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聖なる星の乙女と予言の王子  作者: 桜海
幕間⑨

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【Side:Asteir】

 泣きそうになりながらも走り去る小さく細い背中を見送って、アステールは肺の奥から息を吐き出した。

 視界の端で大事な弟子のあとを追いかけようとする魔獣を捉え、チッと高らかに舌を打つ。

 まったく持って貴族らしくない。そんな自分に笑いそうになる。


「――わたしを無視するんじゃないわよ。獣風情が」


 不機嫌そうに鼻を鳴らし、アステールは横をすり抜けた一体に星野力で練り上げた雷を落とした。

 聞くに耐えない断末魔が上がる。吐き気を催すような臭気が焦げ臭さとともに辺りに漂い、消滅と同時に溢れ出した瘴気が空気を汚していく。


「……これ以上は、行かせないよ」

 

 いくらアステールの力が強いとはいえ、この魔獣の数。普通なら、ひとりで対応するものではない。あるいは、アステールの本来の力量であれば、まだ――。

 と、そこまで考えて、彼女は苦笑した。

 そんなことはもう、いまさらどうしようもないことだ。


「ま、わたしは師匠だし。弟子のために、一肌脱がなくちゃね」


 バチバチとアステールの周りを薄い雷が覆っていく。

 アステールは弟子がいないと困るのだ。なにせあの姪っ子がいないと、彼女の生活はままならない。

 最後に見たステラシアの澄んだ瞳を思い出しながら、アステールは体のなかにある星の力を全力で解放した。



「……はぁ、は……どこか、別の場所へ行かないとね……」


 ツツ……とこめかみから流れるものを服の袖で拭う。汗とともに、こびり付いていた血が滲んで袖口を汚した。

 全盛期よりもだいぶ衰えてしまった力のせいで、かなり時間がかかってしまった。それでもまだ、陽は完全に沈みきらない。

 いくら森のなかで薄暗いとはいえ、まだ陽のある時間帯。それなのに魔獣が十数体も現れた事実に、アステールは眉を寄せる。

 こんなことは、いままでなかったはずだ。


(それとも、いまのいままで凶星(まがつぼし)が生きているから、かなぁ……歴史書を見ても、凶星――魔獣の乙女だか、陰り星の乙女だかって、幼い頃にみーんな殺されてるみたいだし)


 空を見て、目を細め、そしてクラリと視界がブレて、地面に膝をついた。


「ああ……力使いすぎたぁ」


 星の力だけではなく、魔力もだいぶ使ってしまった。


「シエナ先輩に教えたときよりも改良したとはいえ、封印術にはやっぱり大量に星の力が必要なんだよね……」


 星の力とは、生命力。いっきに大量に使えば、力を溜めておく機能が低下する。要するに、袋が裂けて水が漏れ出し小さくなるのと一緒だ。

 それでもあのとき、アステールの星の力の消費は王妃よりも抑えられたし、いまだって息が上がるだけで倒れるほどではない。

 

「とりあえず、森をひとりで歩くのはマズイわね……大丈夫かなぁ、ステラシア……」


 ヨロヨロと屋敷に戻り、適当に服を着替える。研究室化している自室の机の上にあった瓶を開け、薄緑色をした液体を飲み干した。

 すぐに、体に変化が現れる。少しだけ目眩を起こす。

 華奢な体ががっしりと変わった頃に、アステールはそのへんにあった鞄に必要な薬草を詰め込んでいき、ふらりと屋敷を出た。

 

「んー……辻馬車拾って、東隣の男爵家にでも行くかなぁ。あそこに確か学園時代の男友達がいた気がするんだよね。たしかセラン男爵の息子だっけ? まあ……男になってちょうどいいし」


 呟く声は、少し高いくらいの男の声に変わっていた。

 薬は一日一回服用しなければ、すぐに戻ってしまう。

 魔獣に襲われる直前に完成していて良かったと思いながら、アステールはどんどん傾いていく太陽の下、森のなかの道なき道を歩き出した。


 立派に跡を継いでいた元男爵家の息子が、突然訪ねてきたアステールに泡を吹いて倒れ、なおかつ破天荒なアステール(男)に振り回されるのは、また別の話である。

セラン男爵は、アステールに気に入られた、肝が小さくて小太りでお人好しなただのモブ貴族オジサンです。かわいそう。

だから、戦勝会で魔獣に重症を負わされるし、スターリアの力を誇示するためだけの役回りになっちゃうんですよね。かわいそ。

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