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河川敷の景色

 何もしないで下り坂を走っていると、なにやら目がちかちかしてきた。

 ゴミでも入ったのか。僕は、左手をハンドルから離して目をちょっと覆い隠し、軽く押さえつけ、そのあと両目をこすってみた。

 その甲斐あってか、目を開いてみるともうちかちか感はなくなっていた。

 (大したことはないな)と思い、左手をハンドルに戻し、視線も川の方に戻した。


 「あれ?」なにかに気が付いた。

 具体的には何かわからないがちょっと違う。何か変だ。なんだろう?

 そういえば、いつの間にか、僕の自転車は住宅街を抜け土手の上の道路を走っていた。


 川の方を見れば、広い河川敷があり緑の草原が広がっている。その草原の中には、菜の花が群生して生えており、緑と黄色の織り成す河川敷は実に清々しい景色だ。

 その向こうには、テニスコートやグランドが・・・あれ?ちょっとした空き地にはなっているがテニスコートもサッカーグランドもない。

 場所が違ったのだろうか。確かに川べりの道路というものは、どこも似たような感じで勘違いしてもおかしくはない。


 それに、見知らぬ住宅街に入ってから、周りの景色は僕の記憶のデータとは全く一致していない。近所ではあるはずだが見知らぬ風景が続いている。不思議なものだ。


 タタン・タタン・タタン・・と遠くから音が聞こえてくる。

 かなたの鉄橋を電車が通る音だ。その音の方向を見てみると、銀色の鉄橋を白地に赤のラインが入った電車が走っていく。


 「あれ?」なにかに気が付いた。

 僕は鉄男ではないが、電車の車両数ぐらいはわかる。

 あの鉄橋のある路線は、いつから2両編成の電車が走っているのだろう。あの方向に行くとすれば都会に向かっていく訳だから、少なくとも8両編成以上の長さだったと思っていたが・・


 あとから考えれば、この時にこそ気付くべきだったのだ。

 しかし、5月の青空に青々とした草原、吹き渡る涼風に僕の脳の知的活動は完全に停止していた。

 それとも何か他の方に力を発揮していて通常の思考回路がおろそかになっていたのかもしれない。


 いずれにしろ、この時の僕は、このすばらしく気分がいい状態を維持することが当然のような感覚で自転車に乗っていた。


 視界を遮るものがない土手の上の道路は、ずうっとはるかかなたまで見通せた。

 その道路上には、車はおろか人影さえない。

 乗っている自転車は、微妙な下り坂のためペダルをこがなくても前進している。

 頬をなでる空気は、やわらかい水鳥の羽毛のよう・・・で、僕は、またしても思わず目をつぶってしまった。

「き~もち、いい~~」

 5月の空気を体全体で味わっていた。


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