見慣れない街並みのプーさん
それでも、自転車は真っ直ぐ伸びた舗装路を進んでいる。
数メートル進んでいくと、何件か先の角地に建っている南欧風住宅の郵便受けが見えてきた。建物の上品さにそぐわない、ディズニーのプーさんがあしらわれたマンガチックな形である。
「あぁ!」思わず僕の口から感嘆符がもれた。
プーさんのポストをきっかけに、辺りの景色が僕の記憶のデータと音を立てるように一致し始めたのである。
何のことはない。
いつも通っている道から一本入った路地を逆走していたのだ。この路地は、近所のため小学生頃にはたまに通っていたが、最近はほとんど使ったことがなく、ましてや逆から走ったことなど、よくよく考えてみれば一度もない。
こんな南欧風住宅が建っていたなんて全く知らなかった。
あのプーさんの角地の家が唯一僕の日頃の通学路との接点だった。
それがなければ、今ごろ年甲斐もなく自宅近所で迷子になっていたかもしれない。
プーさんに感謝。
僕は、朝から脳に「アハ」体験をさせながら、そのまま自転車をこいでいつもの通学路に出ようとした。プーさんの家を左に曲がればいつもの道である。
ところがここで変な気が起きてきた。
これも五月の涼風のいたずらなのか。
プーさんの家の交差点を曲がらず、いつもの通学路を突っ切って反対側の住宅街の路地に侵入したのだ。交差点には車両もなく何のストレスもないまま、新たな住宅街に入り込んでしまった。
交差点から数軒分入って気が付いた。
こっち側もさっきと同じように記憶のデータに合致する風景がない。
街並みは今流行の欧風建築ではなく、外壁がモノトーンのちょっと前に流行ったような感じの住宅が並んでいた。多分、さっきの路地と同じように、近所なのに通ったことがない道なのだろう。
それでも、今走っている道路は思いのほか幅が広く、新興住宅街によくあるように真っ直ぐに伸びていいる。若干登り坂になっているのか、その伸びた先は五月晴れの青空に続いていた。
青空に続く登り坂はそんなにきつくないと思っていたが、実際ペダルをこいでみると意外と重い。
僕は、右手グリップの変速ギアを一番軽く自転車がこげる「1」にあわせるようひねった。
カシャッ・・ギアが切り替わる軽い音がしてペダルへの負荷がフッと軽くなり、回転数が上がった。スピードは上がらないものの楽に自転車を進めることができるようになった。




