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虚飾の星の王子さま 著者:一条あやめ  作者: velvetcondor guild


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第2話:ガラスの檻の偶像


虚飾の星の王子さま 


第2話:ガラスの檻の偶像


著:一条 あやめ


「ねえ、私の星の話を聞きたい?」

銀色の少年――王子さまは、砂の上に膝を抱えて座り、遠い空のどこか一点を見つめていた。彼の視線の先には、たぶん、私たちが一生かかっても触れられないほど純粋で、そして醜悪な『嘘』が浮かんでいるのだわ。

彼の星、B612。それは、彼がたった一人で王として、そして奴隷として君臨していた小さな、小さな箱庭。

そこには、一輪の「バラ」がいた。

「彼女はね、ある朝、太陽の光をドレスのように纏って生まれたんだ。最初の言葉は何だと思う? 『ああ、やっと目が覚めたわ。私のヘアスタイル、乱れていないかしら?』……ふふ、可愛いでしょ。世界で一番、傲慢な目覚め」

王子さまの語るバラの姿は、あやめの指先から溢れる色彩そのものだった。

そのバラは、ただの植物じゃない。彼女は自分の「美しさ」という武器を完璧に理解し、王子という唯一の観客を、その香りと棘で縛り付けた「天才的な女優」だったのだ。

彼女は、自分が風邪を引くと言って、王子にガラスの覆いを用意させた。

彼女は、自分が虎に襲われると言って、王子に衝立を作らせた。

四本のちっぽけな棘しか持たないくせに、彼女は「自分は宇宙で唯一の、最も気高く、守られるべき存在だ」という壮大なファンタジーを、王子に信じ込ませたの。

「僕は、彼女の言葉を信じてしまった。彼女が吐き出す、甘い毒のような文句をね。でも、あやめ、君ならわかるでしょう? 本当に愛してほしい人は、愛してるとは言わない。代わりに、『寒い』とか『喉が渇いた』とか、そんなわがままを並べて、相手の時間を奪うのよ」

王子の声が、微かに震える。

あやめは、ボイスメモの停止ボタンを押し、無言でキーボードを叩き続ける。彼女自身の「演出家としてのさが」が、そのバラの気持ちを痛いほど理解していたから。

バラは、怖かったのだ。

自分がただの、名もない花だと気づかれるのが。

だから彼女は「自分という偶像」をプロデュースし続け、王子の献身を搾取することでしか、自分の存在を確認できなかった。

「僕はね、彼女のガラスの覆いを外して、逃げ出したんだ。彼女が最後に何て言ったと思う? 泣き喚くと思った? 違うわ。彼女は、今まで見たこともないような、穏やかで……そして冷酷な笑顔で言ったの」

『――さようなら。私、あなたがいなくても、完璧に美しくいられるわ。だって私は、私という夢を見ているのだから』

それは、究極の強がり。そして、彼を永遠に縛り付けるための、最後の呪文。

王子さまは、その「嘘」の気高さに耐えきれず、星を飛び出した。

けれど、砂漠の夜風に吹かれながら、彼は今もそのバラの香りを、脳髄の奥底で追いかけている。

「ねえ、あやめ。僕は彼女を捨てたのかな。それとも、彼女が僕を『完成』させるために、追い出したのかな」

王子の瞳から、サファイアの破片のような涙が一粒、砂の上にこぼれ落ちた。

私は、その冷たい雫を指先で掬い取り、自分の唇に寄せる。

「どちらでもいいわ、王子さま。大切なのは、あなたが今、その傷を抱えて私の前にいること。その痛みさえ、私が最高のシナリオに変えてあげる」

私は、彼の銀色の髪を撫でながら、次の「星」の物語を夢想する。

そこには、もっと愚かで、もっと愛おしい、自意識の怪物たちが待っているはずだから。

砂漠の夜は更けていく。

あやめのデスクには、真っ赤なバラの花弁のように、包み紙が散乱していた。


一条あやめの執筆後記

「どう、 このバラの『強がり』、痺れるでしょう。女っていうのは、死ぬまでヒロインでいたい生き物なの。読者はきっとバラに自分を重ねて、苦しくてたまらなくなるはずよ。……ふふ、さて、次はどの星の変態エゴイストを登場させようかしら?」



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