第11話 ひとまずお茶にしたらしい
今回から主人公視点に戻ります
客間のシェルフには様々なデザインのティーセットが一通り置いてある。
恐らく、ヴィオレット辺境伯領産のもの。
こうやって自領の製品を置くことで他領からやってきた人に、ウチの領土はこんなに栄えてるんだよ! こんなに素晴らしい技術があるんだよ! 凄いでしょ! とマウントを取るわけである。
そんなある種の芸術品ではあるが、使っても問題ない。むしろ使っちゃいけないティーセットって何だ……? 溶けるのか……?
ところでこの部屋、キッチンがない。本来備わっているはずの魔法具もない。
まあそれらは私が炎属性魔法使いのため何とかなる。
水差しから水を拝借し、金属製のやかんの中に入れて、人差し指程度の炎で加熱する。
頃合いになったらティーポットに移し替え、常設されているティーパックを入れて待てば完成。流石は異世界、流石は魔法。中々便利だな。
準備の出来たティーポットと、同じく常設されているお茶菓子とミルクやレモンなどをローテーブルに持って行くと、アリス様がぽぉっとした瞳でこちらを見つめていることに気がついた。
「その……素晴らしいですね、殿下の魔法は……。私はまだまだで……」
「いえいえ、まだアリス様は6つでいらっしゃるでしょう?それに私もまだまだですわ」
まあ私も10歳だけどねぇ……。
恐らくだけどアリス様の「素晴らしい」という発言は、“本来攻撃に使うはずの炎魔法を家庭で使える程度に制御できるのが凄い”という意味なのだと思う。
本来お湯を沸騰させるのは備え付けの魔法具でやるのがメジャーだが、私は夜中にこっそり起きてこっそりお茶を飲むために訓練…もとい試行錯誤をし続けた結果出来るようになってしまった。
なんて食欲旺盛なんだ……恥ずかしい……。
まあそんな王女らしくないところをバレたくはないので、適当にはぐらかしておく。王女メッキって剥がれるとそのあとが大変だからな……下手に刺激しない方が得策だよね。
ほかほか淹れ立ての紅茶を差し出すと、アリス様は両手で受け取りふぅふぅと愛らしい仕草で一口。途端に緊張のほぐれたような、愛らしい笑顔を浮かべた。
流石は幼女……可愛いな。
「美味しいです……その、申し訳ございません。私が淹れるべきでしたのに……」
「構いませんわ、気になさらないで下さいませ」
正直お茶淹れる淹れない云々よりも、真夜中に隠し通路使って王女の寝室に侵入してくる方が私は大問題だと思うけどね…。
私も自分の分のティーカップにお茶を注いで一口いただく。……この茶葉美味しいな、買って帰ろう。
「──それでは本題に入りましょうか。それで、こんな夜更けにどうなさったのかしら、アリス様」
私の問いかけに、アリス様がゴクリと唾を飲んだのがわかった。初めは貴族らしく表情を取り繕うのが上手いと思ったけど、案外そうでもない? 年相応…ではないけど。
両手に持ったティーカップをソーサーに戻すと、彼女は真剣な眼差しでこちらを見つめた。
「スカーレット殿下は、日本という国を知っていますか?」
うわ、来ちゃったよ。
もうこんなの確定じゃん。
思わずこめかみをつまんで天を仰ぐ。幼女らしくないのは重々理解しているが、今回ばかりは許して欲しい。
「知ってますよ、ええもちろん。……それで、ここは、なんの世界なんですか?」
異世界に生まれ落ちて約10年。
普通の、何の変哲もないただの異世界であってくれと言う祈りは、アリス様の前で虚しく敗れ去った。
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