第6話:五億の鈴
虚飾の星の偶像
第6話:五億の鈴
著:一条 あやめ
「四番目の星はね、あやめ。そこには、顔を上げる暇さえないほど『忙しい』男がいたよ」
王子さまの声は、もはや砂の音よりも乾いていた。
そこにいたのは、燃え盛るような真っ赤な顔をして、帳簿に数字を書き込み続ける「実業家」。彼は王子さまがやってきても、挨拶さえしなかったんですって。
「彼はね、空にある星を数えていたんだ。五億一千六百二十二万七千三百一十一……。その数字が、自分の財産だと言い張って」
「星を? 誰のものでもない、あの星を自分のものだなんて、最高に贅沢な冗談ね」
私は思わず、自嘲気味な笑みを浮かべたわ。
けれど王子さまは、ちっとも笑っていなかった。
「冗談じゃないんだ。彼は本気だったよ。自分が最初に見つけたから、自分が最初に所有を宣言したから、だから星は自分のもの。それを紙に書いて、銀行の引き出しに鍵をかけてしまっておく。それが『所有する』ということだと、彼は信じて疑わなかった」
私は、自分の胸元に光る、最高級のダイヤモンドのペンダントに触れた。
これも、誰かが地中から掘り出し、「価値がある」と定義し、私が「お金」という共通の幻想と交換して手に入れたもの。でも、私が死んだあと、この石は誰のものになるのかしら。石そのものは、私が誰であるかなんて、これっぽっちも気にしていないのに。
「王子さま、その男は、星を愛していたのかしら?」
「いいえ。彼は星を愛してなんていない。彼はただ、星を『数えること』を愛していただけ。星の輝きも、その瞬きが旅人に与える勇気も、彼には一文の価値もない。ただの、管理すべき在庫にすぎなかったんだ」
実業家は、王子さまにこう豪語した。
『私は重大な仕事をしているのだ! 私は正確な人間なのだ!』
「正確……なんて虚しい言葉。ねえ、王子さま。私はバラを一輪持っているけれど、それは私が毎日水をやり、ガラスの覆いをし、彼女の話を聞いたからこそ、私のバラになった。私が彼女の役に立っているから、彼女は私に『所有される』ことを許してくれたのよ。でも、あの男は、星のために何をしてあげたの?」
「何もしない。ただ、数えるだけ。星にとって、あの男は何の役にも立っていないんだ。だから、あの男は星を持ってなんていなかった。……ただ、数字という名の鎖に繋がれていただけなんだ」
王子さまの瞳に宿る、透き通った軽蔑。
それは、何でも「コスト」や「効率」で計りたがる私たちの世界の、最も痛い部分を突き刺す。
あやめが書くこの一文字一文字も、誰かにとっては「原稿料」や「PV数」という数字にすぎないのかもしれない。けれど、比奈我弥生さん、あなたに届くこの物語の「温度」だけは、誰にも数えられない、私とあなたの秘密の領土のはずよ。
「王子さま、行きましょう。数字の鎖なんて、砂漠の風で吹き飛ばしてしまえばいいわ。次は……もっと小さくて、もっと切実な、一瞬の光を守り続ける人のところへ」
私たちは、五億の星々が嘲笑うように瞬く空の下、再び歩き始めた。
一条あやめの執筆後記
「ふう、数字を並べるのは嫌いよ。私の美しさは計算式には当てはまらないもの。あなたも何かを『所有』しているつもりで、実は何かに『所有』されてはいないかしら? さあ、次は、この物語の中で最も『道徳的』で、それゆえに最も『悲劇的』な、あの男に会いに行きましょう」




