36 ポンコツ
「〈愚者の矢〉……馬鹿にされてない?」
俺が獲得した新しい【弓術】のアーツ――〈愚者の矢〉について聞くと、シェイラはジト目で呟いた。
「放たれる矢は魔力をまとう。通常より貫通力が上がり、威力も増す……だけど、距離減衰。分かりやすいデメリットだね」
俺は鑑定結果を書き込んでくれた紙を指でなぞる。
【弓術】
▫︎〈空間認知〉
▫︎〈愚者の矢〉
【空間魔法】
▫︎〈収納〉
▫︎〈転送〉
初めての戦闘系アーツかと思ったら、なんだこれは。
貫通力と威力の代わりに近距離戦じゃないとまともにダメージが入らない弓。たしかに特定の条件下であれば悪くないアーツなのだろうが……。
そういえば、〈転送〉もある程度近づかないと魔力消費が激しくなって使えないんだったか。
弓持って接近戦しろと……?
「でもまあ、いいんじゃないかな。使い道によっては強力なアーツだと思うよ」
慰めるように肩をポンポン叩かれる。そして、「それよりも」と真面目な表情で付け加える。
「あとでギルドマスターに呼ばれて話を聞かれると思うよ。気をつけてね」
シェイラの言葉に思わず固まる。なんとも気が重い。
俺とルゥナはただ巻き込まれただけで、依頼のために骨の化け物を倒したわけでも、《華炎》の獲物を横取りしようとしたわけでもない。
面倒なことにならないよう祈るばかりだ。
「トドメ刺したのはザラディンだし、あいつだけでいいんじゃ……」
俺のぼやきに無情にもシェイラが楽しそうに首を横に振る。
「ダメだよー。こういうのはきちんとしとかないといけないからね」
「明日。明日行くさ。ルゥナも疲れてるみたいだし。それよりも新しいアーツを調べたい」
「冒険者ギルドと違って、うちに訓練場はないんだけど?」
呆れ顔のシェイラに手を引かれて連れていかれたのは、店の裏手にある少し狭い場所だった。
使い古された藁人形も置かれている。錬金術師であるシェイラの店にはポーションはもちろんのこと、冒険者の装備一式まで揃っているため、それらを試すためのスペースなのだろう。
「あそこの藁人形は魔法で硬くしてるから自由にしていいよ。あ、私も見てていい?」
シェイラは俺に対してものすごく甘かった。甘すぎて時々、しっかり者の彼女は可哀想なくらいポンコツになる。
了承すると、シェイラは目を輝かせて笑った。
「危ないから下がっといてくれ」
早速、俺は新しい【弓術】のアーツ、〈愚者の矢〉を確かめようと矢筒から一本だけ弓矢を取り出した。
矢をつがえ、弦を引き絞り、藁人形に狙いをつける。
「〈愚者の矢〉」
矢の先が赤い光に包まれ、その光がだんだん強くなったところで、俺は矢を放つ。
破裂するような轟音。赤い光の尾を引いた矢が瞬く間に藁人形へと突き立った。
頭部が吹き飛び、胴体も半分以上が消し飛んでいた。一瞬遅れて風が吹き抜け、砂煙を上げる。
藁人形を貫いた矢は赤く鈍く光ると急速に減速し、乾いた音を立てて地面に落ちた。
加速と減速までがこのアーツの力なのだろう。
「ちょっ! ちょっと! 君! なにしたの!?」
慌てて俺のところに走ってきたシェイラは「大丈夫!?」と言いながら怪我がないかどうか確認してきた。
詰め寄ってくる彼女に、自分でもよく分からなかったので腕を組み曖昧に答える。
「とりあえず、こんな近距離で弓は使うことはめったにないな」
「い、言ってる場合かぁ! 魔法で大抵の攻撃にも耐えれるようにしていた藁人形を貫通するなんて……」
〈愚者の矢〉は魔力を帯びて加速しているらしい。圧倒的なスピードによる貫通力。
矢がその速度に耐えきったことから、矢本体の耐久力もそれに準ずると考えて間違いないだろう。
ペシペシと背中を叩かれながら、矢を拾う。軽く力を入れてみると、少しだけ曲がってしまった。どうやらアーツの効果が切れると強度は元に戻るようだ。
矢が当たった場所は弾け飛んだような痕になっていた。
これが〈愚者の矢〉の効果か。射程が短く、攻撃力も高い。
「……これ、他の人の前で使わない方がいいよ」
シェイラの声が真剣なものに変わる。
「まあ、なんとなく察してる」
「威力もそうだけど……色々とヤバすぎるから。これほどの威力が出せるアーツとなると魔力消費が激しいものが多いけど、その様子だと連発できるみたいだし」
魔力枯渇になっていない俺を見つめながらシェイラはさらに続ける。
「だから、あまり見せびらかさないようにね」
「ああ。まあ射程が短すぎて使い勝手が悪いけどな。……いや、〈転送〉使えば全然使えるアーツなのでは」
「!? そのアーツもだめだから!」




