第52話 学園の三大美女と絡む代償は大きい
期末テストも終わり、夏休みまで指折り数えるほどとなった。
学校全体もどこか浮足だっているかの雰囲気を感じ取れる。俺だってそうだ。学生のみんなが大好きな夏休み前ということで浮足だっている。
しかしだね。そんな俺達よりも浮足だっている雰囲気をビンビンに出している連中がいるんだよな。
「自由くん」
いつの間に俺の目の前に現れたのか、唐突に声が聞こえてきたかと思うと、気が付くと目の前には彩芽が立っていた。流石はアサシンだ。
「どったの?」
人間というのは慣れるものである。彼女が気配を消して俺の前に現れても大きなリアクションをすることはなくなった。ただ、クラスの連中からの熱い視線には未だに慣れない。学園の三大美女と喋る時のこの睨みはいつになったら無くなってくれるのだろうか。
「今日も私の家で泊まって勉強しない?」
「???」
彼女の誘い文句に?が三つも出てしまったのを許して欲しい。でもさ、こんなリアクションにもなるってもんだ。
「期末は終わったろ?」
「違う意味で終わった」
がっくりと肩を落とす彩芽を見て、あー自信ないんだなぁと。期末の結果は後日となっているため、それまではドキドキ期間をお楽しみしないといけないみたいだ。
「いや、それなら泊まって勉強する意味ないだろ」
「あ、ある。この前の続き、とか」
「いや、お前、その言い方なんかやらしいぞ」
「いやらしい……ぁぁ……♡」
「おい。今のどこにスイッチがあったよ。落ち着け──よぉし、なんとか耐えたな」
急に足をガクブルとさせるので焦ったが、なんとか身体が耐えてくれたみたいだ。
「勉強ならあーしも入れてよ」
そう言いながら今日も、まきまき☆もりもり☆な髪型をした令和ギャルの有紗がフレンドリーにやって来た。
「くそギャルを入れる敷居なんてウチにはない」
なんとかドMスイッチを耐えたと思ったら、彩芽ったらドSスイッチがオンになってやがる。つうか、なんでいきなりけんか腰なんだよ。
「ご意見厳しい。あ、そっか、期末赤点だらけで夏休み家にいないからって意味か」
有紗の激しいカウンターに、「ぐふっ」と彩芽に大ダメージが入った。彩芽も強気だが、有紗も強気だな。
「そんじゃ、彩芽は家にいないみたいだし、この前みたいに自由くんの部屋に行くね」
「ちょ!? いきなりなに言っちゃってんの!?」
このギャル。いつも唐突に爆弾を投げてくるんよ。だからもう動揺が止まらない。
「うふふ。前みたいにお医者さんごっこで遊びたい?」
「待て、そんなことした覚えは──」
「お医者さんごっこ……あり」
彩芽は何に対して肯定したのだろうか。それよりも、近づいてくる影に莫大なオーラを感じ震えあがってしまう。
「お医者さんごっこって、なに?」
ラスボスのご登場にゴクリと生唾を飲んでしまう。その圧倒的重圧はもはや魔王そのもの。ラスボスに相応しい空気を醸し出しながら佳純がご登場なさった。
「ねぇ、お医者さんごっこってなによ」
パンっと持っていたムチを引っ張って音を鳴らす佳純。ラスボスの武器が鞭とかレアケースにも程があるだろ。
「鞭プレイもあり」
おーい、彩芽。お前はなにを言っちゃってんだ。
「お医者さんごっこはお医者さんごっこっしょ。子供の頃にしたでしょ? あ、でも、この前のわたしと自由くんのお医者さんごっこは大人のお医者さんごっこだったけど」
「大人、の?」
ギロリと俺を睨んでくる佳純。
「いや、普通に風邪を引いた時に看病してくれただけだろ」
「そうそう。普通に、看病しただけ」
有紗は含みのある言い方をして胸を佳純に突き出した。いや、確かに普通ではなかったよな。有紗の胸の中で眠った記憶があるし。眠った? 気絶した? ま、どっちでも良いか。
「また、看病してあげまちゅね♡ 自由くん♡」
「おーい、有紗。またばぶみが入ってんぞ。いきなりどうした。ここ学校だぞ」
「あ、やべっ……っぶな。このまま自由くんをまぁたわたしのおっぱいで包むところだったわ。大きなおっぱいで包むところだったわー」
言いながら更に胸を強調してらっしゃる。あの、思春期の男の子の前でそんなことをされると視線が困るんですけど。いや、正確には困らないんですけどね。ガン見なんですけどね。
「ふっ……流石は乳牛女。乳に全ての栄養が回って脳に供給されていないみたいね」
「は? どういう意味よ」
「そうやってバカの一つ覚えみたいに乳で攻撃してても意味はないってことよ」
言いながら佳純はなぜか持ってた鞭で俺と彼女の足を結んだ。「あ、ごめん。ちょっと結びにくいから立ってくれる?」なんて言われて反射的に立ってしまった。
こうして体育祭の時みたいな二人三脚の完成である。
「結局、男の子って女の子と密着できればなんでもオッケーなのよ。乳じゃなくて身体よ、身体。ね、自由くん」
「お前は一体なにがしたいんだよ、佳純」
「くんくん──はぁわぁ♡ いいんだよ、自由くん♡ 自由くんはなにも言わずとも私にはわかるから♡ 佳純と密着してドキドキしてるのわかるから♡」
流石はラスボス様。ここが学校だろうがなんだろうがお構いなしに性癖を曝け出してくる。
「ぉほ♡ やっべ♡ 学校で嗅ぐ自由くんの匂いぱねぇ♡ ゆるあま青春№5だわ、これ♡」
やべぇ。なんでこんなにフルスロットルなんだよ、佳純のやつ。
「ちょっと佳純。どくべき」
「そうだよ。離れろよ」
「「自由くんが困ってるだろうが。このド変態がっ!!」」
言いながら彩芽と有紗で佳純を引き離そうとする。
「ざんねーん♡ 私と自由くんはみっちりと繋がっているため、離れたくても離れられませーん」
煽るような言い方で二人を翻弄する佳純。
「策士」
「くそ」
残念がる二人を見て勝ち誇る佳純。
そんな様子をずっと見ていた色葉と目が合う。
やばい。また呪いの言葉をプレゼントされてしまう。
かと思ったんだけど違った。
長い前髪の奥になにを思っているのか、ほくそ笑んでいる。
「自由くん」
学園の三大美女達が言い争う中、なんだかいつもより余裕のある声を発する色葉。
「今日、バイト前、色葉の家でいつも通りご飯食べて行きなさいって《《お母さんが》》言ってたから、来てね」
「ああ。わかった。いつもありがとうな」
「「「ぐっふ!!!」」」
こちらのいつもの会話になぜか学園の三大美女達は瀕死状態になっていた。
「親公認は……」
「強すぎる……」
「幼馴染チート……」
こいつらはなにを言ってるのだろうか。謎の言葉を残したまま喋らなくなったところで色葉が清々しい顔をして一言。
「これで平和になった」
あれ、もしかして色葉って呪術師とかではなく、勇者様なのでは?
♢
──とまぁ、こうやって夏休み前だから浮足だっている学校。特に学園の三大美女様達がおおはしゃぎしてらっしゃる。おおはしゃぎしているのは良いし、俺と絡んでくれるのも嬉しいんだけど、ここで俺みたいなぼっちが学園の三大美女様と絡んでいる代償が支払われることとなる。
「降井。お前、調子乗りすぎな」
あ、はい。とうとう我慢できなくなった男子達からの呼び出しをくらってしまいましたとさ。




