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第12話  幸せの形




どうにかポートウルフの撃退に成功したふたりに、ロリエッタは、王都へ出かけ、知人に会いにも行くから半月ほど家を空けると告げた。


それは、アルテナとブラントの刻印の儀の準備と、許可をもらう為と、魔獣の活性化について調べる為だったからだ。


「よいか、ふたりとも!後戻りの出来ない刻印の儀を本当にするのか?わしが帰るまでの間、ふたりでしっかりと話をしておけ!」


そう言って、ロリエッタは先ず王都へと出かけて行った―――。



ロリエッタが王都へ向かってから約半月が過ぎ、そろそろ、ロリエッタが用事を済ませ、今日か明日にでも帰ってくる頃だった。


アルテナとブラントは、ロリエッタがいつ帰ってきてもいいように、多くの食材を求め、いつもより少し遠出をしていた―――。


「結構、獲れたなアルテナ!」

「うん、寒いのにごめんね。腰まで濡れちゃったんじゃない?」 


「大丈夫!今日は暖かいし、結構歩いた後だったから逆に気持ちいいくらいだ」


魚を入れた籠を抱えブラントは、誇らしげに湖から岸に上がってきた。


「―――ほら、見てごらん!こんなに大きなのが!!」

「ホントだ!ここ穴場かも!」


大きな魚を得意げに見せるブラントに、アルテナも笑顔をこぼした。


「そうだな!けど、水に瞬間的な強い振動を与えて魚を気絶させて獲るなんて、思いもつかなかったよ」

「実は、これも先生に教えてもらったんだけどね」


「ふ~ん、しかし、おババは何でもよく知ってるよな」

「そうね。これって魚を獲る道具もいらないし簡単なんだけど、川だと流されていちゃうし、湖は浅瀬に大きいの、あまりいないから今までこの方法で獲ったこと無くって」


思わぬ大漁に、ふたりは満足して湖畔を歩く足取りも軽く、楽し気に話をしながら帰路に就いた。


途中、沈みゆく太陽の光に静かな湖面がキラキラ反射しているのを見つけ、ふたりは、その美しい風景に足を止め腰を下ろした―――。



「決めた!」


突然ブラントが、立ち上がった。


「何?!どうしたの急に!」

「刻印の儀、絶対にやってやる!たとえ、父上が許可しなかったとしても」


「嬉しいけどそれは、ダメよ」

「いいや、堅物な父上が許してくれるとも思えない。それに、いずれだなんて言いたくない!オレは、アルテナと……、君と、もっと一緒に互いを高め合う存在になりたいんだ!!」


「何言ってんのよ?!私、『嫌われ者の半魔』よ。魔王様がダメと言ったら、諦めるしかないわ」

「そんなの関係ない!」


ブラントは、強く言い放った。


「いいの?本当に私でいいの?」

「あぁ、他の誰かに言われたからじゃない。オレが決めた!」


夕日を見つめるブラントの真剣な眼差(まなざ)しに、アルテナはそれ以上何も言えなくなってしまった。


黙ったまま、抱えた膝に顔を載せアルテナも夕日を見つめた。


そんな夕日に照らされ、オレンジがかったアルテナの横顔に、いつの間にかブラントは目が離せなくなっていた。


「でも……、本当にそうかしら?」


アルテナはオレンジ色に染まる顔を、いたずらっぽく笑ってみせると、その表情にブラントは一瞬、息をのんだ。


「ど、どう言うことだ?」

「とある『半魔の娘』が『魔王子』に言いました!あなたが私を選んだのではなく、あなたは自分では気付かないうちに、魔法にかかっていて私を選んだ……。そう言うことよ!」


互いに視線を交わすと、どちらからともなく小さく吹き出した。


「ハハッ、何だよそれ?!」

「フフフ」


アルテナの色の違う瞳を見つめたままブラントは、「じゃ、……」と言って、


突然アルテナに顔を近づけ、唇を重ねてきた。


「!!!?」


思いもしなかったブラントの行動に、アルテナは、わけがわからず色んな感情が一気に彼女の頭をめぐりはじめ、ぐるぐると回りだす。


わなわなと体を震わせると、とうとうアルテナの思考回路は完全に停止してしまった。


「今のは、オレが選んだ事……。それとも、今のもオレが気付かないうちに、アルテナの魔法にかかっていたのか?」


恥ずかし気に、指で頬をポリポリかきながら、今度はブラントが、いたずらっぽく笑った。


「そ、そんなわけ……」


と、言いかけたアルテナだったが、黙ったまま優しく見つめるブラントに、


「―――、そんな魔法、知らないわよ!……バカ」


そう言って、視線を泳がせながら、くすぐったそうに笑ったアルテナは、今度は彼女からブラントに顔を近づけ、


ふたりは、もう一度、唇を重ねた―――。


夕闇が迫る湖畔で、重なった二人の影だけが、そこにあるはずのない熱を帯びて揺れている。



湖から戻ったふたりが家に着くと、ロリエッタの方が先に家へ戻っていた。


久しぶりに三人が(そろ)い積もる話しもあったが、ブラントは開口一番に、刻印の儀をすることをロリエッタに告げた。


ロリエッタもまた、ブラントの予想に反して、ふたりの間で刻印の儀をする許可を、魔王グレンに取り付けてきたところだった。


「―――、ほぉ〜!あの湖か?!」

「うん、少し奥に山の方から川が流れ込む所があるじゃん、あそこ!結構、かたまって大きいのがいるよ」


テーブルの上にずらりと並ぶ魚料理。三人は、それらを思い思いに頬張(ほおば)った。


「それは、知らんかった。そう、そう!湖と言えば、わしは、あまり夢を見んのじゃが、昔、美しく広がる湖面に立つ夢を見てな。あれは実に幻想的な夢じゃった!じゃが、朝起きると足元近くに、こ奴がおっての。わしの寝床で寝しょ―――「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!ちょっと!先生っ!!」―――台無しじゃ」


アルテナは、ロリエッタがこの先何を言い出すのかを悟り、大声で言葉を被せた。


「ん?何じゃ、アルテナ。ここから話が面白くなるところじゃったのに」

「先生、その話は、もういいから!話さなくていいから!!」


「?何だよ!よく聞き取れなかった。面白いなら、オレも聞きたいんだが」

「面白さなんて、これっぽちも無いから!聞かなくていい!!」


アルテナは、顔を真っ赤にしてブラントに詰め寄った。


「え~っ、何だったか、気になるじゃないか!聞きたい!!」


面白い!という前振りがあった分、ブラントは、食い下がった。


しかし―――、


「い・い・わ・ね?!」


アルテナは、更にブラントへと詰め寄った。


「あ、あぁ、……はい」


アルテナの迫力に押され、ブラントは、渋々頷いた。


ロリエッタは、片手で頬杖(ほおづえ)をつくと、(たわむ)れるふたりを視界の端で意識しつつ、町で買った酒をちびちびと飲んだ―――。


ロリエッタとアルテナのふたりだった時より、ブラントが加わって一緒に生活をするようになってからの方が、食事の時間が長くなり、少し騒がしくなったのは間違いない。


幸せの形に、正解なんてない。そんなことは、ロリエッタも知っている。


だが、ロリエッタがアルテナのことを思い返す時、いつも想う。


この時のアルテナが、彼女にとって最も幸せだったに違いないと―――、


それは、彼女の母が残した最後の言葉を、アルテナが、あの幼い時の胸に、しっかり刻んでいたのだと知ったからだ。


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