35 ブチギレ案件
「鑑定してほしい?」
「ああ。シルバーウルフと骨の化け物と戦ったから、新しいアーツを手に入れていると思うんだ」
《華炎》の冒険者にものすごい形相で追いかけられた俺は、なんとか人混みに紛れて逃げ切ることができた。
ルゥナはあいつのことを思い出したくもないらしく、疲れた顔をして宿に帰ってしまったので、一人でシェイラの店に来ていた。今ごろルゥナは昼寝中である。
「それは、まあ、いいんだけど。ギルドにも鑑定できる魔道具なかった?」
いつも通りカウンターの奥に座って、のほほんとしている彼女は疑問を口にする。
まあ確かに。なんの理由もなく突然来るのは変な話だしな。
「ちょっとギルドに頼みづらい事情があってな……」
そう答えて目を逸らす。
俺だってできればちゃんとした場所でやりたいが、あの男に会いたくない。
「ふぅ~ん……。よくわからないけど、詳しくは聞かないよ」
「そうしてくれるとありがたい」
俺の話を聞いてくれた後、シェイラはおもむろに棚から片眼鏡のような形をした物を取り出した。
「これが《看破のモノクル》だよ。これで相手の情報を読み取ってくれるの」
スチャっ、という音を立てて装着してからシェイラはモノクルを俺に向けた。
おお。これは便利そうだな。シェイラは薬草採取やポーション作成の時によく使うらしいが、相手にバレずに鑑定すらできてしまう。
「あ、ちょっと待って。わたしにスキルとアーツ見せちゃって大丈夫?」
「ああ。問題ないぞ」
別に隠すようなスキルもアーツもないんだよな。シェイラは紙とペンを取り出し、少し上ずった声で「じゃあいくよ」と言ってから俺を見つめてきた。
「えっと……なにこれ……。アーツはこれまでの戦闘経験から習得するんじゃなかった……?」
呆れたように青い瞳を細め、ペンでサラサラと書き込む。いや、なにがあったらこんな反応になるんだ。
そんな困惑している彼女に説明するため、簡単にだが骨の魔物との戦いを話して聞かせる。
「へぇー、そんなことがあったんだ。それでアーツを獲得しただろうと……うん、もういいかな」
シェイラはモノクルを外した。どうやら俺の話を疑うことなく信じてくれたようだ。やっぱり持つべきものは友人だな。
俺の説明を最後まで聞き、シェイラは難しい顔を浮かべながら口を開く。
「えっとね、色々とツッコミたいところがあるんだけど、まずはキミの言う骨の魔物が……シルバーウルフキングがアンデット化した魔物だってことは知ってる?」
「なにそれ」
シルバーウルフ。大きな群れの一つが崩壊し、それによって森の生態系が急変したのは知っている。
だが、シルバーウルフキングがアンデット化したという話は知らなかった。他の魔物かなにかに殺されて、群れが散り散りになり、そのあとアンデット化した?
「もしかして、俺が戦った骨の魔物ってのは……」
俺の質問を聞いたシェイラは大きな溜め息をついた。なんかすまん。
「もしかしなくてもそうだよ……! ザラディンさんも《血濡れ鎧》のリーダーだし」
《血濡れ鎧》、《華炎》……。
「運悪くシルバーウルフキングに遭遇したザラディンさんが足止めしている間に、他の冒険者がギルドに報告。《華炎》含む討伐隊が組まれたけど、すでに討伐済みだったの」
な、なるほど。
「それで後になって、ザラディンさんがその場に居合わせた二人の冒険者と討伐したって報告したから大騒ぎさ」
シェイラはやれやれ、といった風に肩をすくめる。俺は乾いた笑い声を出すしかなかった。
討伐に出かける前の《華炎》ライラックとの会話。
『討伐、成功するように祈っています』
これは、……やらかしたな。




