表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/38

23 友だち

 

「霧が出てきたな……」


 洞穴の入り口に立ち、外の様子を窺う。


 先ほどまでは、木々の間から差し込む光によって、森の中でも視界を確保できていたが、今は、ほとんど何も見えない。


 いつの間にか、濃密な霧が辺りを覆いつくし、視界を塞いでいる。まるで、森の中に雲がかかったかのようだ。


 まだ日が出ている時間帯なのに、肌寒さを感じて、身震いする。


「あっ、リエルさん。どうしますか。霧が晴れる様子はないです」


 俺とルゥナが仮眠をとっている間に、見張りをやってくれていたミサが、トテトテと駆け寄ってきた。


 少し遅れて、拗ねた表情をしたクレアも近づいてくる。いや、本当にごめん。


「霧が出始めたのは、少し前からですね。山なので、よくあることですが、ここまで濃いのは初めて見ました」


 ミサが顎に手を当てて、真剣な顔つきで言う。


 霧の中での戦闘には慣れていない。かなり難易度が上がるだろう。


 アサシン・シルバーウルフのように、気配遮断系のスキルを持っている魔物は当然だが、それ以外の魔物も、視界が悪くなると奇襲の危険性が高まる。


 これでは、夜と同じだ。仮眠はとらないで、さっさと出発するべきだったか?


 ……いや、ルゥナの体調も万全ではなかったし、仕方ないか。


「このままだと、視界が悪くなる一方だが」


 言葉を区切り、俺は、洞穴の中に視線を向ける。


 中からは、ルゥナの穏やかな寝息が聞こえてくるだけで、何の反応もない。ぐっすりと眠っているようだ。


 かなり疲れていたみたいだし、もうちょっとだけ、そっとしておこう。


「霧が晴れるまで、もう少し待つか」



「――いや、雑魚はさっさと、この森を出て行くんだな」



 突然、腹の底に響き渡るような、低い声が響く。反射的に後ろに跳び、弓を構える。


 霧の中から現れたのは、大柄な冒険者らしき集団だった。


 人数は五人で、全員が男。鍛え上げられた巨体の持ち主で、傷だらけの頑丈そうなハーフプレートアーマーを身に着けている。


 腰に差している剣や斧などの武器にも、使い込まれた跡が見て取れた。


 この男たちは、間違いなく冒険者だ。それも、かなりの熟練の部類に入る。


「おいおい、雑魚のくせに、随分と威勢がいいじゃねえか」


 先頭にいる男が、ニヤリと笑みを浮かべる。その瞳の奥に宿る凶暴性に、背筋が凍りついた。


 空気が張り詰め、重くなる。


 ミサとクレアも、緊張した面持ちで臨戦態勢に入り、俺の隣でいつでも動けるように構えていた。


 冒険者は、気性が荒い人間が多い。特に高階級の冒険者になれば、その傾向は色濃くなっていく。


 目の前の冒険者たちは、その中でも飛び抜けて危険な雰囲気を放っていた。一般人であれば失神してしまっても、おかしくないだろう。


「……何の用だ?」


 質問に対して答えず、先頭にいた男は、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。


 一歩進むごとに圧力が増していく。


 腰には剣を携え、背中に巨大な戦斧を背負っている。おそらく、こいつがパーティーリーダーなのだろう。


 他の四人よりも、一回り以上大きい体格、そして装備している鎧の質の良さからも、強者のオーラを感じる。


「俺はC級冒険者、ザラディン。お前らみたいな弱っちい奴らに構っている暇はない。さっさと帰ってくれや」


 ザラディンと名乗った男の口角が吊り上がり、鋭い犬歯が覗く。


「ここは、お前らみたいなガキが来るところじゃねえ。霧もこれから濃くなる。死にたくなかったらな」


 吐き捨てるようにそう言うと、面倒くさそうに手をヒラヒラと振った。


 何をされるかと警戒したが……忠告か。正直、拍子抜けである。


 悪い人では、なさそうだけど。


 気圧された二人は、姉弟揃って、プルプル震えながら俯いて、俺のローブの裾をぎゅっと掴んでくる。


 うちの子が今にも泣き出しそうだから、さっさと帰ってくれないかなあ。


「忠告ありがとう。でも、こっちには仲間がいるから大丈夫だ」


 軽く会釈をして、素直に感謝の言葉を口にすると、ザラディンが不機嫌そうに鼻を鳴らす。


 俺たちを値踏みするように眺めた。


「仲間だと? ふんっ、こんな小娘と、冴えないガキがか? 悪いことは言わねえ、大人しく帰れ」




「……ん。私も、居る」




 洞穴から、小さく欠伸をしながら、ルゥナがゆらりと顔を出す。


 消え入りそうな小さな声だったが、鈴を転がしたような可愛らしい声は、場違いで、よく響いた。


 一瞬にして、空気が変わる。ザラディンは目を見開き、固まっていた。


「ルゥナ、起きたのか。体調はどうだ?」


「うん。おはよ……。まだ少しだけ身体が重いけど、だいじょぶ」


 トロンとした眠たげな目をこすり、ルゥナはのっそりと洞穴から出てきた。


 寝起きで頭が回っていないせいか、いつも以上に幼く見える。


 ミサとクレアが駆け寄り、安心したような笑顔を浮かべた。


「ルゥナさん、おはようございます」


「ルゥナ先輩! お元気そうで良かったです!」


「ん、ありがと」


 二人の言葉に嬉しそうに微笑むルゥナ。


「テメェは……ッ!」


 我に返った取り巻きの一人が、顔を真っ赤に染めて、怒りの形相で睨みつけてくるが、当の本人は片目をつぶって、ふぁーと可愛らしいあくびをする。


 緊張感のないその姿に、残りの取り巻き三人も殺気立つ。剣の柄に手をかけている者もいる。


 肌を刺すような緊張感。完全に敵意を向けられていた。


 今にも襲い掛かってくるのではないかと思うほどに、彼らの殺意は爆発的に膨れ上がっていく。


 これはまずいな。どうにかしないと。このままでは、本当に戦闘になりかねない。


「――――やめとけ、馬鹿が」


 怒気が混じった静かな声で、ザラディンが呟く。


 後ろにいる仲間をギロリと睨みつける。身震いしそうになるほどの強烈な覇気が放たれた。


 途端に、四人全員が凍りついたように動かなくなる。呼吸すら忘れてしまったかのように、微かに肩が上下するだけで、微動だにしない。


「……えーっと、知り合いなのか?」


 知り合い、明らかに向こうは良い感情を持っていないようだが。ルゥナは言葉足らずだし、なにかトラブルに巻き込まれたことがあるのだろう。


 ルゥナは、やっとザラディン達に視線を向けて、少しだけ嬉しそうに口を開く。



「ん、友だち」



 それはそれは、一方的で、理不尽すぎる、友だち認定だった。



次はザラディン視点です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ