第51話 自由を巡る恋愛戦線の開幕
(※このお話は三人称になっております)
閉店後のカフェふりーのバックヤードには、従業員である学園の三大美女プラス七式色葉が集まっていた。現在バックヤードは男子禁制。女の園状態。
店長の降井晴天とその息子である降井自由は、バックヤードに入ることを禁じられたため、親子でまかないを作っている最中だ。
「さて」
集まった美少女四人の中、召集をかけた佳純が他のメンバーを一人、一人丁寧に見渡してから口を開いた。
「まどろっこしいのは嫌いだから担当直入に言うね。この中で自由くんのことが好きな人っている?」
「「「!?」」」
佳純が発した言葉と同時にピクリと反応を示す三人の美少女達。
なるほど、全員が自由くんに矢印を向いている状態らしい。予想していたとはいえ、佳純は少しばかり肩を落としてしまった。
「まぁ……」
佳純の発言から最初に答えたのは水瀬有紗だ。彼女はいつものノリで淡々と語り出す。
「ぶっちゃけ、アリよりのアリって感じだよね。あーしの性癖も受け止めてくれるし。なによりばぶみを感じられるからさ。告られたら即オッケーって感じかな」
軽い感じに答える有紗だが、要は自由と付き合いたいと思っているということだ。
「私も」
有紗に続き、彩芽が発言した。
「自由くんは私の性癖を見ても引かずに相手してくれた。それに優しいし、カッコいい。だから好き」
彩芽に関してはこの間の件で大体の予想ができていたが、そのまんま予想通りに自由のことが好きらしい。
「あ、わかるー。自由くん超優しいよね。あーしとか全然仕事できないのに見捨てずにいてくれるし。ガチ紳士って感じ」
「ガチ紳士には同意。勉強も最後まで見てくれる」
「うわっ。彩芽めっちゃ良いじゃん。あーしも成績悪かったら自由くんと勉強できたのにー」
「有紗。それどういう意味?」
「んー。そのまんまの意味だけど?」
「ふぅん。私もポンコツだったら自由くんに手取り足取り仕事を教えてもらえたのに。普通に仕事できるからなー」
「な、なにをー!?」
唐突に始まった有紗と彩芽の口喧嘩。
「まぁまぁ。二人共落ち着いて」
それを宥める佳純。
この二人は普段、とても仲が良いのだが、性格が真逆なもんだから、一度スイッチが入るとこうなってしまう。その仲裁に入るのがいつも佳純の役目であった。
「そういう佳純はどうなん?」
口喧嘩の仲裁に入った佳純へ有紗が尋ねた。
「それは本当にそう。こんなこと聞くということは、佳純もまた自由くんのことが好きということになる」
「ねー。そうだよねー。あーし達を集めた身なんだし、とっとと話せー」
「早く喋るべき」
一瞬で仲直りを果たした二人は、仲裁に入った佳純へ猛攻撃を仕掛けた。
そんな詰められ方をしたもんだし、まどろっこしいのが嫌いな佳純はストレートに言葉にした。
「好き」
短いその二文字には、佳純が本気なのだという思いが込められていた。
「自由くんを見ていると胸が苦しくなる。でも、この苦しいのは全然嫌じゃなくて……私を守ってくれた時も、二人三脚で密着した時も、日常の何気ない時間でも、自由くんを見ているとドキドキしちゃう。匂いを嗅ぐと……もうおかしくなっちゃう」
やはり最後は佳純らしくなってしまっていた。
「最初は純粋な恋ばなと思ったら、やっぱり下ネタかよー」
「変態」
「な、なんだとー!! それを言うならあんたらだって下ネタ満載の変態じゃないかー!!」
「は? あーしはただただ自由くんを甘やかしたいだけだし」
「そうやって自分の性癖を自由くんで解消してるだけじゃん。はい、論破」
「私は自由くんのストレス解消にも役立っている。よって両思い」
「うるさいわよ、雌豚。はい、論破」
「「お前はど変態の匂いフェチだろうが」」
「私は自由くんに許可を得てるから。匂い嗅ぎ放題だから」
体育祭の時にそんな話がやんわりと出ただけだが、とりあえずこの場は自分の都合良く改変しておく佳純であった。
「そんなこと言ったらあーしは、自由くんをいつもおっぱいで包んであげてるから。喜んでくれているから。貧乳共は黙って巨乳を咥えている自由くんを指咥えて見てな!!」
唐突にとんでもないことを言ってのける有紗に対し、酷く動揺しながらも佳純が反撃を開始する。
「きょ、巨乳とかただの脂肪でしょ。べ、別になんの価値もないわよ」
「あれれ。佳純ちゃーん。おっぱいないからって嫉妬ですかー?」
「乳あるわ!! Cカップあるわいっ!!」
「それじゃあ自由くんは満足できないよー。最悪でもGはないとー。あ、でも、CとGって見た目めっちゃ似てるよね。中身は全然違うけどー」
「ぬぐぐ」
有紗に超絶上から言われてしまい、佳純がなにも言い返せないでいる中で彩芽がクールに一言。
「自由くんは貧乳派」
「は? なにを根拠に──」
「私の裸を見て興奮してくれた」
「「はああああああ!?」」
バックヤードに耳をつんざくような怒号が響き渡った。
「な、なななによ、それ……なによ、それええええ!! 自由くんはわたしのおっぱいが好きなはずなのに!!」
「残念だけどこれが現実。自由くんはおっぱいで人を判断しない。人で判断する」
ドヤっと有紗を言い負かす彩芽に対し、そんなことよりも気になることがあると、佳純が彼女に問う。
「は、裸ってなによ!? それって、お風呂に一緒に入ったってこと?」
「お風呂は違う。ベッド」
「ベッド、だと?」
この時、佳純の鼻筋を通ったのは、以前、隠し事をしていた自由の匂い。
あんのやろぉぉ。そんなことを隠してやがったのか、どちくしょう。それだったら私もさっさと裸で迫れば良かった!! と後悔する佳純であった。
「ふっ。裸も見られたし、同じベッドで寝た。そして膝枕まで経験した私の圧勝。みんなは黙って私と自由くんのラブラブ高校生活を見ていれば良い」
有紗と彩芽にマウントを取られてしまい意気消沈の佳純は、助けを求めるように色葉へと話題を振る。
「七式さんも自由くんのこと好きでしょ?」
「あ、そうだそうだ。七式パイセンは自由くんと幼馴染なんっしょ。なんもないってことはないよね?」
「気になる」
三人からの視線を受け色葉は相変わらずあたふたとしてしまった。
「あ!? え、えと……そ、その、昔から好き、です」
いつも通りにわたわたしていたが、自由への好意ははっきりと答えてくれた。
「昔からこんな陰気でコミュ症な色葉を見捨てないで側にいてくれて……いつも優しくて……小学生の頃、色葉が男子にいじめられた時、助けてくれて、それから男子にハブられても、『俺には色葉がいるから』って言ってくれた。その時から色葉は絶対に自由くんの側にいるって誓ったんだよ」
「へ、へぇ」
「さっすが自由くん。やっさしぃ」
「小さい頃からガチ紳士」
「それからね、えへへ、自由くんは、『大人になったら色葉と結婚するから俺は一人じゃない』って言ってくれたんだよ」
「「「!?」」」
唐突なピュアピュア発言に変態共は震え上がった。
「でも」
「それって」
「小さい頃の話──」
「それから中学生の頃に──」
色葉の幼馴染アドバンテージマウントは止まらなかった。先程まで学園の三大美女達がマウントを取り合っていたことをほくそ笑むかのように語り出す色葉。それを止める術など学園の三大美女にはなかった。
結局、最後まで自由と色葉の幼馴染としての軌跡を語られ、学園の三大美女は自由と色葉の絆の深さを思い知らされた。そして、色葉こそが最大の壁であることを実感し、逆に闘志を燃やすきっかけとなりえた。
おもしろい。やってやろうじゃんか。
自由を巡る恋の四重奏が始まろうとしていた。




