第10話 アリス・ヴィオレット視点
今回は主人公視点ではなく、アリス・ヴィオレット側の視点のお話しとなります。
side アリス・ヴィオレット
「アリス? まだ起きてる?」
「もちろんです、お姉様」
小さなノック音と共にひょっこりと顔をのぞかせたのは4つ上の姉、メリッサだった。
自分よりも幾ばかりか濃い色味の髪が彼女の小さな仕草によって揺れ動く。それはよくある仲の良い姉妹のやりとりのように見えた。
──ただ一点を除いては。
「ほら、お姉様。そんなところにずっといたらドレスが汚れてしまいますわ」
「大丈夫よ、これくらい。それに、後は寝るだけだもの」
メリッサが顔をのぞかせていたのは、床からだった。
そう、ヴィオレット辺境伯邸にはそこら中に隠し通路があるのである。
床板は隠し通路の扉が目立たないような模様配置になっているし、その上にはローテーブルが配置してあるため、一見するだけでは隠し通路の存在に気がつかないような作りになっている。
やっぱり無駄なところで技術を使っているわね、とメリッサは笑った。
メリッサがようやく通路から這い出てくる。
掃除しているとはいえ、頻繁に使うものでもなければ通気性も当然良くないので私はあまり好きではない。便利だけど、それはそれ、これはこれなのである。
「普通に来て下されば良かったのに」
「隠し通路があるならば、使った方が良いじゃない。宝の持ち腐れよ!」
それに対して姉の方は頻繁にこの隠し通路を使う。この通路の全貌を知っているのは代々の領主だけだと言われているが、その次に詳しいのはきっとメリッサだろう。
冒険好きなメリッサは、私の知らない通路を使って私達兄弟達を驚かせにくる。道に迷って帰れなくなってしまうかも、と心配しても大丈夫の一点張りだ。
「残念だったわね、直接王女殿下とお話しできなくて。アリス、楽しみにしてたでしょう?」
「本当に……でも、3日くらいは滞在されるでしょう? それまでに治ったら1度くらいはお話しできるかも」
改めて、己の運の悪さを恨めしく思う。
スカーレット殿下が我が家にやってくるとお父様から聞いたのが二週間前の出来事で、それまでずっと楽しみにしていたのに数日前から微熱が続き殿下にうつしてはいけないからと隔離されてしまった。
ブツブツ文句を言っていたら、メリッサには「夜更かしばっかりしてるからよ、自業自得だわ」とじとっとした視線を貰ってしまった。
「殿下、アリスの歌に驚いていたわよ。凄いって褒めてたし。王女殿下に褒められるなんて、とっても名誉なことだわ」
それはたぶん“驚く”の内容が違うと思う──とは、格別仲の良い姉にも流石に言えなかった。
そんなことを言ったら、洗いざらい吐かされて、きっとその上電波ちゃんと思われてしまう。それはどうしても避けたかった。
「(……やっぱり、スカーレット殿下は私と同じなんだ)」
先ほどの反応で、予想は確信へと限りなく近づいた。殿下のあの表情は、驚愕、そして混乱。きっと彼女はこう思ったのだろう。「何故あの子は“国歌”を知っているのだろうか」と。
あとは、一押しだ。上手くいくかはわからない。けれど一縷の望みをかけて行動するしかない。
「ふふー。可哀想なアリスちゃんに朗報です!」
「え……?」
メリッサはまさにこれぞドヤ顔! といったような表情を浮かべて言った。
「スカーレット殿下が泊まっている客室に繋がる隠し通路、見つけちゃった。この通路をね、右に3回、左に2回の後に、もう1回曲がるといけるみたいなの。」
「お姉様……!」
思わずはしっ、とメリッサの手を取ると、「やだぁ、恥ずかしいわ。それよりも早く、殿下寝ちゃうかも。」などと言って隠し通路へと後押しする。やはり持つべきものは冒険好きな姉だ。
「ありがとう、お姉様!私……」
「いーのいーの。あ、でもお父様には内緒ね? 怒られちゃうわ」
「それはもちろん。……行って参ります」
いってらっしゃ~い、と気前よく送り出した姉を後ろ目に私は隠し通路をずんずんと進んでいく。
右に3回、左に2回、最後に右に曲がる。私は手探りのまま、真っ暗な通路を突き進んでいく。
──暫く進んだ先に光が見えた。
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