した装備で、ロトは死んだ。


 だから、今度は嘘をつかない。


「完成させるためだ」


 レクは小鬼長の指を見る。


 錆びた指輪。


 ハズレと呼ばれた最後の一個。


 レクは後ろへ逃げず、前へ沈んだ。


 刃が髪を削る。


 懐へ入る。ナイフを振る。腕を切り落とすほどの力はない。刃も悪い。


 だから、関節を狙った。


 骨板の隙間。肘の内側。皮膚の薄い場所。


 ナイフが入る。


 浅い。


 小鬼長が怒号を上げる。膝蹴りがレクの腹に入った。身体が浮き、地面に叩きつけられる。


 息ができない。


 小鬼長が、指輪の嵌まった手でレクの喉を掴もうとした。


 レクは地面の腐った骨を掴み、小鬼長の目へ投げつける。


 目つぶしにもならない。


 だが一瞬だけ、小鬼長の顔が逸れた。


「ミラ!」


 声が裂けた。


「骨板を狙うな! 小鬼長の後ろ、壁の割れ目!」


「でも、あなたが!」


「俺を狙うな!」


 ミラは泣きそうな顔で弦を引いた。


 矢が放たれる。


 小鬼長の横を抜ける。レクの肩をかすめるほど近い。背後の壁の割れ目に当たり、鋭く跳ね返った。


 矢は小鬼長の指輪の嵌まった手首へ向かった。


 誘導ではない。


 偶然に近い。


 だが、レクはその偶然を拾うために位置を作っていた。


 矢が手首に刺さる。


 小鬼長の握力が緩む。


 レクはナイフを逆手に持ち替え、刺さった矢ごと手首の腱を切った。


 小鬼長の指が開く。


 指輪が血で滑った。


 レクはそれを引き抜いた。


 小鬼長が咆哮し、レクを蹴り飛ばす。背中が岩にぶつかり、視界が白く弾けた。


 指輪だけは離さなかった。


「ミラ!」


 レクは血まみれの指輪を投げた。


 ミラは震える手で受け止めた。指輪は小さく、錆びていて、ただのゴミに見える。


「嵌めろ!」


「これを?」


「それが最後だ!」


 小鬼たちがミラへ向かう。


 ミラは右手の中指に指輪を押し込んだ。


《跳弾:発生》

《非照準補正:発生》

《誘導:接続》


 世界の見え方が変わった。


 ミラ自身も、それを感じたのだろう。弓を構える手はまだ震えている。だが、震え方が違った。


 恐怖で止まる震えではない。


 矢を放つための震えだ。


「どこを撃てば」


「小鬼長を見るな」


「はい」


「背後の壁だ」


 ミラは小鬼長を見なかった。


 その背後、黒く湿った岩壁だけを見た。


 矢が放たれる。


 小鬼長から大きく外れた。見ていた冒険者がいれば、笑っただろう。誤射持ちの弓使いが、また外したと。


 矢は壁に当たる。


 跳ねる。


 天井の骨に当たる。


 さらに跳ねる。


 曲がる。


 加速する。


 誰もいない角度へ飛んだはずの矢が、途中で引っ張られるように向きを変えた。


 小鬼長の喉へ吸い込まれた。


 音は小さかった。


 だが、小鬼長の身体は大きく揺れた。喉に刺さった矢羽が震え、黒い血が噴き出す。


 ミラが目を見開いた。


「当たる」


 次の矢をつがえる。


 小鬼長を見ない。


 壁を撃つ。


 矢は岩で跳ね、骨で跳ね、小鬼長の脇腹へ刺さる。


「狙ってないのに、当たる」


 三射目をつがえた時、ミラの手が止まった。


 小鬼長がこちらへ突っ込んでくる。レクはまだ立てない。小鬼たちの足音が近い。


 レクが叫ぶ前に、ミラは自分で顔を上げた。


 小鬼長を見た。


 それから、目を逸らした。


 敵ではなく、天井の骨を見る。


「私は、そっちを狙わない」


 矢が放たれる。


 天井の骨で跳ね、横の岩で跳ね、さらに折れた支柱をかすめる。無駄に遠回りしたはずの矢は、最後に鋭く曲がった。


 小鬼長の喉の同じ穴へ吸い込まれる。


「当たる。狙ってないのに、当たる!」


 そこから、廃坑はミラの弓の一部になった。


 小鬼が壁を走れば、そこが矢の反射面になる。


 天井に逃げれば、骨組みが矢を曲げる。


 岩陰に隠れれば、跳ねた矢が背後から刺さる。


 ミラは敵を狙わない。


 壁を撃つ。


 骨を撃つ。


 床の石を撃つ。


 矢は必ず一度外れ、それから敵へ向かう。


 小鬼たちは混乱した。正面から来ない矢を避けられない。盾を構えた小鬼の背中に刺さり、逃げた小鬼の足に刺さり、叫ぶ小鬼の喉に集まる。


 レクは立ち上がろうとして、膝をついた。


 強いのは自分ではない。


 自分は見つけただけだ。


 組み合わせただけだ。


 小鬼長が最後の力でミラへ飛びかかる。


 ミラは小鬼長を見なかった。


 背後の岩壁を撃った。


 矢は壁で跳ね、天井の骨に当たり、曲がり、加速し、小鬼長の喉の同じ穴へ吸い込まれた。


 小鬼長が崩れ落ちる。


 廃坑に、しばらく矢羽の震える音だけが残った。


 ミラは弓を下ろせなかった。震える手で、指輪を嵌めた指を見ている。


「私……当てました」


「ああ」


「狙ってないのに」


「それでいい」


 ミラは泣きそうに笑った。


 その表情を見て、レクの胸の奥に小さな痛みが走る。


 ロトは救えなかった。


 だが、目の前の一人は囮班へ落ちずに済んだ。


 まだ、それだけだ。


 それでも、ゼロではない。


 レクは小鬼長の死体から討伐証になる牙を抜いた。小鬼の死体も、素材になる。骨、皮、牙、低級魔石。


 魔物の死体は使う。


 使えるものは、全部使う。


 ただ、採掘場の奥から流れてくる匂いに、レクは眉をひそめた。


 小鬼の巣は、さらに奥だ。


 そこには、魔物の死体だけではない匂いが混じっている。


 人間の死体の匂いだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ