34 血濡れ鎧
「ハァ……ッ? 討伐されていた、だと……?」
アイツが例のB級パーティー《華炎》のリーダーか……。
冒険者の階級評価には人格面も考慮されているはずだが、あんな奴がB級とはな。
全ての冒険者ギルドが全く同じ審査基準を設けているわけではないが、少なくとも俺たちよりも弱そうに見える。
報告を受けた途端に顔を真っ赤にして怒り狂うライラックを、仲間たちは宥めようと必死になっていた。
「おい、どうなってるんだ!? 誰がやった? B級の連中か?」
「ひいっ!? は、はい……。先程、ギルドからの報告がありまして、調査に向かった冒険者たちが討伐したとしか……」
これほど怒るのも無理はないか。
わざわざ遠くから召集され、討伐隊を率いて向かったものの……、討伐対象が見つからずにそのまま帰ってきたというのだ。
メンツも丸つぶれにされたようなものである。
「ザラディンさんが倒したと知ったら確実にブチ切れますね」
副リーダーのヨシュアが苦笑いを浮かべる。
「倒したのは俺じゃない。リエルとルゥナだ」
「は? 黒髪の男と、あのバケモノですか?」
「あぁ。事実確認が終わったら、ギルドマスターに呼び出されるだろうな」
エールを飲み干し、追加注文をする。
調査に向かった冒険者パーティーを聞き出している《華炎》のリーダーを眺めながら、ため息をつく。
調査依頼を受けた冒険者パーティーを率いたのが《血濡れ鎧》だと知り、こちらに絡んでくるのも、もはや時間の問題であった。
「メンドくさそうですね、アイツ。絡まれたらどうするんですか?」
「その時はリエルとルゥナが倒したと正直に答える」
「面倒そうなこと全部押し付けますね……」
「なに言ってんだ。戦闘狂のルゥナも大喜びだろうよ」
「――――オイ、そこのお前」
予想通りだ。こちらに向かって歩いてくるライラックを見て、ヨシュアがため息を吐く。
ライラックは俺の前に立つと腕を組み、鋭い眼光で睨みつけてきた。
「お前が《血濡れ鎧》のリーダーか?」
「そうだ」
「貴様らが、調査依頼を引き受けたのか?」
ライラックは眉間にシワを寄せ、睨みつけてくる。その瞳の奥には隠しきれないほどの敵意が滲んでいた。
「そうだが、それがどうかしたか?」
「ふざけんじゃねえぞ! 俺たちを騙してタダ働きさせた挙げ句、獲物まで横取りしやがって!」
「テメーらがチンタラしてたからじゃねえか? 俺たちはお前らの尻拭いをしてやっただけだ」
「なんだと……ッ!?」
「文句があるなら冒険者ギルドに言えよ。そっちの方が手っ取り早いぜ」
「この野郎……」
ライラックの顔がさらに険しくなっていく。俺は肩をすくめてエールを一気に飲み干す。もうすぐ夕方だが、まだ酒場は賑わっている。
「やめてください! ギルド内で暴力沙汰を起こすのは厳禁です」
ライラックの仲間の一人が慌てて止めに入るが、ライラックは構わず拳を振り上げた。しかし、振り下ろされる前に仲間に掴まれてしまう。
「お願いします……。落ち着いてください、ライラックさん」
よくもまあ見捨てられることなく、ここまでついて来られたものだな。コイツらは相当なお人好しなのか、それとも何か事情でもあるのか……。
「うるせえ! 離せよ、クソがッ!」
「暴れないで……っ。これ以上問題を起こせば降格処分になるかもしれないのよ!?」
「知るかよッ! 俺はこんなところで終わるわけにはいかねぇんだよ……ッ!」
ライラックは叫び声を上げ、無理やり拘束から逃れようとする。そんな様子を眺めていると、不意に視界の端に見覚えのある人物が映った。
「……あ?」
思わず目を細める。そこには、恐る恐る扉越しに様子を伺うリエルとルゥナがいた。
リエルはライラックと俺を順番に見て、可哀想だなと言わんばかりに曖昧な笑みをこちらに向ける。
いや、お前も元凶の一人だからな?
ルゥナに至ってはいつものように微笑んで手を振ってくる始末。
「おい、ライラック」
「ああ!?」
「俺たちは別に、何もしていない。ただ、調査依頼を受けただけで、倒したのはそこの二人だ」
リエルとルゥナを指差すと、ライラックはゆっくりと振り返り、二人の姿を目にした途端に動きを止める。
騒ぎをそっと眺めていた周りの冒険者たちも黙り込む。
先程までの喧騒が嘘のような静寂に包まれているなか、ルゥナの手を引いたリエルは綺麗に回れ右をして走り出した。




