第55話 変態サンドビッチ
今日で短縮授業が終わり。明日は終業式。夏休み前最後の授業は体育だ。
身体を動かすのは良い。なんにも考えずに済むから。
有紗と佳純に告白をされ、もう頭の中はどうしたら良いのか訳わかんない状況。
体育はありがたいことにバスケであった。いつもなら、夏に体育館でバスケとかふざけんなって嘆いているところだが、今日に限ってはそうではない。こういう時は無駄に動くのが良い。複雑なことを考えずに済むから。
でも、どうやらそんな心境にはさせてくれないらしい。
「自由くんっ」
「か、すみ……」
バスケのミニゲームで無駄に走り回った後の見学中、佳純が昨日の告白なんてウソかのようにいつも通りに絡んで来る。こちとら意識しまくりだってのに……。もしかして、昨日のは冗談だった、とか?
「ふふ。意識しまくりだね、自由くん。これは有紗からの告白も上書きされたかな?」
どうやら昨日の告白は冗談とかではないみたいだ。
「くんくん──はわぁ……♡ かしゅみを意識しまきゅりの匂い、やばぁ♡」
「お、おい……おまっ!? ここ学校だぞ!!」
「関係な、いよぉ。別に、私は隠してないしぃ♡」
「ま、待て、バスケの後だから、やばいって!!」
「バスケでめっちゃ頑張った後の自由くんの匂いは格別なスィートタイム♡ 脳汁無双のエボリューション♡」
「……お前さ、まじで俺の身体目的だろ」
「否定はしない♡」
流石はラスボス様。欲望に素直なこって。
「ちょっと、そこのド変態!! 授業中になにやってんのよ!!」
俺達のやり取りを見ていたのだろうが、有紗がすごい剣幕でこちらにやって来る。
かと思ったら容赦なく、いつものポジションに俺を吸い込んでくる。
「むぎゅ……!!」
「自由くんはあーしと一緒で純情なんだから、そんな変態プレイされたら困るでしょうが」
「あ、りさ。待って……俺、汗だく、だから……」
今日はまだばぶみの発動が浅いみたいだから、有紗の胸も浅瀬で止まってくれていた。そのため、声が出せる。
「自由くんが汗だくとか全然気にならないよ。むしろあーしも汗だくなんだけど、おっぱい臭くない?」
「あ、いや……むしろ良い匂いというか……」
なんで美少女って汗かいても良い匂いするんだよ。摩訶不思議かよ。
「えへ……良い匂いなんでちゅねぇ♡ じゃあ、もっとありさおねえちゃんを堪能してくだちゃい♡♡」
俺の言葉でばぶみスイッチが入ってしまった有紗は、やっぱりいつもみたいに俺の顔面を谷間に深く沈めてくる。谷間の奥深くには有紗の甘酸っぱい脳を刺激する濃い匂いが溜まっている。ただし、呼吸はできないデッドオアアライブ。このまままた幸せなバッドエンドが待ち構えているのかと思っていると、救いの手が入った。
「ちょっと有紗。今のあんたの方が変態プレイしてるわよ」
どうやら佳純が俺を引っ張り出してくれたみたいだ。
「佳純。邪魔しないでよ」
「あんた、性癖隠してるんでしょ? ここ学校よ? バレても良いの?」
「自由くんとこうやってイチャイチャできるなら別にバレても良いわよ」
「あんたのはイチャイチャじゃなくて変態プレイをただただ押し付けてる変態よ。このギャルビッチ」
「見た目だけで判断しないでよね。見た目はギャルだけど中身は乙女だから。純潔だから。自由くんをわたしの初カレにして高校生活謳歌するんだから邪魔すんな、清楚系ビッチ」
「は? なにが清楚系ビッチよ。こちとら思いっきり処女だから。ビッチは有紗でしょ。この前だって一日で5人に告られてたでしょうがっ。そいつら全員と付き合えよ」
「あんなんふざけて告ってきてんだからカウントされないわよ。つうかあんたこそ、一日で5人に告られたでしょうがっ。全部ガチだし」
「あんな100本のバラで、『きみの瞳だけを狙ってる』とかわけわかんない言葉で告ってくるのなんて数にカウントされないわよ」
「いや、それはしてあげなよ。ドラマの見過ぎでトチ狂ってるだけなんだから」
流石は学園の三大美女様達だな。一日5人って……。そんな人達に俺は告白されたわけか。中身は変態だが、これはとんでもないことだよな。
とか感心している場合じゃなかった。
「とにかく、自由くんとイチャイチャするのは私だから、ばぶみおばたんはどっか行ってよ」
「誰がばぶみおばたんだっ!! この匂いフェチの変態!!」
「ぷくく。成績は良くても流石はポンコツギャルね。煽り文句が下手すぎて笑ってしまうわ」
「別にいいし!! 自由くんを包み込めればされで良いしっ」
言いながら有紗がまた俺を包み込む。
「どうだぁ。佳純にはできまい」
「バカの一つ覚えみたいにやりやがって。そんなん自由くんも飽きて──なさそうだな、おい。やっぱり男子は乳かっ!? お!? 私もある方だぞ!! こっちに来なさい、自由くんっ!!」
次に佳純がまた俺を引っ張って胸に手繰り寄せる。
あ、有紗とはまた違う感触。少し固めだけど、反発力がある。張りのある胸というやつだ。正直、感触は圧倒的に有紗の方が心地良いのだが、彼女の谷間に溜まっている匂い。それはなんとも言えない女性フェロモンの匂い。彼女の芯から漂う男性フェロモンを刺激するこの香りが好き過ぎて、ここに住みたいと思わせる。
「佳純……めっちゃ良い匂いする……」
つい口に出してしまうほどの感想に佳純は、ボンっと顔を赤くして俺から距離を置く。
「じ、ゆうくん……私の匂い、嗅ぐのは、禁止、だよぉ……」
ラスボス様のウィークポイントを的確についてしまった。この状況下でも匂いを嗅がれるとそうなるのね。
「あーはっはっはっ!! 降井!! 随分と楽しそうじゃないか!!」
俺達3人の変態プレイ中、横やりを入れてくるのは体育の先生。親父とは違った、マッチョ特有の顔をした先生は、白い歯をニカっと見して爽やかに言ってくる。
「青春してるなぁ!! 良い事だが、今は授業中だ。罰として後片付けをするようにしたまえ!!」
そりゃまぁ、授業中にはしゃいでたらこうなりますよね。
♢
片付けと言っても大したことではない。モップで体育館を軽く掃除して、ボールを体育館内にある倉庫に片づけたら試合終了。
有紗と佳純も手伝ってくれると言ってくれたが、この程度で手伝ってもらうのもなんだし、少し考え事がしたかったから、2人には遠慮してもらった。こっちの空気を察してくれた2人は素直に俺の要望に応じてくれた。
「それにしても、告ってくれたのに2人共いつも通り過ぎるだろ」
ちょっぴりの文句を垂れながらボールを片していく。
そりゃ学園の三大美女様達だし、言い寄ってくる男子は多いだろう。付き合った経験はないとは言っていたが、異性に言い寄られることも経験値になっているってか。こちとら絡みと言ったら色葉オンリーな人生だったから、そんなんわかるかってんだ。
「……俺はあの2人のどちらかを選ぶことになるんだよな」
2人共、だなんて欲張りなことはできない。きちんと選ばないといけない。
選ぶったって、今まで恋愛経験が雑魚の俺にラスボス級の女の子達を選べだんて酷すぎやしませんか、運命さん。
カチャリ。
ドアの方で鍵が閉まる音が聞こえてきた。
いや、そんな音よりも考えなければならないは有紗と佳純のこと──。
『授業中にはしゃぐ陰キャぼっちはここで一生反省してろ!!』
ドア越しに聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『今日で授業は終わりだし、誰もこねーぞ、陰キャぼっち!! そこで夏休みしとけ!!』
『31泊、32日の豪華ツアーじゃぼけ!!』
──へ?
完全に惚けていた頭が冷め、ドアの方へ駆ける。
ガチャ、ガチャ!!
ドアを開けてみるが外側から鍵がかけられており、開かない。
くっそ!! 閉じ込められた!!
「──っんで、倉庫系のドアは内側に鍵がないんじゃ、ぼけ!!」
ガチャガチャと無駄にドアを開けようと試みるがなんの意味もなし。
やばい。まじで閉じ込められた。どうしよう。ここで31泊32日の豪華ツアー……。
「地獄のツアーの始まりかよ」
絶望しているところに、「自由くん?」と声が聞こえて来たかと思うと、隣に人の気配があった。
「うぉ!? 彩芽!?」




