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33 華炎

 

「うわぁああああ! リエルさん! 無事だったんですねぇえ!」


 シェイラの店を出て、ついでに骨の魔物の情報を調べるためにギルドへ寄ると聞き覚えのある声と共になにかが突進してきた。


 俺より少し前を歩いていたルゥナが片足を軸にクルンと一回転、



「う゛ッ!?」



 ルゥナと違い突然のことに反応できなかった俺は衝突し、背中から床へと倒れ込んだ。


 ……痛ぇ。


「よかったですぅ。心配したんですよぉ」


 声の主はミサだった。


 確かにシルバーウルフの群れに襲われてそのまま別れてしまったのだから、心配されるのも無理はないのだが……重い。


「おい、どいてくれ」


「はいぃ。すみません」


 謝りながらも、ミサはすぐに退こうとはしなかった。腰が抜けたらしい。


「リエル先輩、ルゥナ先輩! ご無事でなによりです!」


 続けて後ろから駆け寄ってきたのはクレアだった。彼女はルゥナを見つけるなり、嬉々として抱きつく。おい、お前の弟をなんとかしてくれ。


「お久しぶりですねっ。会いたかったです」


「うん。私も」


 仕方なく引き剥がしてミサを立たせてあげる。犬みたいだなこいつ。


 だいぶと悪目立ちしてしまったようで、他の冒険者たちからの視線を感じる。俺たちはギルドに併設された酒場の隅っこに移動することにした。



「ごめんなさい。私たちのせいで危険な目に遭わせてしまって……」


 席につくなり、クレアが申し訳なさそうに頭を下げた。


「気にするな。結果的に全員無事に帰ってこれたんだしな」


「ん。楽しかったから問題ない」


「はいっ! もっと私たちが強くなったらまた一緒に行きましょう!」


「そうだな」


 まあ、次はちゃんと準備してからにしよう。……森の奥に骨の魔物が出現することなんて知らなかったわけだし。


 今回の依頼は、たまたま俺とルゥナが受けたものだ。もし俺だけだったなら、きっと今頃死んでいただろう。改めて実感する。


 まあ、それはさておき。まずは情報共有からだな。


「それで、なにかあったんだろ?」


「はい……。実は――」


 ミサが俺の問いに答えようとしたところで、ギルドの入り口から歓声が上がった。有名人でも来たのか?


 そう思って入り口の方を見ると――


「よう。みんな揃ってるじゃないか」


 片手を上げながら入ってきたのは、サラサラとした長髪のイケメンだった。後ろからパーティメンバーらしき女性が三人入ってくる。


「C級パーティーの《血濡れ鎧》を中心とした調査団が帰ってきたので、討伐隊が組まれるそうです」


 俺の疑問に答えるようにクレアが説明してくれた。


「遠い街から討伐隊を率いるために招集されたのが彼ら、B級パーティー《華炎》です」


「ふーん……」


 ルゥナは横目で彼らを見つめながら疲れた声で相槌を打ち、隠れるように俺の近くにイスを寄せる。


「どうした? そんなに嫌そうな顔をして」


「別に。ただ、あの人苦手」


 なんとなく気持ちはわかるけどな。


 女性三人は笑顔で討伐のために集まった冒険者に対応しているが、男は傲慢な態度を隠すこともなく、腕を組んで堂々と歩いていた。


 その顔に浮かぶ表情には親しみやすさはなく、周りを見下すような冷めた雰囲気を放っている。


 確かに。あんまり好感が持てる奴じゃないな。


「《華炎》……。前に見かけた時は四人パーティーじゃなかった」


 ルゥナが小声で呟いた言葉にクレアも頷く。


「そのようですね。確か六人《華炎》のメンバーがいると聞いていましたが、どうやら怪我をしているのか今日は来ていないみたいです」


 俺からすればB級と聞いてもピンとこないが、かなりの実力の持ち主なはずだ。メンバーが揃っていないのは確かに不安要素ではあるが。


「そうだったんですね。……六人ですか」


「どうしたんだ、そんな顔して」


 気になった俺が尋ねるとミサは慌てて笑顔を取り繕う。でももう遅いぞそれは。


「あっ。いえ、さっきギルド内で聞こえた信憑性がないただの噂話なんですけど、《華炎》はC級降格間近だそうで……」


 ミサの言葉を聞いて俺たちは顔を見合わせた後、もう一度視線を彼らに戻すと。丁度目が合ったような気がしたが気のせいだと思いたい。


「……。ま、まあ噂話は噂話ですからっ!」


 聞こえていたのか、偶然なのか。受付まで向かう途中で中央にいたリーダーらしい男が俺たちの方を不意に見る。


「なあ、アンタら見たところDかE級だろ? どっか他の街でも行きな。今は依頼なんて受けれる状況じゃねえよ」


「ちょっと、ライラック!」


 俺たちに絡んできた男にパーティメンバーは怒ったような表情をしている。しかし、本人は全く悪びれる様子もないようだ。


 確かに彼の言うとおりだと言えるかもしれない。ギルドからは森の異常事態の調査が終わり、本格的に危険区域と認定したと連絡があったばかりらしいのだ。


 そんな状況で討伐の依頼を受ける奴なんてそうそういないが、危ない真似をしないように釘を刺してくれたのだろうか。会話が聞こえていたのではなく、冒険者として経験が浅そうだった俺たちが目に入ったから近づいただけのようだ。


 俺が適当に返事を考えていると、言葉を無視されたことで気を悪くすることなく再び視線を逸らした。


「じゃあな。ガキども」


 ルゥナもクレアもかなり不機嫌な様子だったが特に反応することなく男は歩き出し、そのまま受付へと向かった。


「ご忠告ありがとう。邪魔にならないように帰ることにするよ。討伐、成功するように祈っています」


 俺が笑顔で礼を述べると振り返った男もニヤリと笑みを見せた。だがそれも一瞬で、尊大な態度に戻る。視線を戻すと何事もなかったかのようにそのまま受付の列に並んでいった。


 悪いやつではなさそうだが、その振る舞い方としてはチグハグな印象を受ける。ただの虚勢なのか、余裕からくるものなのか。


 そのまま受付の列に並ぶ男の背中を眺めていると不意にルゥナが俺の腕を小突いてきた。


「帰ろっか」


「……そうですね。森が安全になるまで依頼を受けるつもりはないので」


 大きなため息を漏らしたミサが同意する。


 俺も少し疲れてしまったので、今日はもう帰ることにする。討伐隊はもう夕方に差し掛かろうとしている頃なので、今から森へ出発するらしい。


 調査から逃げ帰ってきた一部の冒険者の報告から迅速な対応が取られていることになる。


 いい知らせを期待しながら俺たちはギルドから出た。



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