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30 しゃどーぼくしんぐ

 

「――――リエル。リエル、リエル……っ!」


 頬を赤く染めたルゥナが、うわ言のように俺の名前を呼ぶ。


 理解が追いつかないうちに、視界がぐるりと反転して、背中から地面の硬い感触が伝わってきた。


「いや、女の子だったんだし。りーちゃん、だね」


 馬乗りになったルゥナが、俺の着ている黒のワンピースに手をかけて微笑む。


 やばい。油断した、というか忘れていた。――シェイラの私服を借りていたんだった。


「あー、あのな、とりあえず落ち着いてくれ!」


 いつも冷静であまり感情を見せないルゥナが、ここまで感情を露わにするとは思っていなくて。


 どうにかこの状況から抜け出そうとするが、力が入りにくい体勢のせいでうまくいかない。



 いやいや、一度冷静になれ、俺。



 たしかにルゥナに馬乗りされて襲われているような構図だが、俺は女の子だと思われている。


 おそらく、女性冒険者が少ないから単純に嬉しいだけで、だからこれは、そういうことじゃないはずだ。


「ふふ、りーちゃん、かわいい」


 潤んだ金色の瞳をスッと細めて、ルゥナが顔を近づけてくる。髪がさらりと揺れて、甘い匂いが流れ込んできた。


 もしかして、女の子もいける感じ……!?


「ルゥナ。俺は男だ」


 真面目な表情を作って制止するが聞こえていないようだ。まるで壊れ物を扱うかのように、優しく指先を絡められる。


 思考を巡らせていたせいで反応が遅れた。ダメだ。なんか、思考がまとまらない。


「格上相手に、もがいて、もがいて。かわいい」


 な、なんか流れが変わった?


「そうだよね。りーちゃんもやっぱり、同じなんだ」


 え、え?


「戦うことが好き」


 ルゥナは「しゅっ、しゅっ」とシャドーボクシングをするように小さく拳を振る。


 言葉の意味をやっと理解する。ルゥナは俺のことを戦闘狂だと勘違いしているんだ。


「いや、俺は別に戦闘狂とかじゃ……」


「私と同じ、だね」


「同じ?」


 思わず聞き返すと、ルゥナの口元が小さく弧を描いた。


 その表情は、なんというか、艶っぽくて、大人びていて、それでいて無邪気さがあって。


 ルゥナがゆっくりと口を開く。


「ん。戦ってるときが一番楽しいよね」



 …………あれ、これ、違う。ルゥナちゃん、戦闘狂ちゃんだったのかぁ……。



 だが、さっきより状況は好転した? 少なくとも、ルゥナの意識は戦いに向けられているようだし。


 そう思って身体から力を抜いていたら、ルゥナがさらに身体を密着させてきた。


 ねえ、なんでさっきよりもグイグイ来てんの!?


「りーちゃんも女の子だったなんて。こんなに同じ子は初めて。二回も助けられちゃったし、本当にかわいい」


 流れるような動きで結っていた髪を解くと、肩先まで伸びた夜空のような紫の髪がふわりと舞い上がった。


 ゆっくりと、俺の視界を奪うように垂れ下がってくる髪を片手で押さえながら、 ルゥナの顔が近づいてくる。


「だから、もっと一緒に遊ぼう。もっと一緒に……」


「いや、だから俺は」


 顔が近くにあって、熱い吐息が耳にかかる。柔らかな感触と、甘い匂い。


「大丈夫。痛くしないから」


「何が!?」


 唇が触れ合いそうな距離まで近づいたところで、ルゥナの身体がゴツゴツとした手によって無造作に持ち上げられる。


「なあ、おい。何やってんだよ」


 呆れたような表情でザラディンが俺たちを見下ろしていた。


「りーちゃんと仲良くしてただけ」


「その呼び方やめてくれない?」


 起き上がって服についた土埃を払い、穴を開けられたローブを素早く着込む。ザラディンになにもツッコまれないので、うまく誤魔化せたらしい。


 つまみ上げられたルゥナはというと、器用に身体を捻らせてザラディンを蹴飛ばし、反動を利用して抜け出していた。


 C級の冒険者に蹴られたのにビクともしないあたり、さすが同じくC級の冒険者である。


 骨の化け物との戦闘よりも、こっちの方がよっぽど疲れた気がする。そんな俺の様子を知ってか知らずか、ザラディンはため息まじりに「街に帰るぞ」と呟いた。


「まだ遊び足りない」


「もう十分だろ。ほら、行くぞ」


 背中を向けてさっさと歩き出したザラディンを見ながらルゥナが不服そうに頬を膨らませる。


 仲間のもとに向かって再び合流するのだろう。


 俺たちもそろそろ行かないと。



 薄くなってきた霧の中、やたらとベタベタ密着してくる戦闘狂ちゃんと街に向かって進む。


 気分は猛獣のお散歩である。


「あのな、ルゥナ。ちょっと近いんだが……」


「気にしないで」


 このやり取りも五回目である。俺は考えることを放棄した。


 帰ったら飯を食って、暖かい布団で安らかに眠ることができて。戦闘狂も魔物もいない場所で。面倒ごとも起こらなくて。


 安全で快適な街へと思いを馳せていた時、頭の中に、いたずらが成功した子どものような表情をしたシェイラが浮かぶ。


 ほんと勘弁してくれ…………。



戦闘狂が なかまに くわわった!




第2章完!


連載前からやりたいと思っていたくだらないオチを書いていたので、まだまだ勘違い要素が少なめですが3章から頑張ります。めいびー。

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