第54話 油断すんな。ラスボスが来るぞっ!!
短縮授業となった学校。それにより、放課後はいつもより長くシフトに入ることができる。今はやたらと働きたい気分であった。それというのは雑念を忘れられるからだ。
有紗に告白をされた……で良いんだよな。あれは間違いなく俺への告白。有紗が俺を好きだと言ってくれた告白。唐突で衝撃的な告白。そんなもんだから意識しまくりで学校じゃろくに顔を見ることもできん。その分、働いている時はその雑念を払うことができる。
とか思ってた時期が俺にもありました。
同じバイトなんだから学校とか関係なく側にいるよね。俺はなにを考えてんねん、あほ。
バイト中、このやばのくくりんのコスプレをした有紗の姿を自然と追いかけてしまっている。
「ぁ……ふふ」
彼女と目が合うと、微笑んで手を振ってくれる。
『急だったし返事とか求めてないから。でもわたしのことは意識しとけ☆』の術中にまんまとハマってる始末。ポケーっと惚けてしまう。
「アズマさんアズマさん。さっきからボーっとしてアホ面が増してるわよ」
そんな俺に呆れた様子で絡んで来たのは、女神マリンに扮した佳純であった。役作りはばっちりみたいで、ものの見事に女神マリンを演じていらっしゃる。
「あ、ああ。悪い」
そんな彼女とは裏腹に、俺は素の自分を出して謝ってしまう。
「ちょっと自由くん。それじゃアズマじゃなくてまんま自由くんになってるよ」
「あ、ごめん」
「? なんかあった?」
「いや……」
「もう。あんまりボーっとしてるとミスっちゃうから気をつけてね」
「あ、う、うん。そ、そうだな。ごめん」
俺の生活はこの店の売上にかかっている。だから仕事中にボーッとしている訳にはいかない。頭ではわかっているが、どうしても有紗の告白が尾を引いて考えこんでしまう。
いや、この考え込むというのは嫌な考え込むじゃなくて、なんというか、考えたくなる考え込むというか。
蜜を味わうように考え込んでいるところに、「きゃっ」と有紗の小さな悲鳴が聞こえてきた。次の瞬間、パリンと皿が割れる音が聞こえてくる。どうやら有紗がまた皿を割ったみたいだ。
「大丈夫か!?」
自然と有紗のことを目で追っていたから、すぐさま彼女のところへ駆けつけることができた。
「ご、ごめんなさい」
魔女っ子の恰好をした有紗が申し訳なさそうに謝ってくる。
「そんなことよりも怪我はないか?」
彼女の手を取り見てみるとどうやら怪我はないみたいで安心する。
「ぁ……」
パッと見で怪我がないことは確認できたが、彼女が小さな声を漏らして頬を赤くした。
すぐになんで赤くなっているのかに気が付き、咄嗟に手を離す。
「ご、ごめん」
反射的に謝ると、有紗は俺の耳元で小さく言ってくる。
「好きな人に手を握られてるんだから謝る必要なんてないよ」
「!?」
耳にご馳走なセリフが聞こえてくると、こちらをからかうような、それでいて真剣なような顔で見られてしまう。
「ごめんね。ミスばっかで」
「い、いや。ミスるのが有紗だから気にすんな」
有紗と絡むとドキドキしている自分がいるが、まだこんな嫌味を言える余裕はあるみたい。
「すぐ来てくれて超嬉しかった。ありがと」
本当に余裕があるのは有紗の方なのか。こちらの嫌味に真っすぐに返されてしまい、ドキマギしてしまう。
そんな心理状況だから、俺はそのまま割れた皿を素手で回収してしまう。
「って……」
「自由くん!? 大丈夫!?」
有紗の心配する声が店に響き、何事かと注目を浴びてしまう。あーあ、なにを初心者みたいな失敗をしているのか。そもそもこれは俺が有紗に教えたことだってのに、俺がやっちまってどうするんだ。カッコ悪い自分に嫌気がさしてしまう。
「あーあ。なにやってんのアズマさん。あっちで回復魔法かけてあげるからいらっしゃい」
俺の手の怪我を心配してやってきてくれたアクアこと佳純が、演技を続けながらバックヤードに一緒にはけてくれる。
佳純の機転の効いた演出でお客さん達は怒らず、呆れもせずにいてくれた。
♢
「割れた皿を素手で触らないって教えてくれたのはどこのどいつだったかなー」
呆れた声で俺の手の手当てをしてくれる佳純に目も当てられない。
「すみません。ここのこいつです」
「まったく。今日はボーッとし過ぎだよ。なんかあった?」
有紗に告白された。なんて佳純に相談できれば少しは楽になるんだろうか。でも、こういうことって軽々しく言い振らすもんじゃないよな? うわ、わかんね。今までぼっちで恋ばななんてしたことないもんだから、言って良いもんなんかどうかわからん。
「べ、別に、特になにもねぇけど」
わからないことなんだから、軽々しい発言はよしておこう。一歩踏み出す勇気も大事だが、止まることもまた勇気に等しい行為。なんて自分に言い訳一つ。
「……もしかして有紗となんかあった?」
やはりこのラスボス様には隠し事など通用しないのだろうか。
「おい。匂いを嗅いで俺の心理を探ってくんなよ」
「いや、今の自由くんは匂いを嗅がなくてもなに考えてるからわかるんですけど」
「え?」
「そりゃ、仕事中に有紗の方ばっかり見てたら誰でもわかるっての」
「そんなに見てた?」
はぁ。とため息で返されると、途端に佳純の顔が真剣になる。
「もしかして、有紗と付き合った?」
「い、いや。その……」
ここまで来たらバレているのも当然か。すまん有紗。あまりこういうことを言い振らすつもりはないんだが。
「有紗にさ、その、告白、されたんだ」
「そ」
あれ? そんだけ?
思っていたよりも反応が薄い。もっと、こう、「えー、うそうそー。まじー!? どうすんの!? 付き合うの!?」みたいな感じでガンガン攻めてきて、「くんくん──こりゃ青春の迷子になってる匂いですなぁ♡」とか変態発言してくると思ったんだけども。
「有紗め……抜け駆けか……」
ぶつぶつと抜け駆けがなんとかって呟いているだけで、匂いを嗅いでくる気配はない。
「な、なぁ佳純。俺、告白とか初めてされてさ、付き合うとか付き合わないとか、どうして良いかわかんないんだよ。ぼっちで友達もいねぇし、こんなこと親父に相談するのも変だし、八方塞がりなんだよ」
「八方塞がり、ね。だったら良い方法があるよ」
「ほんとか?」
「うん」
確信を得たかのように頷く佳純の次の言葉を俺は希望を持って待つ。
「私と付き合えば良いんだよ」
「……へ?」
まったくもって予想していなかったセリフに、鳩が豆鉄砲というよりバズーカでもくらった顔をしてしまう。
そんなこちらの阿呆な顔を他所に、佳純が俺の服の袖を掴んで来る。
「私、自由くんのことが好きだよ」
「ま、まま、待て。なんでそうなる!? 今は有紗の相談をだな──」
「負けたくないから」
こちらの動揺を無視し、佳純は強く言い放つ。
「有紗にも、他の女の子にも、誰にも、絶対に負けない。私が一番自由くんを好きなんだから」
その強い好意は、俺みたいな童貞ぼっちじゃ完全なるキャパオーバーであった。そんなオーバーヒートしている状況下で、佳純は微笑みながら言ってくる。
「有紗ばっかり考えてたみたいたけど、私だけしか考えられないようにしてあげるから、覚悟してよね」
容赦ない言葉は本当にラスボスそのものだ。




