天神川
そのまま、登り坂をあがっていく。ペダルは軽くこげるようになったが、スピードがあまり出ないために少々まどろっこしい。
数軒分過ぎた辺りでだんだん登り具合が緩くなってきたので、ギアを上げることにした。
右手の変速レバーをひねり、いつもの「2」に合わせた。カチャン・・下げるときよりも若干重い感じのショックが伝わり、ギアが変わった。
とたんにペダルが重くなったが、その分加速力が増した。若干立ちこぎ姿勢にすると、さらに愛車は加速する。
再び髪の毛が五月の風を浴び、学生服を通して全身が初夏の息吹を感じた。
「気持ちいい・・」
しかし、周りの景色は僕の記憶にはない。
古い街並みではないが真新しい住宅というわけでもない。それでも見た記憶がない。
多分、近所だというのにこの道路を通ったことがないのだろう。
そんなことを思いながら上り坂をギア「2」で登っていった。
登り坂の後には必ず下り坂がある。
緩やかな登り坂の頂上と思われる地点まで立ちこぎのままたどり着いた。前を見れば、さっきまで道の果ては青空だったのが、今度は真っ直ぐな道がずうっと続いている。
さらにその先は、左側に大きな川が見える。「天神川」だ。
この川は、かなり大きな川で、河川敷には緑の草原が広がり、その中にサッカー場やテニスコートなどがある。休日にはスポーツ大会のほかに、さまざまなイベントが開かれたくさんの人で賑わうところだ。
僕がいる道路は、真っ直ぐと川の方向に伸び、川に沿って盛り上げられた土手の上の道路とY字に合流している。左側は河川敷、右側はまた新たな住宅街が広がっている。
この時、僕は気が付いていた。
このまま進めば、学校はどんどん遠くなっていくことを・・・。
ところが、春の風が頭の中にも吹いていたのか、それとも春の妖精が僕の脳みそを鷲づかみしていたのか、僕の思考は完全に膠着していて、そんなことなどこれっぽっちも考えていなかった。
または、考えていたにしても学校など大したことはないと思っていたのかもしれない。




