愛車でスタート
僕は、その愛車にまたがり、いつものように左足を地面について、右足でペダルに体重を乗せ発進した。
おおっと、いつもより軽い力で進みだした。
僕の自転車は、三段変速ができるタイプで、右手のグリップ部分に切り替えダイヤルがついている。
いつもは、ダイヤル「2」にして中庸の負荷で走るようにしているが、なにかの拍子に「1」になっていたらしい。スピードは出ないものの思いがけない軽い力で自転車が動きだした。
4・5回ペダルをこぎ、ちょっとスピードが出てきたあたりで、右手の変速のスイッチをひねる。
ギア比をいつもの「2」にしてさらに加速する。
ギアチェンジがスムーズに行われたため、いつもよりストレス無く巡航速度に到達した。
澄み切った青空と同じように、空気も透き通っている。
頬にあたる風は、どこからともなく若葉の清涼な香りを運んでくる。
暑くなくも寒くもない風というのは実に気持ちのいいものだ。まるで小さな妖精がやわらかい羽をあおいで送ってくるようななめらかさだけが感じられる不思議な空気の流れだ。
その心地よさに、僕は自転車をこぎながら思わず目を閉じてしまった。
全身で風を味わいたいと思ったのだ。時間にしてほんの数秒である。
その間移動した距離は数メートルのはずなので交通事故に遭うわけもなく、毎日通っている通学路を間違えるはずも無い。
ところが、目を開けて周りを見渡してみると、なぜか見慣れない光景ばかりだった。
道路の右側は、腰の高さまできれいに積まれた玉石の石垣が一直線に伸び、その上には新緑の生垣が丁寧に剪定された姿を誇っている。
左側は、南欧風のクリーム色の壁に黄土色のレンガ屋根の新興住宅が並んでいる。
景色的には、画面を構成する右側の直線と、左側の南方異国的な建築物が五月晴れの青空をバックにまるで有名画家の絵画を見ているようだが、僕の記憶にある街並みの風景とどうしてもマッチしない。




