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22 三人で一緒に……

 

「あ、おはようございます。リエル先輩」


 水色髪を揺らしながら、洞穴からひょっこり顔を覗かせたのは、クレアだった。


 昨日とは打って変わって、元気そうな表情をしている。


「おはよう。もう起きて大丈夫なのか?」


 朝食を作るために、焚き火の前で座っていた俺は、ゆっくりと視線を持ち上げる。


「はい! おかげさまで、すっかり良くなりました!」


 ぴょんっとその場で軽くジャンプをする。笑顔を浮かべるクレアの顔色は良い。


 一晩ぐっすり寝たことで体調が良くなったのだろう。


「そうか、良かったよ」


 俺は安堵の息を漏らし、軽く手を挙げて応える。隣では、ルゥナが小さく欠伸をしていた。


 俺が眠ってしまった後、ずっと見張りをしてくれていたらしい。


 まだ眠たそうに、トロンとした目を擦って、俺の腕にしがみついてくる。そんなルゥナの頭を撫でると、彼女は気持ち良さそうに頬を緩めた。


「んぅっ……」


 なんだよ、この可愛い生き物。


 昨日の戦いの時のような鋭い視線は、今はどこにもない。年相応の女の子といった感じだ。


 完全に安心しきっているのか、無防備すぎる。


 まぁ、それだけ信頼されているということなんだろうか。


 なんだか少しだけ、むず痒い――痛たたたたッ!?


 腕が折れる。力が、C級冒険者の力が強すぎる……! なんか、ミシミシ言っているんですけど。


「えーっと、あの……」


 表情に出さずに、痛みに耐えていると、クレアは言いづらそうに口をモゴモゴとさせる。


「そのー、なんですか、この雰囲気は?」


 そう言うと、気まずそうに視線を逸らして、続ける。


「距離感というかですね。ルゥナさんが甘えたりとか、恋人じゃないって言い張るのは、ちょっと無理があるんじゃ……」


 恋愛に興味がある年頃だからか、楽しそうに目を輝かせるクレアに、俺は呆れながら口を開く。


「だから、別にそういう関係ではない」


 確かに、傍から見れば、誤解されてもおかしくないかもしれないが。


 腕が折れそうなこの状況は、クレアが思っているような甘酸っぱいものじゃない。


「そ、そうですよね。何度もすみません。……でも、今もぴったりと、くっついていますし、勘違いしても仕方がないかなと思いまして」


 苦笑いしながらクレアが、ちらりとルゥナに目を向ける。


「……私はただ、リエルと一緒にいるだけ、だよ?」


 ルゥナが、こてんっと首を傾げながら、不思議そうに俺を見上げてくる。


 こういうことに疎いルゥナには、いまいち分かっていないようだ。相変わらずの天然っぷりである。


「そうか、そうか。とりあえず、腕が折れそうだから……」


「ん。ごめんなさい」


 力が弱まる。


 だが、腕から離れる気配はない。ルゥナがギュッとしがみつきながら、身体を寄せてきた。


 そのまま肩に、頭を乗せてくる。


 ふわりと香ってくる甘い匂い。サラサラとした柔らかい髪が首筋に当たって、少しだけくすぐったい。


 恥ずかしいから、やめて欲しいのだが。


「おぉ……。朝から刺激が強いですね」


 微笑ましそうに見つめるクレアに構わず、ルゥナは耳元で囁いてくる。


「こうしていると、落ち着く。温かい」


 そのまま、気持ちよさそうに、また欠伸をする。


「大丈夫か? ここを出発する前に、仮眠をとっておいた方がいいんじゃないか」


「ん。そうする。ここで寝る」


「いや、向こうで寝てくれ」


 クレアはそんな俺たちを眺めて、不思議そうな顔をする。


「昨日は眠れなかったのですか? わたしよりも、早起きでしたし」



「激しく動いたから。すごく興奮、した。それで疲れて」



 はい、終わった。終了。


「えぇっと……」


 クレアの微笑みがピシリと固まり、顔を引きつらせる。もう、どうにでもしてくれ。


 全てを諦めて、受け入れた俺は、虚空をぼんやりと見上げる。


 そうだな。確かに激しく動いていたよな。だって、一瞬でアサシン・シルバーウルフを捕まえたのだから。


 ワイヤーを使った簡易的なトラップだったが、それでも、あのスピードを捉えることは容易ではなかったはずだ。


 長期戦になれば、どこかのタイミングで逃げられていただろう。


 多少、足に負担がかかっても、ルゥナはすぐに決着をつける必要があったのだ。


 だが、C級冒険者と言えど、生身の人間。


 肉体を強化された冒険者たちの戦いというのは、言ってみれば、エネルギーを勢いよく消費しながら戦うようなものだ。


 疲れも溜まれば、当然、回復のために食事と睡眠が必要となる。


 つまり、ルゥナの言っていることは間違っていない。


 間違ってはいないのだが、言い方ってものがあると思うんだ。俺がルゥナを襲ったみたいじゃないか。



 無言のまま天を仰いで、思考をあさっての方向に飛ばしている俺に、クレアの視線が突き刺さる。


 彼女は、困ったように眉根を下げていた。


「……あははっ、そうだったんですね。うん、わかりました! じゃあ、邪魔者は退散しますので、どうぞ、ゆっくり休んでください!」


 覇気がない乾いた笑みを浮かべると、クレアは気まずそうに頬を掻いて、「失礼しました」と呟き、立ち去ろうとする。


「待て。ルゥナが言っているのは、見張り中に遭遇したアサシン・シルバーウルフのことだ。誓って、そういうことはやっていない」


「え?」


 クレアが目を丸くして振り向く。俺の顔をまじまじと見つめた後、自分を納得させるように、何度も頷いた。


「いやー、そうですよね。わかっていたんですけど、ちょっとだけ、びっくりしちゃいました。……なんだか、すみません」


 苦笑いしながら謝ってくる。


 まぁ、この様子だと、そこまで本気で思っていたわけではなさそうだ。


 クレアの瞳の奥が揺れる。服の胸元をぎゅっと掴むと、少し悲しそうに俯いた。


「自分でも、よく分からないんですけど、リエル先輩が、その……そういうことをしている姿を想像すると、モヤッとして、嫌だなって……」


 心の中で、クレアに平謝りする。


 朝から不快にさせて、本当にごめんなさい。


「ルゥナ、誤解を招くようなことを言わないでくれ。俺が襲ったみたいな言い方は止めろ」


 ルゥナは、薄っすらと目を開けて、瞬きを一つ。


 俺を見上げながら、不思議そうな表情をして、口を開いた。


「んぅ……? ……襲われたのは私、だよ?」


 ああ、そうだな。確かに、アサシン・シルバーウルフに襲われたけどな!?


「け、ケダモノっ!」


 顔を耳まで真っ赤にして、クレアは上ずった声を上げる。


 今度こそ終わった。完全にアウトである。


 あー……ったく。


 もう疲れたし、寝ようよ。俺も仮眠をとっておきたい。魔力切れによる倦怠感が、まだ残っているのだ。


 ミサを起こして、見張りをさせよう。というか、早く起きて、場を丸く収めてほしい。


「クレアも、一緒に寝るか?」


 ルゥナの頭をガシガシと撫でて、もう片方の手で手招きしながら、クレアに笑いかける。


「はぇ? ……え、えっと、それはどういう」


 彼女は顔をさらに赤く染めて、口をパクパクさせる。


「三人で一緒に」



 悲鳴が上がった。



 ルゥナのこと、強く言えないかもしれねえ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] うん。良かったと思う。 ルゥナさんが可愛ければそれでいいよね。() [一言] そして最後!(笑)
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