32 世界一理不尽な振られ方
「え……と……。どういう、意味?」
「そのままの意味。私とりーちゃんは、一緒に寝た」
「いや、う、嘘だ」
動揺しているせいか、いつも冷静なシェイラにしては珍しく言葉が詰まっていた。
……なんだこの修羅場みたいな空気は。俺が何か悪いことをしたみたいじゃないか。
「誤解だよ。パーティーを組んで依頼を受けたんだ。野宿はしたが、手は出してない」
「え、あ。やっぱり? そうだよね、うん……。ごめんね、変なこと言って」
シェイラは安堵のため息を漏らすと、いつものように余裕そうな笑みを浮かべる。
「? 宿でも一緒に寝たよ?」
しかし、それをぶち壊すようにルゥナが追い打ちをかけた。
「ちょ、おまっ……。あれはお前が勝手に潜り込んできただけだろ」
「……へぇ〜」
シェイラの視線の温度が一気に下がった気がした。まるで信じていないような目つきである。
「いや、待ってくれ。ほんとに何もなかったから」
慌てて弁明すると、キュッと唇を結んでいたシェイラは目元に涙を浮かべ、プルプルと震えだした。
…………これは、あれだ。笑いをこらえきれない時のいつもの顔である。
「ぷふっ、あはははっ、冗談だよ。仲が良さそうで何よりだね」
小さく吹き出して、ころころと笑う。
あー、またやられた。どこからが演技だったのかすら検討がつかない。
「ヘタレな君が、女の子に手を出すなんて思わないよ。ふふっ、そんなに私に勘違いされたのが嫌だったのかな?」
……ったく、勘弁してくれ。
悪戯っぽくウィンクをするシェイラを見て、俺はため息をついた。本当にこいつはいつもブレないなぁ。
だが、やられっぱなしというのも気に食わない。
「演技にしては、だいぶ取り乱してたよな」
「そう? 気のせいだよ」
俺が反撃に出ると、彼女は気まずそうに目を逸らしながら白々しく答える。
「顔赤い。具合悪い?」
ルゥナはシェイラのおでこに手を伸ばした。そして、ピタッと当てると、不思議そうな顔をする。
「ひゃわぁ!?」
シェイラの口から聞いたことのない素っ頓狂な悲鳴が漏れた。
ルゥナの手が触れたところを押さえて、耳まで真っ赤になっている。
「熱い。やっぱり風邪?」
「い、いや。そんなことないって。あはは……」
シェイラは恥ずかしさを誤魔化すためか、手でパタパタと仰いでいた。……珍しいな。シェイラでもこんな反応をすることがあるのか。
まあ、でも1年くらいの付き合いである。俺も友人から急に恋人を紹介されたとしたら、同じように動揺してしまうかもしれない。
「りーちゃん。部屋借りる。看病する」
ルゥナが無表情のままグッと親指を立てると、シェイラは目を丸くしていた。
「えっ、い、いいよっ! 大丈夫だからっ!」
「だめ。病人は大人しく言うこと聞くべき」
「ほ、ほんとに平気だってばっ! ちょっと、助けてっ!!」
「仲良いなぁ」
イチャコラする戦闘狂をどう止めようか。俺が呑気にそんなことを考えていると。
まだ少しだけ頬が染まっているシェイラは、抗議するようにジト目を向けてくる。
◇
まだ、顔が熱かった。……まさか、あんな不意打ちを食らうとは。
彼のうさんくさい笑顔を思い出しながら、自分の額に触れた。
「……あんなこと、いいやがって」
ボソッと呟いた言葉は、誰の耳に届くこともなく消えていく。あの時は動揺していて気付かなかったが、今思い返すと非常にムカつく。
あんなテキトーな言葉を本気にするわけがない。今までも、そうだった。
きっと、冗談か何かに決まっている。短い付き合いではあるが、そういう男なのだ。
「ッ……。なんで、アイツなんかのこと……」
なのに――どうして、こんなにも心がざわついているんだろう。
考えれば考えるほど分からなくなってきて、頭の中で思考がぐちゃぐちゃになる。
思い返すだけで胸の鼓動が激しくなる。……特別な感情を抱いているわけではないはずなのに。
この気持ちは、一体何なのか。自分でもよくわからなかった。
「ギルドへの報告は、……まだいいか」
ダメだ。今日は調子が悪いらしい。早く寝てしまおう。
まるで物語の主人公のように颯爽と助けてくれた弓使いの男。
『お前の顔が見たくてな』
うさんくさい笑みを浮かべる彼を思い出す度に、“俺”の心臓が強く脈打った。C級に至ってなお、ここまで動揺するのは初めてだ。
俺を守るために、弓使いがあんな無茶を……。やはり、俺に気があるんじゃ!?
そう思うと、ますます顔が赤くなっていく。
「……ありえない」
あり得ない。絶対にあり得る訳がないのだ。
しかし、その否定の言葉とは裏腹に、心臓の音は鳴り止まなかった。
「悪いな、リエル。俺はその気持ちに応えることはできない……」
恋愛要素はザラディンで中和……。




