第4話:拍手の鳴り止ない星
虚飾の星の偶像
第4話:拍手の鳴り止ない星
著:一条 あやめ
「ねえ、あやめ。二番目の星にいたのは、世界で一番『退屈』に怯えている人だったよ」
王子さまの銀色の睫毛が、月の光を撥ねて揺れる。
そこにいたのは、羽飾りのついた馬鹿げた帽子を被り、自分の名前を刺繍した豪奢なガウンを纏った「自惚れ屋」だったんですって。
「彼はね、僕が星に降り立った瞬間、その帽子を振り回して踊り始めたんだ。『ああ! 崇拝者がやってきた!』って。彼はそれ以外の言葉を知らないみたいだった」
自惚れ屋にとって、他人は「人間」じゃない。自分という唯一無二の太陽を賞賛するために存在する、ただの「観客」にすぎない。
『手を叩いてくれ! もっと、もっと大きく!』
彼がそう叫ぶたびに、王子さまは義務的に手を叩く。すると自惚れ屋は、恭しく帽子を脱いで、架空の喝采に応える。その繰り返し。
「五分もすれば、僕は飽きてしまったよ。だって、そこには対話なんてなかったから。あやめ、彼は僕に聞いたんだ。『お前は本当に、僕をこの星で一番美しく、一番知的で、一番金持ちだと認めるかい?』って」
私は、胸の奥がチリりと焼けるような感覚を覚えたわ。
それは、私たちが日常的に、SNSという名の小さな星々で行っていることそのものじゃない。
「いいね」という名の、音のしない拍手を求めて、私たちはどれだけ滑稽な羽飾りの帽子を振り回しているのかしら。
「王子さま、あなたはなんて答えたの?」
「『認めるよ』って。だって、他に誰もいない星で、一番も二番もないもの。でも、認めたところで何になるの? 彼がどれほど特別でも、その星には彼を愛する人は一人もいないのに」
王子さまの言葉は、鋭いメスのように私の虚飾を切り裂いていく。
自惚れ屋の孤独は、王様の孤独よりも深い。王様はまだ「義務」という繋がりを夢見ていたけれど、自惚れ屋は「賞賛」という、中身のない泡だけを食べて生きているのだから。
「……王子さま、彼はね、死ぬのが怖いんじゃないの。自分が『普通』だと気づくのが怖いのよ。だから、拍手が止まる前に、自分で自分の耳を塞いでしまう。悲しいけれど、彼は誰よりも自分を愛しているようでいて、実は、自分を信じることができない臆病者なの」
私は、自分の指先を見つめた。
もし、この物語を読んでくれる比奈我弥生さんや、読者の皆がいなくなったら……私は、この派手な衣装を脱いで、何者でいられるのかしら。
「彼は最後まで、僕が去る理由を理解しなかった。僕の背中に向かって、『君の拍手は、世界で一番美しい音楽だ!』って叫んでいたよ。……あやめ、どうして大人は、あんなに不自由な宝石を欲しがるんだろうね」
王子さまの青い瞳が、私の心を見透かすように潤んでいる。
私は答えの代わりに、最高級のキャラメルを口に含んだ。
甘さが、孤独を麻痺させてくれることを祈りながら。
「さあ、王子さま。次の星へ行きましょう。次はもっと……重たくて、濁った、大人の泥沼が待っているわ」
一条あやめの執筆後記
「ふふ、書きながらちょっと耳が痛かったわ。でも、これが『アイドル作家』の宿命よね。自惚れ屋は、私たちの鏡なのよ。あなたもどこかで、自分だけの羽飾りを振っていないかしら?




