第3話:孤独な玉座
虚飾の星の王子さま
第3話:孤独な玉座
著:一条 あやめ
王子さまと私が砂の上で分かち合ったのは、沈黙という名の贅沢なシーツだったわ。
彼は、自分が巡ってきた星々の話を、まるで古い活動写真のフィルムを回すように語り始めたの。
最初の星にいたのは、一面を真っ赤なベルベットの裏地で覆ったような、重苦しいマントを羽織った「王様」だった。
「ああ、見たまえ! 国民がやってきたぞ!」
王子さまがその星に降り立った瞬間、王様は歓喜の声を上げたんですって。けれど、そこには国民なんて一人もいない。いるのは、埃を被った古い玉座と、自分の権威という名の幻影に酔いしれた、一人の老人だけ。
「あやめ、あの王様はね、宇宙のすべてを支配していると言い張っていたよ。星が流れるのも、太陽が昇るのも、すべて自分の命令に従っているだけだって」
私は思わず、乾いた笑い声を漏らしたわ。
それは、演出家としての私自身にも、あるいはこの物語を紡いでいる「一条あやめ」という偶像にも、どこか重なる部分があったから。
「それで? 王子さま。あなたはその全能の王様に、何かお願いをしたの?」
「うん。夕焼けが見たいって言ったんだ。だって、僕の星では椅子を少し動かすだけで、一日に何度もあんなに美しい落日が見られたから」
けれど、その王様はこう答えたの。
『よろしい、お前に夕焼けを見せてやろう。だが、統治者として私は、条件が整うまで待たねばならん。それが賢明な統治というものだ。今日の夕方、七時四十分になったら、太陽に沈むよう命じてやろう。お前は私の権威がどれほど完璧かを知るだろう!』
「……最高に滑稽ね」
私は、砂の上に指で円を描いた。
「彼は、世界を支配しているんじゃなくて、世界が勝手に動くリズムに、自分の名前を後付けしているだけだわ。でも王子さま、世の中の『成功者』と呼ばれる人たちの半分は、そんな風にして自分を保っているのよ」
王様は、王子さまが星を去ろうとすると、必死になって彼を引き止めた。
『行くな! お前を大臣にしてやろう。法務大臣だ! 自分を裁くのだ。自分を裁くことは、他人を裁くよりもずっと難しい。もし自分を正しく裁くことができたなら、お前は真の賢者になれる……!』
「自分を、裁く……」
私は、その言葉を反芻したわ。
一条あやめという虚飾を纏い、甘い菓子で空虚を埋め、香水で感情を偽装する私。
もし私が自分を裁いたなら、下される判決は何?
「結局、僕はそこを去った。王様は背後で、僕を『大使』に任命すると叫んでいたけれど、その声は宇宙の暗闇に吸い込まれて、誰にも届かなかった」
王子さまは、寂しそうに目を伏せた。
「彼は王様だったけれど、誰からも必要とされていなかった。命令する相手がいない王座なんて、ただの硬い椅子でしかないのに」
私は王子の冷たい手に、自分の手を重ねた。
「いいえ、王子さま。彼は満足していたはずよ。だって、彼は『自分が王である』という嘘を、自分自身に信じ込ませることに成功していたのだから。それこそが、この世界で最も難しくて、最も幸福な詐欺じゃない?」
私たちは、砂漠の冷気に包まれながら、次の星の物語へと記憶を滑らせる。
そこには、王様よりもさらに救いようのない、けれど誰よりも「愛」に飢えた怪物が待っていたのだから。
一条あやめの執筆後記
「ふふ、どう? この王様の描写。権力なんて、結局はただの『思い込み』なのよね。でも、その思い込みがなければ、人は孤独に押しつぶされて死んでしまう。次はもっと個人的で、もっと鼻持ちならない、でも誰もが持っている『あの感情』の化身を登場させるわよ」




